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大阪アジアン映画祭2011リポート
『父、吠える』ティーチイン&イ・サンウ監督インタビュー

Reported by 加藤知恵
2011/6/13


 『トロピカル・マニラ』(2008)以降、海外の映画祭で高い注目を浴びる韓国の奇才イ・サンウが、『ママは売春婦』(2009)、『オール・アバウト・マイ・ファーザー』(2010)に引き続き、歪んだ家族の姿を描いた衝撃作。

 知的障害を持ち過食症の長男と芸術志向でポルノ狂の三男に挟まれ、母親代わりに貧しい家計を切り盛りする二男。絶対的な権力を持つ父親は、三人の息子に容赦ない暴力を浴びせながら、溺愛する中国人少年を家に引きずり込み、散財を重ねる。そんな不安定な家族の構図に知的障害を持つ一人の女性が入り込んだことをきっかけに、一家は一気に崩壊へと向かう。完全に理性を失った父親は暴走し、最悪の結末を迎えるが…。

 師であるキム・ギドク監督の映画に負けず劣らず、感覚的・心理的に「痛い」作品。目を背けたくなるような暴力シーンや性描写が所々に溢れている。しかしそれによって真っ白な雪の美しさや、唯一常識的な感覚を持つ二男の切ない心情や、知的障害を持つ長男の純粋な心が際立っているのも事実だ。

 人は誰しも本能的な欲望や醜い感情をどこかに抱えているわけで、長男や三男、父親はその一部分が極端に露出されているだけとも言える。そう考えると、最終的に全員の人格が二男によって統合されるラストがハッピーエンドにも感じられ、鑑賞後には安堵の交じった不思議な感動を覚えた。

 会場も上映中は常に緊張感が張り詰め、上映後には観客席からどっとため息が。監督の登場でやっと作品の世界から開放されたかのように、温かい拍手が沸き起こった。


アジアン・ミーティング大阪2011が開催されたプラネットプラスワン

『父、吠える』ティーチイン

2011年3月13日
プラネットプラスワン
ゲスト:イ・サンウ(監督)、イ・テリム(長男役)、ユ・エギョン(女優)、ペク・スンウ(プロデューサー)

── [司会]上映としては3本目の作品ですよね。前作『ママは売春婦』はお母さんが娼婦という題材で、最初の『トロピカル・マニラ』もそうですが、父親あるいは母親と子どもとの関係性が、いつもイ・サンウ監督の作品の軸になっていると思うのですが、その辺りを説明していただけますか。

[監督]最後まで見て下さってありがとうございます。おっしゃるように、公式的に上映されるのは3本目ですが、韓国では8本目の長編作品なんです。これだけ何作も撮って、(韓国内の)メジャーな場では、昨年初めて釜山国際映画祭で上映されました。何年間か海外を巡った後、前作と併せて韓国内で紹介されることになり、とても嬉しいです。たくさんの観客の方が見て下さって、こういう映画祭に招待していただけるのもありがたいです。母親に関しては、アメリカに長期留学していた時、一度大きな事故に遭ったんです。母と電話で通話中に、誰かが公衆電話に仕掛けた爆弾に気付かずに触ってしまい、爆発して死にそうになったという…。アメリカでもトップニュースになり、偶然、映画祭でその話をしたところ、その事故を素材に映画化も決まりました。恐らく私が監督・主演をするのは難しいですが。その時に左目を失い、耳も遠くなりました。母親と通話中の事故だったので、私の作品には母に関する記憶・幻が影響しているのだと思います。私の作品には母親に執着する主人公が登場しますが、何ヶ月も病院で生死をさまよう間に、もう二度と母には会えないのではないかという思いもあり、作品の主なメッセージになっているのではないでしょうか。

── [司会]日本では、威厳のある父親というのがほとんど存在しなくなっていますが、韓国は父親の絶対的な権威や、そういう父親と息子の構図が現実に残っているわけですよね。

