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Review 『マジシャンズ』『角砂糖』
『シンデレラ』『ブレイン・ウェーブ』

Text by カツヲうどん
2006/11/19


『マジシャンズ』

 この作品は、韓国一般公開より約半年早く、2005年の東京フィルメックスで上映されました。『フラワー・アイランド』で作家性が認められた上でのエントリーだったとは思いますが、『マジシャンズ』もまた娯楽作品かと聞かれれば「否」としかいいようがありません。作風のミステリアスな詩情性に魅力を感じる方もいるとは思いますが、一般の観客にとっては、かなり忍耐を強いられる作品ではないでしょうか。「全編95分ワンカット撮影」というのが売りになっていますが、そこに作家作品としての価値を見出すか、「今さら、そんなことやってどうするの?」と見るかで、作品と監督への評価は大きく変わってくると思います。

 監督のソン・イルゴンは、韓国におけるヨーロッパ留学組の中でも、日本における評価の高い一人で、コンスタントに独自の作品を作り続けていますが、商業作品といえるのは『スパイダー・フォレスト/懺悔』くらい。どの作品も自主製作の香りがします。他者から協力を得て映画を撮り続ける事が出来るという事実は、恵まれた映画監督たる才能の一端ではありますが、ソン・イルゴンの作風というものが、韓国的というよりもどこかヨーロッパの雰囲気を漂わせているので、一般の映画評論家に受け入れられやすい事もあるのでしょう。彼の作品は舞台が韓国であっても、ヨーロッパの暗い森を連想させる風景があり、かつ韓国映画で伝統的に描かれる「漂白」という物語性を強く併せ持っています。それは、ソン・イルゴン自身がかつて目撃した異国の風景を連想させると共に、観客たちには何か違った別の幻影を見せているのかもしれません。


 ポーランド留学組の監督として、ソン・イルゴンより3つほど年上のムン・スンウク監督がいますが、彼の作品が都会の心象を追い続けているとすれば、ソン・イルゴン監督は自然の心象にこだわっているように見えて、二人は対照的な感じがします。ソン・イルゴン監督もVTR撮り作品が多いのですが、これはデジタル機器の経済性や利便性といった理由のほかに、状況に適応しやすい柔軟性といったものに、監督自身が魅力を感じているからなのではないでしょうか。『マジシャンズ』でも、ビデオカメラの長廻しの映像が、鬱蒼とした森の神秘性というものを感じさせていましたが、以前の作品『羽根』においても、牛島の気まぐれな自然の表情というものを捉えることに非常に威力を発揮していたと思います。

 さて、『マジシャンズ』において一番の功労者として高く評価されそうなのが、五人の出演者たちでしょうが、それよりも私はパク・ヨンジュン率いる撮影チームを評価したいと思います。正直言って、ミスも目立ちますが、それが味にもなっているのがビデオ撮り作品の持ち味といったところでしょうか。劇中、ちょっと微笑ましかったのは、3年ぶりに里に下りてきた修行僧がビールを注文する時のやりとり。ギネスを出されて、お坊さんは戸惑います。

「申し訳ありませんが、これは何でしょうか?」

 このセリフには、最近10年で大きく変化した韓国の世相の一端がリアルに出ていて、時の流れというものを感じさせてくれます。今ではソウルの、どこの飲み屋にも置いてあるギネス・ビールですが、ちょっと前までは、特定少数のお店でバカ高いお金を払わないと飲めないお酒だったのです。酒飲みの私としては、妙に実感してしまうワン・シーンでした。

 映画はバンド「マジシャンズ」の最後の演奏で幕を閉じますが、観る側に様々な人生模様を連想させて感慨深いラストでした。そして、この『マジシャンズ』を巡る諸々を考えた時、思ったことは、「韓国映画に対して積極的に作家性と作品性を見出そうとするのは、今も昔も、結局は日本人なんだなあ」ということです。


