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アジアフォーカス・福岡映画祭2006 リポート
『ドント・ルック・バック』

Reported by 井上康子
2006/11/12


コメント

 主な登場人物は3人です。舞踊をやっているジョンヒは恋人との仲がうまくいかず、自分を捨てた父が突然現れたことにもいらだっています。グヌは孤児院で育ち、今は公衆電話の撤去や修理をしているものの正規の職員でなく不安定な身分の青年です。イノは既婚者ですが、独文科の博士課程在学中に兵役で入隊し、すでに学問への情熱もなくなり、企業への就職を考え始めています。家庭にも社会にも、自分の居場所をもつことができない3人の不安や孤独感が、カメラが彼らの日常行動を追うことでリアルに浮き出されていきます。

 キム・ヘナは少しエキセントリックなまでにいらだっているジョンヒの感情をうまくあらわしていますし、イ・サンウからは人とコミュニケーションができず電話の盗聴を続ける青年の孤独感が感じられます。そして、3人の中でも最も存在感のある演技を見せているのがキム・テウです。彼が演じるイノは、妻がすでに他の男性を愛するようになっていることに怯え、けれどその自分はといえば浮気相手がいて、妻がその男性と一緒にいることに憤ってはいても、一人では何もできず、浮気相手を伴って二人の前に登場する男ですが、プライドを捨てきれない男の悲しみがしみじみと伝わってきます。


『ドント・ルック・バック』

 本作は「NHKアジア・フィルム・フェスティバル」の支援対象に選定され、2005年末の「第6回NHKアジア・フィルム・フェスティバル」で公開された作品です。全般的にトーンが暗く、何らかのカタルシスが得られるという作品でもなく、いわゆる韓流映画とは全く趣が異なる、通好みの作品と言っていいかもしれません。上映後のティーチ・インでも観客からの質問がやっと出たと思ったら「好きな作品ではなかったが」という前置きがついたもので、監督もちょっと寂しそうでした。

 私が気になったのは、3人の登場人物が、上記のイノのようにふるまう面をもつ、自分を客観的に見る視点をもたない幼さをもつ人物であったことです。彼らに共感できる部分と、これなら社会から取り残されてもしょうがないなと彼らを突き放したくなる部分がありました。監督自身は3人の登場人物に完全に気持ちを同一化させて、彼らの日常をリアルにかつ丹念に追っています。そのことにより、この作品は独特の強いエネルギーをもつに至っています。好きな作品にはならないかもしれませんが、この映画に込められたこの強いエネルギーは一見の価値があると思います。

 今回は「第6回NHKアジア・フィルム・フェスティバル」で上映された後、ディレクターズカット版として再編集されたものが上映されました。私は最初の編集でも見ていたのですが、最初の編集の3人の登場人物が運命的に遭遇し、悲劇的な結末を迎えるという部分がカットされ、未来への可能性を感じさせる余韻を残す終わり方になっていて、再編集の方が多くの観客に受け入れられやすくなっていると思いました。


ティーチ・イン

ゲスト:キム・ヨンナム監督
2006年9月22日 西鉄ホール
司会:佐藤忠男
通訳:根本理恵

司会: この作品の構想はどういうことから得たのですか?
A: 最初、この作品の構想として刺激になったことがひとつあります。それは、今は携帯電話が普及していますが、新しい機種を買っても1ヶ月も経たないうちに、さらに新しい機種に変更したりする、そういう傾向が強くなっているということでした。以前のものでも、別に不便なことはないのに、どうして以前のものが消えていくのかと考えていくことがこの作品の構想につながりました。それから、若い人の中にも携帯を2年位換えないという人もいるんですね。若い人の中にも懐メロが好きな人がいるように、現実の速い流れの中でも、そういう流れとは違う道を目指している人たちもいるんだということも考えるようになり、この作品はそういう人が登場する物語になっています。

司会: 「NHKアジア・フィルム・フェスティバル」で公開後に、再編集したのはどうしてですか?
A: 最初の編集は時間的にも長くて、また最後に3人の主人公たちが出会う事件が起きるようにしていましたが、その後よく考えてみたら、すでに私が表現したいことはその前の部分で表現しているので、3人が出会うことは反復になってしまうし、あまりにたくさん詰め込みすぎていると思って編集を変えました。

Q: 私は楽しい作品が好きなので、好きな作品ではなかったのですが、先進国の仲間入りをした韓国の現代社会の不安定な感じがよく表れていると思いました。
A: 楽しい映画を見て楽しむという人もいれば、現実をありのままに映した映画を見てなぐさめとする人もいるでしょう。私はどちらかというと後者の方になると思いますが、そういう映画の方が自分の力や勇気になるという気がしています。この作品を見た人が、自分自身を振り返る、そういうきっかけになればと思ってこの映画を作りました。


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