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Review 『ブレス』『ソウルウェディング〜花嫁はギャングスター3〜』
『黒い家』『永遠の魂』

Text by カツヲうどん
2007/10/14


『ブレス』

http://www.cinemart.co.jp/breath/
2007年執筆原稿

 自殺をはかり声を失った死刑囚チャンジン(チャン・チェン)と、作曲家の夫(ハ・ジョンウ)との関係に苦しむ人妻ヨン(パク・チア)の奇想天外かつ不可解な愛の現象を描く。

 「もう撮ったのか、キム・ギドク」
 「こりゃあ、困ったな、キム・ギドク」

 そんな二言だけしか出てこないキム・ギドク監督の新作が、この『ブレス』。低予算、早撮り、ロジックを超えた本能的な映画演出は彼最大の武器であり魅力なわけですが、それがすべて裏目に出てしまったとしか思えません。

 キム・ギドク作品は、最近、日本の雑誌でも「トンデモ映画」として紹介されつつありますが、全体を通してみれば極めて個性的であっても決してトンデモ系とはいいきれません。しかし、中にはそう表現されても仕方ない作品もあるわけで、この『ブレス』は久々のトンデモ・ヒットというところでしょうか。

 キム・ギドクの映画は、一種の体系を形作っていて、『コースト・ガード』くらいまでは明らかにその路線だったのですが、国際的に認知度が高くなればなるほど、その体系は崩れ始め、なんでもありになりつつあるような気がします。これはおそらく、監督自身の年齢に沿った思考の変化や生活の変化が大きいとは思うのですが、前作『絶対の愛』や『弓』、『春夏秋冬そして春』あたりから、方向性が一貫しなくなり迷走しているように感じるのは私だけでしょうか? ただし、この『ブレス』もまた従来の映画ではない、と考えれば、そこに新しい価値を見出すこともできるやしれません。

 キム・ギドクの映画は一貫して絵画や絵のフレームといったものにこだわり続けてきましたが、『うつせみ』あたりから、どうも彫刻に代表される「ものの形」を、映画の手法を使って捉えることを始めたような気がします。劇中、やたらとオブジェが出てくるのは前作『絶対の愛』と同様ですが、今回は物語がどうの映画文法がどうのといったことは今まで以上にどうでもよくなって、フレームに収められた「ものの形」、つまりカメラと俳優を使って、彫塑の試みをはじめているかのようでした。

 今回は露骨な実験映画であり、久しぶりに好き嫌いが真っ二つに分かれる作品になっているといえそうです。


『ソウルウェディング〜花嫁はギャングスター3〜』

原題:組暴の女房3
2007年執筆原稿

 一作目がヒットしてからはや5年。第二作が公開されてから約3年。やっと第3作目が公開されました。当初の企画では、第2作のラストに出てきたチャン・ツィイー演じる中国マフィアの女ボスと、シン・ウンギョン演じる韓国ヤクザの女ボス、ウンジンの戦いを描く予定でしたが、諸事情で全く仕切り直して新しい物語として完成したのが、今回の『ソウルウェディング〜花嫁はギャングスター3〜』です。

 主演のアリョン役に台湾出身の中国語圏トップ女優、スー・チーを据えて、脇にイ・ボムスを中心にした韓国人中堅俳優を配したキャスティングになっていますが、映画のテイストは紛れもない韓国映画そのものであり、香港ロケが多くても中国人が描く香港とは視点の違う部分がところどころに見られるので、決して香港アクションの二番煎じになっていません。ただ、異なる言語圏のキャスト&スタッフの現場なので、中国語が堪能な人から観ると少々ヘンかもしれません。

 編集中の予告を観たとき、スー・チーの演技にかなり不安を覚えたので、ちょっと危ないかな?と正直感じましたが、本編を観た限りでは彼女は非常にうまく立ち回っていて、女優としての勘のよさを伺い知ることが出来ます。また、韓国ヤクザ、ギチョル役のイ・ボムスと、通訳ヨニ役のヒョニョン、手下演じたオ・ジホとチョ・ヒボンの組み合わせがワン・パターンながらも手堅く脇を固めているので、安心して観ていられました。特にヒョニョンはかなりの好演で、準主演といってもいいくらいです。アリョンとヨニ、この二人の女性キャラクターは、オリジナルのヒロイン、ウンジンを分割して代役しているともいえる部分があって、そのためでしょうか、映画の内容は一新しているようでも、一作目のテイストが好きな方には映画を観ているうちにウンジンの姿がいつの間にか瞼に浮かんで来ると思います。

