Review 『セブンデイズ』『二人だ』『貯水池で救ったチーター』
Text by カツヲうどん
2008/5/4
『セブンデイズ』
2007年執筆原稿
辣腕女性弁護士ジヨン(キム・ユンジン)は7歳の娘ウニョン(イ・ラヘ)と暮らすシングル・マザー。小学校の運動会当日、ウニョンは何者かに誘拐され、ジヨンの元に「殺人犯チョルジン(チェ・ミョンス)を一週間以内に無罪にしなければ命は保証しない」という脅迫電話がかかってくる。ジヨンは知り合いの潜伏捜査官ソンヨル(パク・ヒスン)の協力を仰ぎ一緒に犯人を追跡し始めるが、事件の裏側には悲しい愛の物語があった。
監督のウォン・シニョンの前作『殴打誘発者達』は怪作だったが、良く出来た映画でもあった。そこにちょっと映画監督としての可能性が感じられたので、この『セブンデイズ』は楽しみだった。だが、映画は期待を予想以上に大きく裏切るものだった。
映画のタイトルからわかるように、この『セブンデイズ』もまた、D・フィンチャーの『セブン』に対する憧れと敬意に満ちている。だが、中身が『セブン』に少しでも迫れたかというと極めて疑わしい。複雑すぎる物語は、犯人の行動を不自然なものにしているし、トリックのためのトリック、どんでん返しのためのどんでん返しだ。だから映画は冗長でダレたものになってしまい、そこに方向性を完全に間違えたような凝った映像と落ち着きのない編集が加わるので、意識を集中させて観ていることが非常にしんどい作品になってしまっている。D・フィンチャーばりの映像を模倣することは結構だが、最初から最後までそれだけとなると話は別だ。映画が始まって10分程度で、観る側の気持ちはスクリーンから離れてしまう。
出演者たちは悪くない。キム・ユンジンは相変わらず周りから浮いているものの、力強いし、彼女を助けるヤクザな刑事役のパク・ヒスンも熱演だ。ヤン・ジヌも通好みの役柄だ。しかし、不必要なテクニック、表向きの煌びやかさばかりに暴走した映像は、そういった幾つかのよい点を全て帳消しにしている。
最後に意表をついた真犯人の正体が明かされ、その動機がヒロインの胸の内と交差する時、ちょっとだけ映画は感動的になるが、それ以上にこの映画は凝った創意工夫が全く無駄な方向へばかり注がれていたことを改めて認識してしまう。「ウェルメイド」の呪いから、一刻も早く韓国映画が解き放たれることを望みたい。
『二人だ』
2007年執筆原稿
女子高校生ガイン(ユン・ジンソ)は、結婚式で花嫁が投身自殺を図り、運び込まれた病院で惨殺される事件を目撃する。それ以来、彼女の周りの人々が突然豹変し襲いかかりはじめる。事件の謎を解くために、謎の高校生ソンミン(パク・キウン)と共に、田舎に住む叔父の元を訪ねるガインだったが。
ここ2年くらい、ぐっと質が上がりつつある韓国のホラー映画。そんな状況の中で『ラスト・プレゼント』、『ナンパの定石』で若手職人監督としての手腕を成功させたオ・ギファンが、カン・ギョンオク原作のマンガ『二人だ』を映画化したのが、この作品です。ですから色々な意味で注目に値すべき映画だったのですが、ふたを開けたら正直ショボイ出来。古臭いだけのホラー映画という印象しか抱けない作品でした。もしかしたら、2007年度韓国映画ワーストの一本かも。
原作ファンが、がっかり来るのは仕方ないとしても、原作に愛も関心もない人が観ても映画から押入れの乾いたカビの臭いが匂って来そうに感じることでしょう。もともと、マンガの完全映画化などというものは無理なお話であり、別物であって当然なのですが、この映画を観て真っ先に感じたのは、そんなことよりも「一体、何をしたかったんだ?」という疑問であり、そのお古な演出ぶりは「今の韓国で通用しないのでは?」という感想です。