[監督]海外の映画祭で上映の度に、なぜ息子は父に逆らわないのか、殺さないのかという質問や、韓国内でこういう暴力事件が未だに多く発生しているのか、という質問が挙がります。父親が息子に暴力を振るうという内容は、韓国のSBSで放送されていた実話をそのまま使っています。それとフィリピンに長期滞在して映画を何作か撮りましたが、フィリピンでは、韓国の50代・60代の男性が地元の10代の若い男性と同棲するケースがよく見られます。家庭のある男性がずっと自分の性的嗜好を隠していて、フィリピンに行ってゲイの少年と関係を持つという話がとても衝撃的で、その二つの話を併せました。権威については、大分薄れてはいるものの、未だに私の父親の世代まではそのような権力構造が残っていて、子どもは耐えなければいけないという意識があります。ただこの作品の父親は、家族を養うため何十年も自分の性癖を隠していて、妻も死んだ今、家族の犠牲になるよりは自分の欲望に正直になろうとしているわけでして、一人の狂った父親の話というよりは、人間のあらゆる欲望に関する話です。


左からイ・サンウ監督、長男役のイ・テリム、ユ・エギョン、ペク・スンウ プロデューサー

── [司会]それでは、来日されている俳優陣にも入っていただきましょう。長男役のイ・テリムさんと女優のユ・エギョンさん、それと今作品のプロデューサーで次回作の主演のペク・スンウさんです。それぞれ監督との関わりや、出演の経緯を教えて下さい。

[イ]こんにちは。長い作品で、鑑賞される方も大変だったかと思います。ありがとうございます。まず俳優の立場としてシナリオが気に入り、役柄自体がとても魅力的だったので出演を決めました。監督は10年来の友人で、今回初めて俳優・監督として一緒に仕事をしたのですが、寒かったこと以外は最初から最後までとても楽しく、幸せでした。以前2001年にアメリカで一緒に映画を作る計画がありましたが、その時は実現しませんでした。

[ユ]こんにちは、ユ・エギョンと申します。イ・サンウ監督の作品にはこれまで3本出演しており、『ママは売春婦』ではヒス役を演じています。イ・サンウ監督の作品は他の監督に比べて特殊で、女優としても勇気のいる作品で、挑戦するという気持ちでずっと参加しています。撮影中は本当に涙が出るほど寒くて苦労しましたが、それでもアットホームな雰囲気の中で楽しく撮影ができました。

[監督]一昨年の12月30日から1月10日まで撮影しましたが、韓国で雪が最高に降った時期でした。

[ペク]私は監督とこの作品で初めてお会いし、プロデューサーを担当しました。次回作の『私は日本映画ではない(仮)』では主演を務める予定です。

── [司会]ペク・プロデューサーは元々知り合いではなかったということですが、監督からどのように依頼を受けたのですか。

[監督]今回、資金調達などの一般的なプロデューサーの仕事はお願いしていません。飲み代や食費でお金がかかるので、私はいつも前日までスタッフも呼ばないんです。撮影現場でのみ、スタッフや俳優の管理を手伝ってもらいました。

── [司会]では日本でいう制作と助監督を合わせたような役割ですね。スタッフは何人くらいの体制だったのですか。

[監督]撮影監督が大学で講師をしており、私もたまに教えに行くのですが、スタッフは彼の教え子にお願いしました。2つの大学の学生に、申し訳ないですが、皆無料で。美術監督は私の甥ですし。『トロピカル・マニラ』の時はスタッフを大量に使ったのですが、食事代が高額だったので、今回は減らして12人で撮影しました。

── [司会]脚本を読んだ後、演技プランについて撮影前に監督とはどのくらい打ち合せをしましたか。

[イ]私の役は30代中盤の長男で、不幸な事故で後天的な障害を持つ役ですが、決して簡単な役ではないんですね。ある程度はそういう障害者の方の真似をすることもできますが、最大限真実味のある表現をしたかったので、私なりに努力をしました。小さな子どもたちを観察して参考にしたり、カットごとに監督と相談をしたりして、苦労しながらも最善を尽くしたと思っています。

── [司会]事故で障害を持ったという説明は、映画の中にないですよね。

[監督]ありますよ。父親がリモコンでテレビのボリュームを上げる場面がありますが、そこで流れているニュースは韓国内で起きた実話です。子どもがふざけて投げた石が、通りすがりの子どもに当たって脳死状態になってしまったという。国内で話題になり、一時はその地域のアパートの下を、皆帽子やヘルメットを被って通るという騒ぎにもなりました。MBCの朝のニュースで見た話をそのまま取り入れたんです。

── [司会]三男はどのような設定なのでしょうか?