 チョ・ジンギュ監督による笑いの演出は、ベタで笑わせるよりも思いっきり溜めた後、小出しのオチでクスリと笑わせるスタイル。ですから、大げさな大陸系ギャグが好きな観客層には、ちょっと厳しいかもしれませんが、通の観客にはウケるタイプの笑い。しかし、今回もチョ・ジンギュの持ち味は、韓国のマーケットにそぐわないのではないか?と感じてしまいました。本作のスピーディーな切り方の編集は明らかに演出のテイストと合っておらず、かなり無理を感じるところがあったからで、これはチョ・ジンギュ監督の前作『オッケドンム』でも多々見られたことでした。シナリオ的には、人間関係の説明が唐突でかなり大雑把な印象を受けます。アクションも低調でキレが悪く、香港アクションの派手な立回りを期待するとがっかりでしょうし、他の韓国映画と比べてもテンションを低く感じました。

 この「チョポク・マヌラ(花嫁はギャングスター)」シリーズ第一作がなぜヒットしたかについては、当時色々と論議されましたが、当時も今も決して全ての観客が好意的に受け入れた訳ではありません。「チョポク・マヌラ(妻がヤクザ)」というキャラクター・ブランドは韓国映画において貴重な存在なのですが、逆に有名になったことが続編の監督や俳優たちに色々とマイナスをもたらしてしまいました。第一作に比べてチョ・ジンギュの演出が慎重になりすぎてしまったのは、納得ゆかないことでしょうし、企画が企画なので有名な男性俳優へのオファーが難しくなっていることもシリーズ先細りの原因になっています。本シリーズのアイコンであった女優シン・ウンギョンは、一番とばっちりを喰った感さえあって、その後の活躍へ繋がって行かなかったことも残念でした。

 今回の第三作は、気張った大作になってしまったことも失敗。次はもっと小振りでいいから、肩の力を抜いて作って欲しいものです。韓国では『男はつらいよ』のような定番シリーズを一つは確立させるべきです。定番とは決してマンネリではなくて、多様性を支えるためにも必要だと思うからです。この手のジャンルは今も昔も韓国のコアな映画ファンはやっきになって存在を無視しようとしますが「映画は大衆性があってこそ」ということも忘れてはならないでしょう。


『黒い家』

2007年執筆原稿

 最近の韓国映画は日本の原作物とかリメイクばかりでちょっとウンザリ。それだけ日本製コンテンツは魅力があるのかな?という嬉しい面もありますが、日本の物事を表立って肯定したがらない韓国人が抱えている矛盾露呈のようでもあり、ちょっと複雑です。こういった日本ものの流行が、かつてアニメや食品などで発生した商標権の問題などに発展して欲しくないものです。

 さて、韓流ブームが遺した肯定的な面として、韓国と日本の企業が正式に提携ビジネスを行いやすくなった、ということがあるでしょう。本作『黒い家』も、原作小説の諸権利を管理する日本の出版社と、韓国の大手映画会社のきちんとした提携があったからこそ生まれた合作ですが、日本・韓国の市場を考慮した意図が本作にあったとすれば、日韓合作ビジネスがまともになればなるほど、無難な企画しか廻らなくなる予兆にも思えた映画であり、正直手放しでは喜べませんでした。ただ、この企業同士の提携があったからこそ、韓国側としては日本への窓口が出来たわけで、今後ともよりよい方向に発展していって欲しいものです。

 本作は貴志祐介の傑作小説『黒い家』をかなり忠実に韓国で映画化した作品です。日本の森田芳光監督版がかなり自己の作家性重視であったことに比べると、極めてオーソドックス。冒険をしないアレンジが行われた作りになっています。監督のシン・テラは、韓国では珍しくSFネタにこだわっているクリエイター。確かオリジナルのSFスリラーを企画中と聞いてはいたのですが、結局リスクの少ないであろう本企画においてメジャー商業映画デビューと相成ったようです。ですから、彼の新人としての慎重さといったものが映画から感じられ、非常にエネルギーに欠けます。そして結果、映画を凡庸で半端な内容にしてしまいました。

 原作小説の素晴らしい点は、ホラーやサスペンス映画の記号を大胆に取り入れつつも、この世に潜むサイコパスの恐怖を巧みに現実的に描いたことでしたが、森田芳光版がそこら辺の描き方をいささかコミカルにアレンジしたことに比べ、シン・テラはあまりにも「普通」で「生真面目」。確かに、保険金狙いの夫婦の行動とそのキャラクターというものは、たとえ映画の中であっても、原作のマインドそのままを持ち込んでしまうことは今の韓国でも、あまりにも反道徳的で、ブレーキがかかるのは仕方ないのですが、大勢の観客はがっかりしたのではないでしょうか? 小説も踏まえた上での、日本版との大きな違いは、このイカれた夫婦がそれなりに人としての感情をギリギリ持っていた、というヒューマンな解釈がなされていたことでした。これについては賛否両論あるでしょうが、筆者としては本作品一番の失敗であり、全てをぶち壊すアレンジであったと思います。