『角砂糖』

 最近の韓国映画におけるキーワードは「ウェルメイド(Well Made)」。とにかく誰が観てもそれなりに楽しめるものを、ということで、それはそれでいいことだとは思うのですが、その裏側には、韓国映画の製作費が高騰し、国内マーケットだけではペイ出来ず、海外で興行収益がのぞめる作品を作らないと利益が出ない、という事情があります。韓国映画の知名度が海外に広がれば大きなチャンスも生まれる訳ですから、「ウェルメイドな作品を作れ!」という至上命令は、ある意味では正しいでしょう。しかし、世界的に「ウェルメイド」の代表格であるハリウッド・スタイルにうんざりして客離れが起きている今、個性のマクドナルド化を起こしてしまう「ウェルメイド」という言葉は、注意しなければならない落とし穴も含んでいる言葉だとも思います。

 一番の危険は、良い意味での作家性、映画の個性が消えてしまうこと。いくら大掛かりな撮影を行い、スターを兵馬俑のようにたくさん並べても、ワン・パターンな映画ばかりが映画館にかかるようになったら、どうなるのでしょうか? この『角砂糖』という映画は、まさに「ウェルメイド」の裏に潜むネガティブな側面を考えさせられる作品でした。この作品、韓国競馬界で生きる人々の姿、国産馬の飼育に賭ける人々の姿、そして馬と人の特別であり残酷な関係を、とてもヒューマンに、驚くほど大規模で製作した、見所のある作品です。誰が観ても外さないだろうし、一応満足度も高いかと思いますが、興行商品としての映画という、あまりにもビジネスライクな顔が露骨に出ていて、私はちっとも感動できない映画でした。

<物語>

 ジョッキーだった母親を幼い頃に失い、済州島の牧場で馬たちと共に成長して来たシウン(イム・スジョン)。彼女がプロのジョッキーを目指し、ソウル郊外にある果川の厩舎で暮らすようになったことは当然の成り行きだったのかもしれません。シウンには大きな心残りがありました。「雷」という兄弟同然の馬と、生き別れのままになっていたのです。

 新人ジョッキーにとって、厩舎の暮しは楽ではありません。馬の世話に、厳しいトレーニング、不条理な上下関係に、保守的な馬主と、嫌なことばかり。特にシウンの指導にあたるキム調教師(チェ・ハンナク)は上にはヘコヘコ、下には大威張りの嫌な奴です。でも、ユン調教師(ユ・オソン)という、厳しいながらも公平な人物がシウンに目をかけてくれるようになったことが救いでした。

 ある日、シウンは街中で虐待されている「雷」と運命の再会を果たします。シウンの乗ったバスを追い、市街地を疾走する「雷」に街は大騒ぎになりますが、「雷」は引き取られて、競走馬として新しい生活を始めるのでした。闘争心に欠けた「雷」でしたが、心の絆で結ばれたシウンとコンビを組むことで、驚異的な成績を叩き出すようになります。上の妨害にもめげず、国産馬のエースとして韓国競馬界で大きな注目を集めるようになりますが、「雷」の体には致命的な欠点があって、全力疾走するたびに、その寿命を縮めてゆくのでした。遂にシウンと「雷」の名誉を託した決勝戦レースの日が訪れますが・・・

 『角砂糖』という作品は、本当に大掛かりに製作された作品です。韓国競馬協会全面協力の下、競馬場厩舎で暮らす人たちの競馬に賭けた人生を追った作品は、近年の韓国映画として、久しぶりだったのではないでしょうか。レース・シーンは手間をかけて撮影されていて、今の日本で同様のものを作ろうとしても、ちょっと無理かもしれません。特に「雷」がシウンを追って、道路を疾走するシーンは、今の韓国だからこそ撮影できたシーンといえるでしょう。でも、観ているときも観た後も、なんだかしらけて全く感動できなかったのはなぜでしょう? 私が競馬に対して全く関心がない、ということも大きな理由なのでしょうが、この『角砂糖』という映画には生き物に対する愛情が全く感じられなかったのです。見栄えのよい、そして口当たりのよいものばかり並べ立てることに大変な労力を費やし、準備に時間をかけたであろうことはよくわかるのですが、空々しい奇麗事をずっと観せられているだけで、さっぱり感情移入できませんでした。