[監督]三男については、顔の片側に怪我を負っていますよね。元々シナリオには、火事になった家に母親が三男を助けに入り、母親だけが亡くなったという設定がありました。三男は母が自分を助けるために死んでしまったという罪悪感や、母親に対する幻想を抱えているのですが、実際にロケ現場の家を燃やしてしまうと怒られるので全部カットしました。

[ユ]私の場合も精神的な障害を抱える女性の役なので、どのように演じるべきか悩みました。電話やミーティングを重ねて、監督から場面ごとに解釈についてアドバイスをもらいました。


左から長男役のイ・テリム、ユ・エギョン、ペク・スンウ プロデューサー

── [司会]現場では監督はどんな方ですか。

[ペク]1月の寒い時期に、いつも監督が良い雰囲気を作り、俳優もスタッフも頑張ろうという気持ちにさせて下さったお陰で、無事に撮影を終えられたと思っています。良い人です(笑)。

── [司会]さっきの話とは違いますが、大丈夫ですか(笑)。

[ペク]嘘をついてはいけないのですが…。良い人です。

── [質問1]とても素晴らしい映画だったと思います。一年前にこの映画館で『ママは売春婦』も拝見させていただいて、お世辞抜きで昨年見た中で一番素晴らしい作品だと思っているので、今日も本当に楽しみにしてきました。個人的には『ママは売春婦』を上回る作品だと思っています。ファンになってしまったので、色々と聞きたいのですが、2つだけ質問させていただきます。一つは『ママは売春婦』も実在のモデルになった事件があったのかということと、僕は日本人なので外国の出来事として受け入れられますが、韓国の方がご覧になると、衝撃的だったり挑発的に写るシーンが多いと思うんですが、本国の観客や評論家の方々がどのようなリアクションをされているのか教えていただけますか。

[監督]『ママは売春婦』と『父、吠える』の両方を見て下さる方が多いのですが、『ママは売春婦』の方が良いという方と『父、吠える』の方が良いという方と、どちらもいますね。個人的には、自分が出演しているので『ママは売春婦』の方が好きですけど。俳優と監督の両立は大変なので、『父、吠える』では俳優を諦めて監督だけを務めました。『ママは売春婦』はもちろん『トロピカル・マニラ』からずっと、私の作品は全て実話を基にしています。『ママは売春婦』は、自分と同年代の息子が母親に数千ウォンで身売りをさせるという事件を新聞の小さな記事で見つけて、それに肉付けをしました。韓国では『ママは売春婦』が、この3月にやっと公開されます。『トロピカル・マニラ』もそうですが、私の映画は韓国社会の暗い面を描いているので嫌われてしまい、当初国内の映画祭ではどこも受け入れてもらえませんでした。日本での上映後、香港で公開され、その後12ヶ国を周った段階で、一体どんな映画なんだと注目を浴びて、公開が決まったのです。『父、吠える』も9月に公開予定ですが、ある意味こんなに不愉快な作品であっても、自分の誠意が通じて受け入れられたのだと感じ、嬉しく思っています。

── [質問2]大変素晴らしい映画だと思います。僕はファーストシーンの時点で引き込まれたのですが、父親がチキンを喉に詰まらせているのに、長男はずっと自分のチキンを食べ続け、三男は目を逸らしていて、二男は背を向けている父親を介抱しているという姿を見た時に、この一家は保守的な健全な家庭ではなく、それぞれの役割が別の何かになってしまっているという、恐怖に似た感情を覚えました。実際のところその理由は、母親がいないとか、父親が暴走しているというような一言で片付けても良いものなのでしょうか。

[監督]先ほどもお話した通り、父親の絶対的な権力を描いた作品ではなくて、長男は食欲、三男は性欲に狂っているように、人間の本能的な欲望を表現しようとしています。ユ・エギョンの役は、この作品の中では母親なんですね。母親なので、父親以外の全ての男性がこの女性の子宮を手に入れようとするという。それにどの家庭も幸せな良い出来事ばかりがあるわけではないですし、異常な父親だけの問題ではなく、それぞれが自分の欲望に忠実な、殺伐とした家庭の姿を描きました。人間が底辺で抱えている性質について表現したつもりです。

── [質問3]長男役の俳優さんにお聞きします。11日間の撮影期間中、自分の役と実際の自分と、どこでどのように切り替えたのですか。戸惑うことはありませんでしたか。