オ・ギファン監督がこういったドラマを描くには大人になりすぎた感がありありだし、無意味としか思えないくらい、刃物を使った殺人の場面が延々と連続し無駄に血が飛び交うだけ。ショッキング演出も古臭く、呆れるだけで必然性が全く感じられません。
おかげで映画は18禁となってしまいましたが、この鑑賞レート制限は本作に何も有益なものはもたらさなかったでしょう。当然、興行的には原作のファン層を狙っていたでしょうから、製作側にとって大打撃であったはず。でも、無意味なスプラッシャーぶりを除けば、この映画を18禁にする理由は全く見当たらず、映画の製作意図が全く理解できない内容になっているのです。
唯一、昔の韓国を描いたシーンだけが丁寧ですが、それ以外は独自の美学であるとか、作家的個性が全く感じられず、手堅く作られてはいても、やはり今時分なんのために企画されたのか、さっぱりわからないことに変わりはありません。
監督のオ・ギファンの、大衆性をいつも中心にすえ、決して手を抜かないオーソドックスな演出に魅力を感じていたのですが、この『二人だ』に関しては、その丁寧さが完全に「今」という狙いを外してしまったようです。これからの韓国ホラー映画は35歳以下の監督たちに期待することにして、オ・ギファン監督には別の分野を期待しましょう。
『貯水池で救ったチーター』
http://chita.ba.ro/
2007年執筆原稿
高校生時代、いじめられっ子だったジェフィ(イム・ジギュ)は引きこもりになり社会との関係を断ってしまう。そしてPCだけに向かう毎日を何年も過ごしていた。ジャンヒ(ユン・ソシ)という若い女性と知り合ったことを契機に、再び外出するようになるが、かつてのいじめっ子ピョ(ピョ・サンウ)と再会してしまう。そしてジェフィがネットを通じて助けを求めた中年男ビョンチョル(チョ・ソンハ)がサイコだったことから、ジェフィの運命は思わぬ方向へと進んでゆく。
いじめられっ子といじめっ子、そして社会と折り合いがつかず犯罪に走る中年男と引きこもり青年。インターネットが取り持つ危険な関係を描いた作品ではあるが、日本と韓国が持つ負の共通性を痛感させられる映画でもあった。映画は最初、ひきこもり青年の再生物語かと思わせるが、始まって早々に団地の中庭に転がる男の死体が出てくるあたりから、監督ヤン・ヘフンが抱えた怒りや焦りといったものが一気に吹き出してくる。
始終淡々としていて、あまり熱は感じられないし、若手作品にありがちな「猟奇的グロテスク」へと走ってしまうところもワン・パターンだが、同じ場所で暮らしていても、それぞれの繋がりは希薄で冷たく、ネットという嘘にまみれた人間関係の方に自分を託してしまう様子は、想像よりも遥かに早く韓国社会が危うい方向に突っ走っている恐怖を描いているかのようでもあった。
韓国社会の抱える問題、特に若者たちが格差化する社会の中で、出口の無い迷路をさまよう絶望と怒りを描いた作品は確実に増えているが、この作品の場合、一応定職につきながらも本当は社会に順応できず、善悪の区別が明らかにできない中年男が登場することが特徴だろう。
主人公ジェフィは20歳。兵役にもついていないし、高校卒、引きこもってインターネットに逃避する絶望的な若者だ。だが、年が若いということは、それだけで本人の気持ちとは別に「明るい未来があるさ」でなんとかなる可能性もある。しかし、おっさんビョンチョルの場合、そうはいかない。
結局、年が離れていても、二人は似たもの同士。映画でジェフィは被害者で終わるが、もしかしたら10年後、ジェフィもまた次のビョンチョルになりうるだろうことを、この映画は暗示する。
この『貯水池で救ったチーター』は、目の肥えた客には若さ丸出しの退屈で特色のない作品かもしれないが、今の若者が抱える闇、そして未来への絶望を積極的に描いてしまったという葛藤に満ちた作品でもあった。
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