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アジアフォーカス・福岡映画祭2006 リポート
『ウェディング・キャンペーン』

Reported by 井上康子
2006/11/12



 嫁に来手がない農家の青年が、同じく花嫁を求める友人と共に、朝鮮族の女性がいるウズベキスタンに花嫁を求めて遠征しての恋の顛末をほほえましく描いた作品。ちょうど1年前に釜山国際映画祭で、閉幕作品として見ることができましたが(→「第10回(2005)釜山国際映画祭 鑑賞作品Review」)、この作品のほのぼのとした暖かみは懐かしい友達の顔が折々に浮かぶように思い出していたので、再会できてうれしかった作品でした。残念ながら、日本では劇場公開はないものの、同タイトルで2007年2月2日にDVDが発売予定ですので、ぜひ御覧になってください。お薦めの作品です。


『ウェディング・キャンペーン』

 本作のファン・ビョングク監督はアジアフォーカス・福岡映画祭ディレクターである佐藤忠男さん(今年限りで映画祭ディレクターを引退)が校長を務める日本映画学校の卒業生です。そのご縁があってのことでしょうが、映画祭ではファン監督の同校での卒業作品である『はい毎度!』も上映されました。『はい毎度!』は東京のお蕎麦屋さんを舞台に、在日の店主とアルバイトの韓国人留学生との、誤解から生じた葛藤と和解を描いた短編ですが、社会的な視点をもちながら、作品全体にユーモアも含んでいる良い作品でした。脇を固める蕎麦屋の店員のおじいさんが、枯れた老人かと思いきやアパートではポルノ・ビデオ三昧していたりと、登場人物もそれぞれに味わいがあり、『ウェディング・キャンペーン』に通じるような演出方法を取っているなと分かるところもあり、興味深く見ることができました。

 ここでは、『ウェディング・キャンペーン』のティーチ・インの内容と、ファン監督にインタビューする機会が得られましたので、それについてお伝えします。ファン監督は日本に5年間留学していたとのことで、もちろん日本語はとても流暢。念のために、通訳の方もいたものの、ティーチ・インもインタビューも通訳なしでこなされていました。作品のよさに加えて、監督が日本への留学経験をもつことに好感を抱く観客が多く、ティーチ・インでも会場からの質問が多く、また日本に絡んだ質問が多くなっています。


ティーチ・イン

ゲスト:ファン・ビョングク監督
2006年9月16日 ソラリアシネマ1
司会:佐藤忠男
通訳:根本理恵

Q: ウズベキスタンで花嫁を求めるというストーリーはどこから得られたんですか?
A: 韓国のKBSという放送局のドキュメンタリー番組で、実際に韓国の農家の男性がウズベキスタンでお見合いするという番組がありました。一緒に短編を撮ったりしていた友達が映画化したいと言うんで、内心、オレが撮った方がいいと思ったんですが、いったんは諦めたんです。でも、1ヶ月位して、シノプシスができたか尋ねたら、やめたと言うんで、じゃあ酒をおごるからこのネタをくれと言ってもらいました(笑)。

Q: ウズベキスタンでのロケはたいへんだったと思いますが、どんなご苦労がありましたか?
A: 気温が50度位あったので、体力的にもたいへんでしたが、何より精神的にきつかったです。新人監督が外国で撮影をするわけですから。国内なら大切なシーンは先輩に相談したりできますが、それもできないし、外国だと撮り直しもできないし、一人でずっと悩みながら撮影していました。

司会: 作品中で大きなお祭りのパレードがありましたがあれは本物ですか?
A: 本物です。ロケ中に実際のお祭りの日を利用することができなかったので、タジキスタンの人たちも呼んだりして、作ったものです。あそこのシーンは主人公が一番悲しんでいるシーンでした。私は、人物が悲しんでいる時に周りはにぎやかというのが好きなんです。それで、お祭りをもってきました。

Q: 日本で映画の勉強をされて、日本映画をどう活かされていますか?
A: 高校1年で『E.T.』を見て、映画が人を幸福にすると思い、監督になろうと思いました。日本に来てからは、テレビで深夜に放送されている映画やレンタル・ビデオで、1ヶ月に50本位見ていました。日本映画は日本にいる間でないと見られないと思って、同級生よりもたくさんの日本映画を見ていました。ずっと見ていたら韓国映画と似ていると思いました。私は、来日して8ヶ月後のある朝、テレビをつけたら、突然、日本語が聞き取れるようになったんですが、日本映画の理解もそれと同じだと思います。

Q: 日本映画学校に留学されたのはどうしてですか?
A: お世話になっていたユ・ヒョンモク監督の紹介があったことと、今村昌平監督の映画を見たことで、日本だと思いました。それと、私の友達には、アメリカやロシアやポーランドに留学した人もいたんですが、感覚が合わなくなるんですね。韓国、中国、日本は合うんですが。


