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Review 『ヨコヅナ マドンナ』『ウォンタクの天使』
『ファミリー』『Mr.ソクラテス』

Text by カツヲうどん
2006/12/3


『ヨコヅナ マドンナ』

 この映画、もしかしたら「凄い映画」なのかもしれません。でも、何が「凄いか」を説明するのがとても難しいのです。とにかく内包されたものが濃密で複雑かつ繊細、多岐に亘っていて、いちがいにどういう映画であるか説明しがたいところが、まず「凄い」理由の第一でしょうか。これは何事にも明確さ、端的さを強要される韓国映画においては異端。でもこの映画はあくまでも一般的な商業映画であって、難解な作家作品ではないところも、これまた異端。

 周防正行監督の『シコふんじゃった。』に話や演出が類似している、という指摘もできますが、スポーツ勝ち抜きコメディではないのです。一応、主人公が目的を持って韓国相撲(シルム)トーナメント大会で優勝を狙う話がバックボーンになってはいますが、それはあくまでも福神漬けの役目。カレーとご飯はまた別に存在していて、カレーの部分は性同一性障害に悩む主人公オ・ドング(リュ・ドックァン)の格好悪い日常であり、ご飯の部分は彼のみっともない家族のドラマだったりと、韓国では建前的な風当たりが強かろうテーマが幾重にも折重なっているのです。しかしその口当たりは軽やか、あまりにも無常。まるで『平家物語』の出だしの口上。

 重厚なテーマ性をかこちながら、それが押し付けがましく出てこない、そしてコメディの体裁をとっているようでも、独特の外したリズムで、淡々とシビアな物語を描いてゆく。こういった映画は、韓国ではめったにない作品といえるのではないでしょうか。ジェンダーの問題は、韓国ではどうしても大げさで深刻か、馬鹿にしたお笑いになってしまいがちですが、『ヨコヅナ マドンナ』では、就職や受験、恋愛などと同じく、ごくごく日常におけるパーソナリティの問題として、カリカチュアなしで、さらりと描いてゆきます。

 シルム部の描写も独特であり、ちょっとシルムそのものをおちょくった感もありますが、逆にそれが韓国学生相撲の現実を鋭く描いていたのではないでしょうか。徹底的に格好悪く奇妙な集団として描かれていて、日本も韓国も学生相撲へのイメージはたいして変わらない、ということなのでしょう。ですから、最後の試合も、手に汗握る、という展開にはならないで、「え!?」と思うくらいの結果を迎えてしまいます。相撲部監督をペク・ユンシクが演じているのも曲者。彼に期待して観にいっても、彼が演じた相撲部監督は最初から最後まで責任放棄しているだけのキャラにしか見えません。でも、こうやって観客の期待を外すことで、最後には笑わせてくれるのです。

 俳優陣もこれでもか!というくらい個性派ばかりで巧妙な布陣ぶり。主人公のドング演じたリュ・ドックァンは、『トンマッコルへようこそ』でちょっと目立った程度で、日本では全く無名の俳優ですが、この映画のために20キロも体重を増やしながらも、そういった苦労をまったく画面から滲み出させず、キモカワ系の主人公を好演しています。主人公が「キモカワ」であること自体、韓国映画ではそうそうない驚きだったのですが、他の俳優たちも不気味かつ変な雰囲気一杯で、なんともいえない世界観を作り出しています。相撲部の面々にきちんと名前が振られていないことも、演出上の計算を感じさせます。彼らの中で特に素晴らしいのが、ドングの親友ジョンマン役のパク・ヨンソ。彼が醸し出すなさけない空気感は抜群で注目株。また、年齢不詳のドングの母を演じたイ・サンアも、今までの韓国映画にはなかったタイプの母親像であり、より女性の自由が増している今の韓国をある意味象徴しているかのようでした。