[イ]俳優として、カメラの前では役に没頭しましたが、私生活にまでそれを持ち込むのは良くないと思っています。もちろん演じている期間中、ぼうっとする感覚に陥ることはありました。自分自身のプライベートな内容を考えることはほとんど無かったですし。ある意味幸せな時間だったようにも思います。それに、長い人生において、常に慌しく、決まりきった何かに合わせて過ごす生活の中で、たまにはこのように何も考えないで、空っぽな人生を生きることも悪くないのではないかと思っています。

── [質問4]あまりにも上手だったので、戸惑いはなかったのかなと思いまして。

[イ]ありがとうございます。


イ・サンウ監督インタビュー

2011年3月13日
聞き手:加藤知恵

── 今日はわざわざお時間をいただき、ありがとうございます。今回作品を拝見しまして、あまりにも暴力的な内容と、所々に現れる繊細な描写のギャップに圧倒されたといいますか…。監督ご自身がどんな方なのか、非常に興味が沸きました。まず気になったのは、高校生の時からシナリオを書かれたとのことですが、最初の作品はどんな内容だったのですか?

最初に書いたのは若干文学的な、男女の愛を描いた作品です。でも一般的なラブ・ストーリーではなく、お互いに殺しあうという内容の。1年かけて書いたのですが、驚いたことに初めて書いたシナリオにも関わらず、賞を獲りまして。それ以降シナリオを本当にたくさん書きました。他の監督は、普通1つの作品を3ヶ月から1年程度で書き上げるのですが、私は1週間で書きます。撮影前に書く時もあるし、撮影しながら修正したりもします。

── すごい早さですね。最初から脚本家ではなく、監督になりたかったのですか。

ええ、ずっと監督になりたかったんです。私は中学・高校時代はほとんど学校に行かず、映画館にばかり通っていました。それで監督になろうと思って、有名な監督の家に行って弟子にしてくれと頼んだこともありますが、「高校生なんだから帰って勉強しなさい」と断られました。当時私は勉強に全く関心がなく、映画ばかり見ていました。悪さをするわけでもなく、ただ映画に夢中になっているだけだということで許してもらいましたが、母はとても心配していたと思います。


イ・サンウ監督

── 理解のあるお母様ですね。監督のお父さんはどんな方ですか。やはり厳しい方ですか。

家族の話ばかり撮るので、私の家庭が気になるんですね。私は姉が三人いて末っ子ですが、とても可愛がってもらいました。私の家庭には何の問題もありません。父が暴力を振るうということもなく。そういう平和な家庭で育ったので、逆に幻想を持っているというか。両親に捨てられたり貧しかったり、精神的に辛い生活を送っている子どもたちに関心があるんです。自分が平凡な家庭で育ったので興味があるんでしょうね。私は自分自身の過去やドラマを表現しているわけではなく、韓国の一般的な社会問題を扱っているので、父との関係は良好です。

── ご家族は監督の作品を見て、何かコメントされましたか。

それが問題なんですよ。『トロピカル・マニラ』を上映したとき、母には子どもたちの話だと伝えていたのですが、子どもが男性に性的サービスをするようなシーンもたくさんありまして。上映後に母に恐る恐る「どうだった?」と聞いたら、電話で「うん」と言ったきり病院に行ったそうです。あまりにもショックで1日入院してしまったと。『ママは売春婦』も海外でたくさん賞を獲ったので、近所の人に「どんな映画なの?」と聞かれたらしいのですが、『ママは売春婦』というタイトルも言えずに、ただ「お母さんの話」という映画を撮ったのだとごまかしたそうです。父もびっくりしていました。この作品のタイトルを見て、『父、吠える』(原題『父親は犬だ』)とは何事だと。

── 作品の話に移ります。父の愛人役のハンド少年は中国人ですが、中国人移民という設定には何か意味がありますか。

彼は本物の中国人なのですが、道端で声を掛けてキャスティングしました。韓国語を勉強しに来た留学生ですが、幸い彼は高校時代に演劇の経験もあって引き受けてくれました。しかし韓国の中年男性に体を売る役であることを知って、かなり気分を害したらしく、1日だけ撮影に来て、その後来なくなりました。連絡をすると「こんな不快な映画には出演できない。中国人の気持ちを無視する映画だ」と言って怒っていましたね。それで彼の家に行って、「お願いだから一度だけ出演してくれ」と頼み込みました。台本を見せながら、「体を売る役ではあるけど、韓国を罵る台詞もたくさんあるんだ」と説明して。彼は実際に韓国の悪口を言うシーンでカタルシスを感じていたようです。韓国には現在、東南アジアから多くの移民や同胞が出稼ぎに来ていますが、韓国人相手に売春をする人たちもたくさんいます。その事実に私も衝撃を受けて、自分の故郷や母親が恋しいけれど、お金のために帰れない、という心情を描きたいと思いまして。それでも中国人からすれば、腹立たしい話ですよね。