 監督のイ・ファンギョンは『あいつはカッコよかった』で商業デビュー。たくさんの実績があるわけではないので、それを思うと出来すぎるくらい良くまとめあげたとは思うのですが、映画としては、上層部の「マルチ・パーパスな商品として作れ!」という絶対命令にがんじがらめにされて、映画監督としての意思がほとんど発揮できなかった感じがしました。次回は低予算でいいですから、彼の意思がこもった作品を観ることが出来れば、と願います。

 シウン演じたイム・スジョンも、そろそろ、こういった「可愛い女の子」というアイコンから解放してあげられないのでしょうか? 彼女の資質を思うと、アイドル女優的な売り方は不幸なだけだと思うのです。シウンの役柄も、最初から最後まで不自然に、こざっぱり。妙におしゃれで、江南や梨大辺りのお嬢さんが、趣味で騎手ごっこしているみたいです。ユン調教師演じたユ・オソンは、映画はお久しぶりの出演。「友情出演」と大きく明記されていますが、実際はもう一人の主演といっていいくらい重要な役で、かなりのシーンに出ています。わざわざ「友情出演」と書かなければいけない裏の事情があったのかなぁ、と勘ぐってしまいました。

 この映画が物足りなかった理由のもう一つは、やはり人々の暮しがきちんと描かれていなかったことにあります。特に前半、済州島での生活描写は非常に重要なのですが、ダイジェスト的に並べられてハイおしまい。これではあんまりです。もっとロケ場所の風土を感じさせる撮り方をすべきだったと思います。果川に舞台が移ってからも全く同じ。競馬界で暮らす人たちの実感を伴った生活がいつまで経っても見えてきません。

 「ウェルメイド」という言葉の意味が「美しく、夢を与えるもの」ということならば、この『角砂糖』は、そのテーマに沿った良い作品でしょう。でも、もしそうならば、「ウェルメイド」というものに対して、何か不信感と疑問も懐いてしまう作品でもあって、ビジネスと非ビジネスの境で、もがき苦しむ映画という生き物の宿命を感じさせられた一本でした。


『シンデレラ』

 この作品を監督したポン・マンデは、元々アダルト・ビデオや18禁韓国ポルノの監督出身。しかし、その演出力が認められ、今ではテレビ・ドラマの演出や、本作品のような一般的な商業映画を手がけるまでなった、韓国映画業界の変化を象徴する人物です。前作『欲望 Lovers(原題:おいしいセックス、そして愛)』は、基本的にポルノであっても、非常に優れた日常ドラマを見せてくれました。

 女性に対して、細やかな関心を抱いているであろう彼が、今回選んだ題材がホラー。若い女性と美容整形をめぐる問題を正面きって描いている内容だったので、きっと興味を惹かれたのでしょう。しかし、この『シンデレラ』、残念ながらポン・マンデが作家性を発揮することは出来なかったようです。かなり安く作られた映画らしく、全編、映像がみすぼらしいことは仕方ないのですが、俳優たちの未熟な演技ぶりに加え、抽象的で、なんだかよくわからない映画になってしまいました。

 物語は、一応、母娘の愛憎劇なんですが、肝心の部分がスコンと抜け落ちているので、結局は悩める十代の世間話といったレベル。ポン・マンデが手腕を発揮できたであろう、キー・キャラ(だったはず)の美容整形医ユニ(ト・ジウォン)の描写も、勝手に一人悩んでいるだけの陳腐なオバサンでリアリティ・ゼロ。彼女のキャラは、シナリオを改竄してでも濃く描かないといけないはずなのに、子ども相手の映画なんだから「オバサンを描いてはいかん」ということなのでしょうか。

