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Review 『スカウト』『町内金庫連続襲撃事件』『イブの誘惑/4色:ファムファタール』

Text by カツヲうどん
2008/4/6


『スカウト』

2007年執筆原稿

 1980年。地元高校のスター投手、宣銅烈/ソン・ドンヨル(イ・ゴンジュ)をスカウトすべく、故郷の光州に帰ってきた某大学職員のホチャン(イム・チャンジョン)。久々にかつての恋人セヨン(オム・ジウォン)と再会するが、二人の間には過去のある出来事がいつまでもわだかまっていた。郷土愛に満ちた地元のヤクザ、ゴンテ(パク・チョルミン)の力を借りて、ライバルの大学担当者となんでもありのドンヨル・スカウト合戦を繰り広げる。しかし彼らには運命の5月18日が刻々と近づいていた。

 2007年の夏、光州事件そのものを前面に据えた映画『光州5・18』が大ヒットをしたことは記憶に新しいと思います。しかし、この『光州5・18』は娯楽方向に作品が偏り過ぎているため、事件の背景にある光州の人々の複雑な思い、といったものは感じられない作品でした。

 さて、『スカウト』は冒頭「この映画は99.9%フィクションである」といった字幕から始まります。そして、大学スカウト合戦の目標となる人物はソン・ドンヨル。かつて日本の中日ドラゴンズに在籍し、名古屋を韓国で有名にした、あの韓国人投手の若かりし頃。ここで映画冒頭の説明が深い意味を持ち始めます。しかし、物語が進行しても主人公ホチャンはソン・ドンヨルまで、なかなか辿れませんし、ソン・ドンヨル自身もあまり出てきません。その代わり、スカウトを巡るドタバタの合間に挿入されるのが、ホチャンとセヨンの大学時代。ホチャンは野球のことしか頭にないノンポリ学生ですが、セヨンは民主化運動に積極的に加わっていたことが段々と明らかになっていきます。そして、現実の時間軸では、ドラマが進むにつれて、どういう訳か「5月12日、5月13日」といった具合に日付がカウントされていくのですが、それらの要素がなかなか結びついていきません。しかし、映画が半ばを過ぎた頃、ホチャンが高校生ソン・ドンヨルにコンタクトを果たした辺りから、パッと全てが結びついて、この先、彼らの前に何が待ち受けているか、それがわかった時、言いようのない衝撃が走るのでした。

 この『スカウト』では、光州事件について具体的なことはほとんど触れません。プロ野球の選手となって大活躍するソン・ドンヨルの姿も最後にチラッと出てくるだけです。でも、その「予感させ」、「連想させる」巧妙な語り口は、光州事件というものが光州の人々にとってどういうものであったのかを生々しく突きつけてくるのでした。おそらく巧妙な比ゆ的表現ゆえ、韓国人でもこの演出上の計算がすぐわからなかった人はいたと思います。私は韓国人でもないし、光州にいったこともありません。でも、光州事件をここまで間接的な形で赤裸々に描いた韓国映画は初めてでした。

 もちろん全く正反対の意見もあるでしょう。それは光州の人たちでも同じはず。でも、一介の外国人でしかない私にとって、この『スカウト』という作品は日本人には見え難い韓国人同士の複雑な心の内を、ぐさりと垣間見せてくれた作品であったことは間違いないと思います。

 『光州5・18』は日本での公開が決まったそうですが、それならば是非この『スカウト』も、きちんと日本で公開して欲しいし、すべきでしょう。韓流が幻影にしか過ぎなかったことがわかった今だからこそ、この『スカウト』の価値は輝くのではないでしょうか。


『町内金庫連続襲撃事件』

2007年執筆原稿

 貧しい塗装工のギロ(イ・ムンシク)は病気の娘を救うために、田舎町にある信用金庫に押し入るが、警備員に逆襲されてしまう。しかし、そこに別の二人組マンス(パク・ヒョジュン)、ウサン(チョン・ギョンホ)が銃を持って押し入ったことから、彼らは一緒に籠城することになってしまう。地元警察のク班長が責任者として現場の陣頭指揮を執ることになるが、彼は現場となった信用金庫と浅からぬ縁ある悪徳警官だった…。

