HOME団体概要support シネマコリア!メルマガ登録サイトマッププライバシー・ポリシーお問合せ



サイト内検索 >> powered by Google

■日本で観る
-上映&放映情報
-日本公開作リスト
-DVDリリース予定
-日本発売DVDリスト
■韓国で観る
-上映情報
-週末興行成績
-韓国で映画鑑賞
■その他
-リンク集
-レビュー&リポート
■データベース
-映画の紹介
-監督などの紹介
-俳優の紹介
-興行成績
-大鐘賞
-青龍賞
-その他の映画賞


Review 『カンナさん大成功です!』『頭脳遊戯プロジェクト、パズル』
『秘愛 Secret Love』『同い年の家庭教師』

Text by カツヲうどん
2007/4/22


『カンナさん大成功です!』

原題:美女はつらいの
2007年執筆原稿

 この作品は2006年末から2007年初頭にかけて公開された韓国映画の中で最大のヒット作となりましたが、意外にヒットを期待していた人は少なかったのでは? 主演のキム・アジュンは一応売れっ子ですが、映画の主演は今回が初めてであり集客力は未知数。共演したチュ・ジンモは映画がサッパリの俳優。その他のキャストはもっと地味で、スター目当ての映画というには、ちょっと確実性に欠けます。また、原作が日本の漫画『カンナさん大成功です!』(鈴木由美子作)であった点や、アメリカからスタッフを呼んだ大掛かりな特殊メイクの採用といった点も、クリエイター的には意欲作ではあっても、商業的確実性という点では実験的な企画だったと思うのです。

 しかし、公開してみたらダントツの大ヒット。同時期、他の韓国映画がパッとしなかったり、公開本数が多すぎたりといった原因もありますが、色々な点で注目に値する作品になったのでした。原作は未読なので、比較した場合のことはなんともいえませんが、それは無意味でしょう。なにせ、映画と漫画は異なるメディアであって、クリエイターの感性も異なる訳ですから、原作に対する忠実度うんぬんを説いても、饅頭とケーキの優劣を論議するようなものです。

 さて、この映画を読み解く場合、やはり注目したいのは、監督と脚本を兼ねたキム・ヨンファの作家性ではないかと思います。彼は前作『オー!ブラザーズ』で商業作デビュー。同作のヒットが今回の『カンナさん大成功です!』製作へ繋がったのだとは思いますが、両方の作品にいえることは、暖かなヒューマニズムとシビアな人間観察、世間から排除されてしまう異形の者たちを通しての社会批判、といった共通する視点で一貫していることです。『カンナさん大成功です!』を観てもらえればわかることですが、ちゃらちゃらした面は一切無く、ワンカット、ワンカット、地道に絵を積み上げてゆく誠実な演出。ライブコンサートのシーンも格好よさよりステージ上で歌い上げるヒロインの懸命さを描き出すことに力を注いでいます。ですからケレン味に欠けてはいても他の似たような映画とは異なった、感動的な仕上がりになっています。

 キム・アジュン演じたヒロイン、ハンナ(=ジェニ)も、ちょっとひねた性格設定がなされていて、「外見がモンスター、中身は純真」といったステレオタイプではないのです。しおらしい性格と見せかけながら、いざとなったら手段を選ばない狡さがありますし、かといって狡猾というには気弱で優柔不断すぎて、とても人間味を感じさせます。キム・アジュンの演技自体は以前に比べると遥かにうまくなってはいても、表情が乏しいのは今回も同じ。でも、それが意外にも、ヒロイン像にリアリズムを付加しています。もっと演技が巧妙な女優だったら、この映画の印象は大きく変わっていたでしょう。反対にチュ・ジンモ演じたサンジュンは、ガチガチでカルト洗脳されたロボットのようで無残な演技ぶり。この役をもっと上手な俳優が演じて、キャラの人生を投影させるエピソードが加味されていれば、映画はもっと良くなっていたでしょうね。

 『オー!ブラザーズ』の時もそうでしたが、キム・ヨンファ監督は伝えたいメッセージがたくさんあるようで、今回も消化不良気味。編集で無理やりこそげ落としたためにエピソードの単純な羅列になっているところがいくつか目立ちました。ただし、これは監督の技量というよりも、興行的判断とクリエイター側の衝突ともいえるべきものでしょう。