 演出も凡庸です。そこそこまとめていますが、映画的な美学や個性はあまり感じられないし、俳優たちの演技も特筆すべきものが全くなしで、面白みがありません。ただ、そういった演出的なブレーキの原因が、韓国映画の環境下にもあったとすれば、シン・テラ監督にとっても悲しいことだったのかもしれません。

 保険調査員ジュノを、破壊的演技力のファン・ジョンミンが演じていますが、必然性のない、よく理解できないキャスティング。役割が逆であればきっと面白かったのでしょうけど、お堅いメジャー企画では、それも無理なのでしょう。一番ダメだったのは、やはりサイコパス夫婦を演じた二人です。俳優としての良い悪いではなくて、キャラクターの味付けが弱すぎ、驚きが全くありません。韓国の俳優からすれば体裁の悪い、今後の仕事に影響しそうな役柄なのはわかりますが、とても弱い配役で韓国版の出来をさらに損ねています。この二人を演じることが出来る俳優は韓国にいるとは思うのですが、そういう人たちをキャスティング出来なかったことは、とても残念でした。

 今回、この映画を観て痛感したのは、小説『黒い家』が韓国を舞台に韓国映画として製作されるには、まだまだ早すぎた、ということです。こういう作品を作るには、今だ韓国は真面目で健全すぎるような気がしました。でも、そこら辺の多様性が社会で自由にならないと、韓国映画は一層つまらなくなっていきそうな気がします。今、韓国の若者たちの間で日本映画がちょっとしたブームになっている背景には、そういった渇望があるのではないでしょうか?


『永遠の魂』

https://cafe.naver.com/2007eternal/
2007年執筆原稿

 大学でドイツ語を教えるスヨンの前に、突如、蝶々が現れ、彼を導く。その脳裏に蘇る軍政下の青春と不思議な恋の想い出。スヨンは授業そっちのけで、大学時代の奇妙な想い出を学生たちに語り始める。

 死者と生者。この『永遠の魂』は決してホラーではありませんが、両者の深くて見えない結び付きを描いた、ちょっと変わった幻想的な作品です。主人公のスヨンは、南北戦時下体制が色濃い1970年代末期に大学時代を過ごしますが、そこで二人の女の子と出会い、心惹かれます。しかし、その二人が必ずしも生者であるか、といえばそうでもなかったところに、「死者と生者」というユニークなテーマが浮かび上がってきます。そして彼女たちとの不思議な記憶が、中年になった現代のスヨンと過去を結びつけるキーワードになって、物語は進行していくのです。

 日本の怪談話では「死者と生者の共存」という概念はお馴染みであり、死者は必ずしも恐ろしいものではありません。しかし韓国では、日本でいう「幽霊」を「鬼神」と呼ぶように、「死者と生者」の境はあやふやであっても、死者とは生者を超えた存在であり、畏怖すべきものであることが前提となっていることが多いようです。しかし、この映画で描かれた二人の女性、スヨンに忘れられない想い出を残した謎の少女ピッピと、やはり謎の高校生スジも、どちらかといえば恐ろしい「鬼神」ではなく、日本でいう「守護霊」に近いものであり、常にスヨンを導いてゆく存在として描かれていきます。ここら辺の解釈は人それぞれでしょうが、溝口健二監督の『雨月物語』を連想させる美しさがあって、韓国映画では非常に珍しいタイプの映画であると思いました。

 物語の舞台は世間が騒然としている1970年代の韓国であり、北朝鮮の飛行機が侵入した事件が大きな悲劇となって主人公の一生に影響を及ぼすのですが、そこにはよくある懐古主義であるとか過去への悔やみ、ということよりも、「死者と生者は時間を超えて共存し続ける」というメッセージが聞こえてくるようでした。映画はかなりの低予算ですが、そこら辺を逆手にとった演出がされているので、きちんと時代感は出ていますし、あくまでもプライベートな目線で表現されているので、逆にその閉塞感が心地よい幻想的な雰囲気を醸し出しています。

 現代のスヨンをチョン・ジニョンが演じ、一種のサプライズになっていますが、ファン・ギュドク監督とは無名時代からの知己ゆえの出演と聞いて、どこか映画のテーマと重なるものを感じさせます。また、キム・ミンソンが好演していて、彼女本来のパーソナリティーというものが、いい意味でよく出ていたと思います。それゆえ、この映画が持つ「死者と生者」という微妙なテーマは、明るく救いのあるものになったのではないでしょうか。

 本作は地味であり、描かれているものも一般的ではありませんが、なにかホッとするようなものを秘めた、珍しいスタイルの異色作といえそうです。


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