 若きヒロイン、ヒョンス演じたシン・セギョンも、友人たちを演じた女の子たちも、みんなまだまだこれからの女優の卵たち。ただ、素朴なところは韓国の年齢相応な女の子といった感じで、「美容整形をしなくちゃ!」と強迫観念に駆られる心理を、それなりに代弁はしていたと思います。

 映画のラストは宙ぶらりんでおしまい。多くの観客は狐につままれたまま退場という、凄い終わり方でしたが、ここだけは監督の意図が感じられたので個人的にはO.K.としておきましょう。こんなひどいシナリオ、誰が書いたのだろうと調べたところ、数年前、『海辺へ行く』を担当したシナリオ・ライターでした。ま、ホラー一筋なら出来は別としても、それはそれで突っ走っていけば、そのうちいいこともあるでしょう。合掌。


『ブレイン・ウェーブ』

 この作品、SFスリラーとして製作されていますが、CJエンターテインメントのインディペンデント系作品枠で公開された低予算DV撮りの作品です。「またVTR?」という訳で、「撮影監督育成に支障をきたすのでは」とも思うのですけど、韓国の映画業界はとりあえず「スター監督の発掘第一」ということなのでしょう。フィルムなんて、近々消滅するもの、と割り切っているのかもしれないですね。そうすれば、韓国の電子機器産業は市場が拡大する可能性もある訳ですから(笑)。

 韓国はSFやファンタジーの馴染みが社会的に薄く、また土壌も合わないのか、なかなかSF映画を観ることが出来ないので、そういう点では希少価値があった作品。よくあるオカルトだかなんだかわからない韓国独特の「SF」と称すものではなくて、一応それらしいサスペンスにはなっています。

 ある医療実験の結果生まれた超能力者の戦いを描いた内容ですが、低予算なのでビジュアル的なものには一切期待できません。なんだか学園祭で上映されているような、アマチュア臭い仕上がりですが、そこそこ鑑賞には耐えられます。でも「どこかで観たような」というデジャブ感一杯。SFとは何か?という定義付けは昔から論議されているテーマですが、映画に関していうならば、やはり世界観の構築でしょう。費用がかかるVFXや美術を必ずしも必要とするものではないと思いますが、それに替わる特異な要素がないと、かなり難しい分野でもあることは事実。日本でも時々、インディペンデント系かつSF系(風)の作品を見受けることが出来ますが、大体はシュールな作風によって低予算をカバーしている気がします。でもそれは日本のクリエイターが得意とする「微妙感」によりかかるところが大きいので、いくらインディーズとはいえ、韓国ではまだちょっと難しいかも。

 この『ブレイン・ウェーブ』は、時々外した緩いギャグはあるものの、一貫して真面目に超能力者同士の戦いを描いてはいますが、表現的に出来ることが限られているので、目新しいものは全く無く、シナリオもやはり学生が習作で書き上げたようなお話。それに加え、俳優陣があまりにも下手くそなので、カットの連続性がぶつぶつ切れる始末。主人公チョン・ジュノ役のキム・ドユンは朴訥なところに好感が持てたので、それほど気にはなりませんでしたが、ヒロイン役のチャン・セユンがひどすぎて観ているのが辛かったです。

 監督のシン・テラは自主映画監督として既に何本か作品を撮っていますが、本作品を観た限りでは、将来有望なのかどうか、私にはさっぱり判断がつきません。というよりも、この手の作品を観客からお金をとって劇場で流す、という神経に疑問を感じます。韓国で上映されていなければ、とてもではありませんが、観る気も起きない作品といえるでしょう。でも、あえて不利な条件のSF映画を製作した点では評価したいですし、これからもこういったジャンルにはこだわって製作して欲しいとは思いました。


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