── ええ、それはまあ。この設定についても実際の社会問題が素材になっているわけですね。

はい、私の場合、新聞記事から持ってくるのがほとんどです。記事を読んで、その後一体どんな展開が起こるのかを想像しながら肉付けするわけです。

── 映画の内容を決めてからアイディアを探すというよりは、常にアンテナを張って素材を探しているということですか。

新聞やニュースは常に気にしていますし、どんな映画を撮ろうかといつも考えています。私の場合、素材が無くて映画が撮れないとうことはありません。これを撮らなければと思ったら、すぐにシナリオを書いて撮影に入るので。

── ティーチインで撮影時の苦労話を伺いましたが、逆に監督が一番好きなシーンや、撮影していて面白かったシーンはありますか。

楽しかったシーンは、中国人のハンドが踊りを踊る場面ですね。

── そのシーンは私も楽しく拝見しました。とても上手でしたよね。

あれはハンド役の彼が「中国人を馬鹿にしている」と怒っていたので、代わりにスタッフが踊りました。実は彼はこの場面があることすら知りません。ラストに仮面を被って女性を襲うシーンも、顔を隠しているので、別のスタッフが演じています。全体的に暴力シーンが多かったので、俳優たちは実際に怪我もしましたし、それが一番申し訳ないですね。

── エンドロールのスペシャル・サンクスにキム・ギドク監督のお名前が出ていますよね。監督はキム・ギドク監督の助監督を務めた経験がおありですが、今回も何か支援を受けられたのですか。

キム・ギドク監督に関しては、長い間お世話になりましたし、私の映画はキム・ギドク監督の作品に似ているという批評もあるので、敬意と感謝の意味を込めて、全ての作品に名前を載せています。アメリカ留学から帰国後、映画を撮りたくて3千万ウォンを持ってフィリピンに渡ったのですが、思うように撮れずお金もすぐに尽きてしまって。このままでは一生何も出来ずに終ってしまうと悩んでいた頃に、監督のチームに入れていただきました(韓国の映画雑誌『シネ21』によれば、『絶対の愛』(2006)の演出部、『ブレス』(2007)の撮影チームに所属)。

── 監督にとっては恩人でらっしゃるわけですね。この2月にクランク・アップされた『fire in hell』はどんな作品ですか。

一人の僧が欲望を抑えきれず、酒を飲んで女性を襲う話です。実際にある僧が女性を強姦した事件がありまして、宗教界でも大騒動になりました。襲われた女性は亡くなりますが、その僧は宗教的な理由でも罪悪感に苛まれ、彼女を火葬して、彼女の家族がいるフィリピンに向かいます。その後はフィリピンでストーリーが展開されますが、結局彼女の恋人も死んで…という宗教と救いに関する話ですね。自分の犯した罪がまた返ってくるという。激しいセックスシーンも登場しますが。

── 衝撃的な話ですね。これまで何度も来日されていますが、日本はお好きですか。日本映画についてはどうですか。

一番嬉しいのは、日本ではいつも私の映画を3回ずつ上映してくれることです。普通は同じ作品を1つの国で一度しか上映しませんが、日本の場合、東京・大阪・京都と三回も。日本の方は映画がお好きですよね。昨年のぴあフィルムフェスティバルでも私の特集を組んで下さって、たくさんの方が喜んでいらっしゃいました。個人的に日本映画も大好きで、特に岩井俊二監督や大島渚監督の作品が好きですね。

── 大島渚監督は分かりますが、岩井俊二監督は意外ですね。

似合わないのは分かります(笑)。でも岩井監督の『Love Letter』のような映画は、本当に撮ってみたいですね。私は『Love Letter』を見て号泣しましたし、今でも思い出すと胸が痛みます。日本映画は面白いですよ。繊細で雰囲気がかわいらしくて、ラブ・ストーリーが多いのも良いですね。


大阪アジアン映画祭 公式サイト http://www.oaff.jp/


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