 舞台が仁川であることも作品の雰囲気に大きな効果を与えています。この街は『子猫をお願い』でも、日本の観客に強い印象を残しましたが、最近急速に再開発が行われているとはいえ、ガラーンとして寂れた活気の無い風景は、この映画の舞台にぴったりです。へたに有名地方都市で撮影しなかったことは正解でしょう。

 なお、日本の草彅(なぎ)剛が、ドング憧れの日本語教師を演じていて、出番も多いのですが、日本人の視点から見ると賛否両論でしょう。彼の、日本では観ることが出来ない側面が出ていたのは良かったのですけど、結局は韓国フォーマットにはまった日本人キャラクターだったり、チョナン・カンとして作られたキャラそのものだったりと、ちょっと残念でした。

 今回、この映画を監督したのはイ・ヘヨンとイ・ヘジュンの二人組。ともにコメディを得意として活躍してきた売れっ子シナリオ・ライターですが、映画デビュー作である『ヨコヅナ マドンナ』では、韓国コメディのあざとさを逆手にとった演出ぶりを見せてくれました。ただ、惜しいのは、映像的に貧相であること、各シーンのリズムやタイミングが決して統一されていなかったため、どこか散漫で間延びした部分があったことです。ここら辺が実写における共同監督の難しさでしょうか。

 『ヨコヅナ マドンナ』は、日本映画にはよくある演出スタイルの映画なので、日本人には目新しくはないかも知れませんし、傑作と呼ぶにも、もう二つなのですが、2006年度韓国映画の中ではベスト10に入れるべき注目作といえます。日本の観客にも、その隠れた凄さを感じとってもらえれば、と思います。


『ウォンタクの天使』

 この映画、韓国映画では毎度おなじみヤクザ・コメディと学園コメディを無理やり組み合わせた、よくある利潤目的のB級映画なんですが、ファンタジックな要素を少し加えることで一味違った作品になっています。ひどく安っぽくて、スター不在、新鮮味も何もないコメディですから、「いい加減にしろ!!」と文句が出てきそうな内容なんですが、基本に流れる家族愛というテーマがきちんと描かれていて、撮影と音楽の良さもあってか、見た目ほどひどい映画ではありません。逆に、数年前にスターを並べて作ったならば、結構ヒットしたのでは?と思わせる、ちょっと運が悪かった企画といったところです。

 物語は、刑務所で事故死した中年男カン・ヨンギュ(イム・ハリョン)が、あの世に旅立つ前に、唯一の心残りである息子のウォンタク(イ・ミヌ)に会うために、やる気のない担当天使(アン・ギルガン)に交渉して、息子の同級生ハ・ドンフン(ハ・ハ)として転生し、担当天使も後見人として死んだヤクザのチャン・ソッチョ(キム・サンジュン)の体を使って蘇る、というお話。でも、ヨンギュが転生して息子の学校に行ってからは、ヤクザの体を借りた天使は物語に全く関係なくなって、主人公ウォンタクのドタバタ学園コメディとは別に、病院の美人看護師を延々とナンパしているだけの話が別に展開してしまいます。これだけで、映画として滅茶苦茶なんですが、なぜ天使が病院のナースのナンパに励み続けるのか?については、遠まわしながら感動的な理由が明らかにされるので、不思議なことに許せてしまうのでした。

 出演の俳優たちも、脇役で活躍する面々が顔をそろえていますが、日本ではよほどコアなマニアでないと判らない人ばかり。でも皆それなりに存在感を持つ俳優なので、物足りなさはないし、逆にオヤジ系俳優たちの大活躍といったところで、韓国の海外向けワンパターン・スターシステムにうんざりした人には逆に新鮮かも。また、ウォンタクの薄幸な母を演じたキム・ボヨンが地味ながらもとてもよい演技をしています。彼女は、安食堂の女将としての顔と、息子を心配する母親としての顔を巧みに演じ分けていて、優れた女優だと思いました。実質的な主人公であるハ・ハも、韓国の若手俳優らしい愛嬌さで好感が持てますし、本当は主人公だったはずのイ・ミヌも、派手そうな感じで本当は真面目といった印象の好青年といったところ。