 「〜襲撃事件」といえば1999年に公開されたキム・サンジン監督の『アタック・ザ・ガス・ステーション!(原題:ガソリンスタンド襲撃事件)』をどうしても連想するが、この『町内金庫連続襲撃事件』を監督した新人パク・サンジュンの脳裏にも『アタック・ザ・ガス・ステーション!』へのリスペクトがあったのかもしれない。もっとも、全く関係ない者同士がひとつの場所、ひとつの事件を通して、予想外に絡み合っていくという構図はドタバタ喜劇における定番だから、基本に忠実に、という賢明な方針に従った結果かもしれない。

 ペク・ユンシク、イ・ムンシクといった、若者向けマーケットに逆らうようなキャスティング、ギロと娘の切なくも悲しいドラマ、複雑に込み入った展開と、基本的には丁寧にマジメに作られた作品だ。だけど、ちっとも面白くない。この『町内金庫連続襲撃事件』は、ウェルメイドな企画を目指しつつ、結果的に古臭いだけの映画になってしまったようだ。それはアクションでもコメディでもなく、遊び心もイマイチ欠如した真摯過ぎる演出姿勢のせいかもしれない。『アタック・ザ・ガス・ステーション!』がなぜ面白かったか? それをここで説いても仕方ないが、あの映画には当時の韓国映画の風潮を超えた、開き直りの突き抜けた力が漲っていたのは確かだと思う。そしてキャスティングも新鮮だった。でも、『町内金庫連続襲撃事件』にはそういったものが全くない。新人監督にとって、もしかしたらこれ一本で終わる可能性が高い韓国映画界だからこそ、確実性よりも突き抜けたヤバさがないと面白い映画にはならないと思うのだが、最近の若手作品と同じであまりにも堅実すぎた。

 ペク・ユンシクとイ・ムンシクという、アイドルには程遠い俳優の個性を活かすには、あまりにも演出に威勢がない。この『町内金庫連続襲撃事件』も作る側と作らせる側の相性があまり合わなかったようだ。逆に、古臭い企画だったからこそ、新人よりも仕事を干された中堅監督たちが撮るべきだった。彼らこそ、こういったオーソドックスな企画の意味を活かせる世代だからと思うからだ。

 この『町内金庫連続襲撃事件』は、どこにもよるべきところが見つからなかった、ちょっと気の毒な印象の作品だ。


『イブの誘惑/4色:ファムファタール』

https://blog.naver.com/eroticeve.do
2007年執筆原稿

 この『イブの誘惑』は「悪女」をテーマに4人の監督が撮った、『エンジェル』『良い妻』『キス』『彼女だけのテクニック』という全く異なる4本の作品から成立する連作になっていて、一週間に一本づつ公開されました。製作と配給はケーブル・テレビ大手のOCNが担当し、全編HDで撮影、映画公開後にテレビ・ネットワークで放映と、日本のWOWOWが時々行うオリジナル・ドラマの手法を踏襲したような企画になっています。OCNはちょっと前から、こうした「映画」と「テレビ」の中間を狙ったオリジナル作品を作り始めていて、そのテイストは俗にいう「韓流ドラマ」とはかなり異なるものです。現時点で業界に大きな影響を与えているとはいえませんが、作品のスタイルという面で低予算ながらも比較的自由がきくように見えるので、近々映画として大ヒット、注目される作品が出る余地は十分あると思います。

 今回、残念ながら『イブの誘惑』全てを観る事が出来なかったので、観たものだけ紹介したいと思いますが、どれも一個の作品として独立しているので、バラバラに観ても問題はないでしょう。


『良い妻』

 映画監督のジニョンは、ある日、一人の女と行きずりの関係を持つ。しかし、彼女はジニョンが慕うプロデューサー、サンホの妻イネだった。サンホはイネが自分を殺そうとしている事を仄めかすが、調査を始めたジニョンの前で彼女は不可解な行動を取り始める。