 この『カンナさん大成功です!』は若者向けコメディでありつつも、監督の誠実さが滲み出たかのような作品です。


『頭脳遊戯プロジェクト、パズル』

2006年執筆原稿

 映画は衝撃的な出だしから始まります。謎の黒幕Xから指令を受けた五人のチンピラたちが銀行強盗を実行し、女子行員を人質にして落ち合いますが、待ち合わせ場所では、リーダー格だった男の黒こげ死体がゴロンと転がっているだけ。驚いた四人は疑心暗鬼の駆け引きを始めます。黒幕Xは誰なのか? なぜ俺たちにこんなことをやらせたのか?

 アメリカ映画『レザボア・ドッグス』や『ユージュアル・サスペクツ』を連想させる内容ですが、最近のミステリー系韓国映画はそんな作品ばっかり。ハリウッド的ならなんでもありの今の韓国では、似たような映画がゴーロゴロ、ちょっとお寒い気がします。『頭脳遊戯プロジェクト、パズル』も低予算の作品らしく、場面が限定されていて、映像的にちょっと単調、安っぽさも否めません。出演している俳優陣にも魅力がなくて、面白さは今三歩。

 最大の焦点は黒幕Xが何者であり、どういう動機で犯罪をプロデュースしたのか、という謎解きですが、これもまた賛否両論。謎解きの結果、映画はよくあるお話へと、ますます進んでしまい、もっと純粋な犯罪ゲームとして割り切って描いて欲しかったな、というのが正直なところ。泥臭いなら泥臭いでそれもまた魅力の一つなんですが、韓国映画の場合、「スタイリッシュで格好いいだろう」と製作側が思っているだけで、傍からみればどっちらけ、という事が多いので、変に気張るよりも実直に観せてくれた方が新しい発見もあるんですけどね。

 五人の野郎どもは、それなりには個性的ですが、かなり弱いキャスティング。冒頭でいきなり炎上するリーダー格、ファン役のムン・ソングンは、韓国の重鎮俳優ですが、この人は本当に脇に徹するプロの俳優であって、いくら極悪人を演じても、インパクトが全くありません。その他、今ではすっかり影が薄くなったチュ・ジンモに、「この人誰だっけ?」なキム・ヒョンソン、パク・チュンソクと、個性的なようで、そうでもない面々がヌボーと顔を並べています。そんな中でちょっとだけ印象に残ったのがスキンヘッドのノ演じたホン・ソッチョン。この人、テレビ・ドラマ『悲しき恋歌』ではオカマのバーテンダーを演じていたので、今の日本ではチュ・ジンモより顔が売れているかも。でも、演技的にはテレビのオカマの方が遥かに光っていました。

 ミステリーに関しては小ネタで、映画的な辻褄を合わせるかのような伏線が張ってありますが、いい訳みたいでかなり苦しいです。韓国社会の土壌って、もしかしたらミステリーを作るには向いていないのかもしれませんね。


『秘愛 Secret Love』(再掲)

原題:恋人
2005年執筆原稿

 早い話がナンパの話ですが、ちょっと他の作品と違うのは、主人公の女(ソン・ヒョナ)と男(チョ・ドンヒョク)が、それなりに年を重ねた大人である、ということでしょうか。ただ突っ走ればよかった若い時代の恋愛や結婚というものが、本当に幸せなことなのか、心の中では懐疑的になっている、そんな世代の男女の情事をこの作品は描いていきます。

 ヒロインは決して若くなく、長年つき合った男性との結婚を目前に控えていますが、ある日、エレベーターの中でベンチャー企業の経営者と運命的な邂逅をし、出張先で短い情事を交わすことになります。しかし、女は相手にひかれていても、決して「愛」には至りません。彼女からすれば、あまりにも出会いの時間が刹那的すぎるからです。男も同様に瞬時の間違いとして割り切ろうとしますが、ふっ切れません。道徳や倫理では解決できない男女の出会い。二人は想いを振り切るために結婚ごっこを経て、永遠に会うことのない別れを迎えますが、結婚式を迎えても、女はどこか後ろ髪を引かれつづけるのです。