 通常、この手の映画はコテコテになってしまって、生理的にはどうもねぇ、ということが多いのですが、個性派俳優たちの奇跡的なコンビネーションの結果か、妙に心に残ったコメディでした。


『ファミリー』(再掲)

 はっきり言おう、この映画は傑作だ。私は、この映画を観て驚いた。今の韓国で、こんな作品が登場するなんて、全く予想していなかったからだ。

 『グリーンフィッシュ』に似ているが、監督イ・ジョンチョルの演出手腕は、とても新人とは思えないくらい、円熟味に溢れている。端正で落ち着いた構図、内面で激しく対立する人間像、出演者たちの優れた演技と、始まって最初の5分で「この映画はなにか違うぞ」と感じさせてくれるのだ。そしてラストは、きっと観る者を打ちのめすだろう。それまでの静かな流れが、一気に激流と化し、観る側を愕然とさせるのだ。

 父親を演じたチュ・ヒョンの、不器用で寡黙な姿に、デジャブを感じた観客も多かっただろう。その娘、ジョンウン演じたスエも、抑えた演技で映画に溶け込んでいる(ただし、一番の賛否対象になりそうではある)。そんなキャスト陣の中で、最も注目すべき俳優は、ヤクザのボスを演じたパク・ヒスン(『南極日誌』にも出演)だ。彼が演じたヤクザは、冷酷、狂暴だが、理知的という二面性を持ち合わせて、非常にリアル。マンガ的なヤクザが多い韓国映画の中では異色ともいえるリアルさで、キラリと光っている。彼自身の俳優としてのポテンシャルも非常に優れており、今後とも、ちょっと要注意の俳優だ。

 地味な人間ドラマが製作しにくい、今の韓国で、こういう作品が出てきたことは、高く評価したい。イ・ジョンチョル監督には、周囲に媚びる事なく、この路線を貫いて欲しいと願う。まさに名作の風格漂う2004年度の必見作である。


『Mr.ソクラテス』(再掲)

 この作品、コメディなのか、ノワールなのか、はたまたアクションなのか、さっぱりわからない不可思議な内容の映画です。組織犯罪が、警察に身内を潜り込ませるという逆アンダーカバーの話は、香港ノワールの傑作『インファナル・アフェア』シリーズからヒントを得ているとは思うのですが、決してパクリともいえず、それなりに独自の視点から描こうとはしています。

 物語は、天性のチンピラ、ドンヒョク(キム・レウォン)の成長と変化を重点的に描いていて、それはそれでいいのですが、結局何がやりたかったのでしょうか。組織犯罪の描写は中途半端だし、ドンヒョクを監禁し徹底的に教育をしていくボムピョ(カン・シニル)率いるヤクザ連中も、韓国の伝統的な両班教育へのパロディとも見ることができますが、ドンヒョクが警察官になって重犯罪捜査課に配置されてからは、時間切れといった状態で、とってつけたような展開になってしまいます。

 この手の物語は、まず背景にある組織犯罪と警察署の対立、そこで核になる事件をきちんと描いてこそ成立するものだと思うのですけど、この『Mr.ソクラテス』は、そこまで描き切れず、かといって際立ったキャラクターを描くことで成立するような作家性は皆無、演出的な目新しさもありません。あえて良いところをあげるとすれば、善良好青年イメージのキム・レウォンが根っからの悪を演じている、という点だけでしょう。彼はそれなりに好演していて、そのつぶらな瞳は、『仁義なき戦い』に登場する「地獄のキューピー」を連想させ、納得のゆくキャラには、なっています。

 しかし、監督のチェ・ジヌォンのコメディ感覚は、既に今の韓国では通用しなくなって来ているのではないでしょうか。なんとも半端で珍妙な作品です。


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