 この作品は、韓国映画の一ジャンルであるシュールな現代劇、例えば『甘く、殺伐とした恋人』などの系譜に繋がる内容になっています。監督のクァク・チョンドクは、やはり優れた現代劇でもあった『欲望 Lovers(原題:おいしいセックス、そして愛)』でシナリオと製作を担当していましたが、この『良い妻』は決してエロでもサスペンスでもなくて、一種の不条理劇としての面白さがたくさん詰まった、なかなか見所のある作品になっています。

 映画の冒頭はどちらかといえばコミカル。ワン・パターンなエロ系メロとみせつつも、物語が進行してゆくにつれ、シュールな現代劇へと変化してゆきます。映画の最後にはショッキングな結末が待っていて、人によっては不愉快なオチかもしれません。

 イネ演じたチン・ソヨンがなかなか好演で、サンホと心中を図ろうとするシーンでは非常に優れた演技を見せます。そして本作ではなんといってもサンホ演じたアン・ネサンが秀逸です。とにかくここ最近、役柄に関係なく映画に出すぎな感のある彼ですが、表情と視線だけで、どうしようもなくなった男の焦燥と狂気を熱演しています。

 一時間30分の小さな作品ですが、途中だれることなく最後まで緊張感を引っ張っていった点で非常に面白い作品だったといえるでしょう。


『彼女だけのテクニック』

 外科医ジフン(キム・ジワン)は名うてのプレイボーイ。ある日彼は出張先で不自然にセクシーな美女ヘヨン(ソヨン)をナンパするが、袖にされる。だがそれは全ての恐怖の始まりにしか過ぎなかった。

 「女性の裸」「やっているシーン」があれば後はなんでもO.K.。かつての日活ロマンポルノを連想させる作品が、この『彼女だけのテクニック』。とにかく内容はてんこ盛り。話は分裂し、なにがやりたかったのかよくわからない作品になってしまいました。おそらく監督のユ・ジェワンは、最近お決まり「ウェルメイド」の法則にのっとり演出を試みたのでしょうが、結果この作品で一番必要なかったのが「悪女」というテーマであり、「裸」と「セックス」だったようです。無駄にしか思えないセックス・シーンが延々と続く上、ヘヨンの不自然なセクシー悪女ぶりはコント。どんでん返しにどんでん返しを繰り返す物語も、どんどん「悪女」というテーマから離れてゆくありさま。最後、ジフンにとってショッキングな展開が待ち受けていますが、これは彼がひどい悪人だったからであって、完全に自業自得。観る側としては同情の余地なし、といったところです。監督のユ・ジェワンは短編でそれなりに評価を受けているようですが、まだまだ勉強不足といったところでしょうか。


 今回の企画の中で『キス』をインディーズの雄、ナム・ギウンが手がけており、これが最も観たかった作品でしたが、残念ながら鑑賞のチャンスに恵まれませんでした。「悪女」と「セクシー」というテーマゆえ、手がけた監督の個性が各作品の出来不出来に反映した企画だったとは思いますが、2006年に韓国公開されたホラー・オムニバス『ある日突然』などよりは遥かに面白く、これからの韓国映画のあり方であるとか、方向性であるとか、色々感じられた企画だったと思います。

 韓国では映画監督が実質使い捨てであり、逆にあるジャンルで当ててしまうと、それ以外の企画は一切ダメに近い状況になってしまうことは、よく知られた事実ですが、今回の『イブの誘惑』は、そういった偏向ぶりに影響を与える可能性を感じさせます。なぜなら低予算であっても決して安っぽくなく、内容も大衆性から外れていないのに監督の個性がきちんと出ていたからです。四作のうち二作しか観ていないので、こういった総括をしてはいけないのですが、ほされてしまったベテラン監督であるとか、ほったらかしの若手監督などにとっては、観客や投資者に向けてのよいアピールの機会になりそうな気がします。もしOCNが同じような企画をこれからも行うのならば、今度はベテランたちをそろえて、コメディ派監督にはサスペンスを、アクション派にはラブ・ストーリーを、などという変化球技を挑戦させることができれば、この『イブの誘惑』は、とても意味のあるものになるでしょう。


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