 この『秘愛 Secret Love』は、正直にいえば退屈な映画です。私が観た回、途中退出が続出、最後まで残ったのは約四人という凄いもので、逆に監督やプロデューサーに同情を禁じえなかったのですが、私も何度、席を立とうと思ったことか(笑)。ただ、ちょっと不思議なのは、観終わって再びこの映画を思い起こすと、的を射ている、というか、未婚の男女が抱いている疑問や不安というものが、実にリアルに内包されていたのではないか?という気にさせられたことです。

 韓国の恋愛事情といえば、すぐ「純愛」とか「一途な愛情」とか、勝手なイメージを日本人は描きがちですが、形式はどうであっても、本質は日本とあまり変わらないのではないでしょうか? あるテレビ・ニュースによると韓国の離婚率は39%におよぶそうですが、その背景には昔の倫理観が、今の韓国の現実に確実に沿わなくなって来ていることがあるのでしょう。実際、韓国においても仕事を持っている女性は早く結婚することに対して抵抗を感じているようにも見受けられますし、「結婚して家庭を持たないのは人間として問題がある」という強迫観念に脅えているのは、実は男性の方なのではないか?と感じることも、しばしばです。この『秘愛 Secret Love』においてヒロインの割り切れない気持ちが象徴するものは、男にしても女にしても、恋愛と結婚は別であり、かつての道徳理念というものは、今では決して幸せの法則ではない、というメッセージだったのではないかと思うのです。


『同い年の家庭教師』

2003年執筆原稿

 日本で評価の高い韓国の映画監督といえば、『気まぐれな唇』、『秘花 〜スジョンの愛〜』のホン・サンス監督が挙げられるだろう。個人的にはあまり好きではないのだが、彼でなくては撮れない映画を作る「作家」であることは間違いない。彼の作品が日本人の前に登場した時、ファンになった方々が受けた感銘や衝撃とは、私がこの『同い年の家庭教師』を観ている最中に感じた一種の驚きに近かったのかもしれない。

 この『同い年の家庭教師』は、まさに次世代の韓国映画界を牽引する新しい才能の登場の証として、今後重要になるであろう作品だ。一見、大ヒット作『猟奇的な彼女』と同ジャンルに分類されがちな映画にも見えるが、似て非なる独特で個性的な映画である。新鋭キム・ギョンヒョン監督の演出スタイルは独創的であり、真似をしようにも出来ない異様な物を持っているのだ。その最大の特徴とは「寸止め感覚」にある。

 ギャグも、アクションも、俳優の演技も、カットのタイミングも、絶妙な寸足らずのリズムで制御されており、その感覚は計算を越えた天性のものを感じさせる。あえて例えるなら、日本の小津安二郎監督の極端に制御されたリズム演出に通じるものを、私は感じてしまう。だから、物語が進むにつれて、その端正なリズムが壊れてしまい、普通のよくある今風韓国映画と化してしまう点は、非常に惜しい。

 主役のスワンを演じたキム・ハヌルは、個性もルックスも平凡で、あまり強いオーラが感じられない女優だが、その普通ぶりが逆にキム・ギョンヒョン監督独特の間合いによって、とても可愛らしく魅力的なヒロイン像を作りあげている。特に、劇中におけるミス・コンのダンス・シーンは、即興演出(であろう)のカットが大変な効果をあげており、キム・ハヌルの表情が生き生きとして素晴らしい。もう一人の主役、金持ちのドラ息子ジフンを演じたクォン・サンウは、シュワルツェネッガーのパロディのようなセリフ棒読み、無表情のキャラクターを演じているが、ここでも監督の「寸止め感覚」は絶大な威力を発揮し、なんとも形容しがたい、おかしな役柄となった。また、ジフンの父親を演じたペク・イルソプと母親役のキム・ジャオクのキャラクターも笑いに拍車をかけて秀逸だ。とにかく妙に世間とずれていて、息子も含め、まさにお金持ちの宇宙人一家という、おかしな雰囲気を醸し出している。

 この『同い年の家庭教師』は、従来の韓国映画にはないスタイルを持っているため、往年の作品スタイルが好きな韓国映画ファンの一部には少し違和感と抵抗感を与えるかもしれない。その意味で、一般の映画ファンの方々に、積極的に観て評価を下して欲しい作品だ。韓国映画の未来形を示す作品である。


Copyright © 1998- Cinema Korea, All rights reserved.