(左)佐藤忠男氏     (右)監督

司会: ユ・ヒョンモク監督というのは、日本でいえば黒澤明監督のような巨匠です。
A: 日本映画学校では卒業作品のために、3年生でシナリオを書かないといけないんですが、流行っていた援助交際について書いて、締め切りの前日に先生にそれを見せたら、「ファン君は主人公の女の子が好きになれる?」と尋ねられて、「わかりません」と答えたら、「主人公を愛せるようにならなければその映画はだめだ」と言われました。

司会: うちの学校はいいことを教えるんですよ(笑)。
A: 『ウェディング・キャンペーン』では、映画会社からは主人公だけ結婚させて、主人公の友達は結婚させない方がいいと言われたんですが、彼も、ここで結婚させなければ、一生結婚できないと思って結婚させました(笑)。

司会: ウズベキスタンになんで朝鮮人がいるかというと、日帝時代に日本人が強制移住させた朝鮮人がシベリアに多く住んでいたのを、第2次世界大戦中に彼らの動きを心配したスターリンがウズベキスタンに強制移住させたからです。

Q: 日韓でのコラボや合作についてどう思いますか?
A: 日本で何本か合作の作品を見ましたが、合作のための合作になっていると思いました。合作のための合作ではだめで、それでは映画が成熟しません。私は次回作についてはシナリオ執筆中で、合作にすることはできませんが、将来的にはやってみたいと思います。


ファン・ビョングク監督 インタビュー

2006年9月20日 ソラリアホテル
聞き手:井上康子

 今回の映画祭でも一番好きだったのが『ウェディング・キャンペーン』です。この作品のもつペーソスを潜ませた笑いの心地よさはもう何とも言えません。作品全体を通して隙がなく、考え抜かれた演出をしていることもよくわかります。それで、ぜひファン監督にお話を伺ってみたいと思い、インタビューさせていただきました。

● 『ウェディング・キャンペーン』について

Q: 主人公の純朴な農家の男性を演じたチョン・ジェヨンさん、彼の友人を演じたユ・ジュンサンさん、主人公が思いを寄せる女性を演じたスエさんと、3人とも演技がすばらしかったですが、キャスティングは監督が希望されたとおりですか?
A: 私が一緒に仕事をしたいと思ったこの俳優さんたちをキャスティングすることができました。問題は製作費でした。通常、1作品の製作費は25億から30億ウォン位です。でも、私の作品は35億でしたし、外国でのロケがあると、これまでの作品は必ず予算をオーバーしてるんですね。少なくて3億、多いと10億ウォン位。そういう前例があるんで、予算オーバーするんじゃないかと心配されたんです。それで、なかなか投資が得られなくて、事務所でシナリオを直したり、コンテを描いたりしてたんですが、その投資が得られるまでの一年半の期間がすごくつらかったですね。今、思えば。

Q: 脚本の評価はもともと高かったそうですし、釜山国際映画祭の閉幕作にも選ばましたね。
A: 投資がなかなか得られなかった理由のひとつはキャスティングでした。3人の俳優がそんなにトップスターじゃなかったんで。『トンマッコルへようこそ』の前だったんで、まだチョン・ジェヨンさんも投資ができる俳優とされていなかったんです。

Q: 主人公のマンテクが夢精で汚したパンツを洗っていると、たまたま祖父がやって来て、ごまかそうとしたマンテクがパンツの入った洗面器で顔を洗い始めるところから、悲しくておかしいというシーンが続いていました。マンテクが好意をもつララが、自分の身を守るために、やむをえずマンテクを身代わりにして、警官に追われたマンテクが走りに走ってボロボロの状態で、罪悪感に怯えていたララの前に登場しますが、その時のマンテクが子どものような無垢な微笑を浮かべているのがとても印象に残っています。ボロボロの状態で笑わせながら、彼の無垢な笑顔で泣かせてくれました。
A: 観客はマンテクが一日中走っていたのだから、疲れきっているとわかっています。そこへ疲れた顔のマンテクが登場しても、観客は何も感動しませんよね。疲れているのに、マンテクはララを気づかって「遅くなってすみません」と言いますよね。あそこではマンテクがララを気づかうことが一番大事だと思いました。

Q: ウズベキスタンでのロケ中は、先輩に相談もできなくて一人で全部判断しないといけなくてたいへんだったそうですが、ロケ中は他にどんなご苦労があったんでしょうか?
A: デビュー作なので、それがだめだったら次の作品が撮れません。興行的にだめでも評論的に良かったら次の作品が撮れるんです。興行は運次第のところもあるんで。良いものを撮らないと次の作品を撮ることができないから、命を懸けて撮るしかないじゃないですか。そのことのプレッシャーが撮影中は一番大きいものでした。それから、外国なので、先輩たちに相談することもできなくて、外国で一人ですからそれがつらかったです。それと、韓国にいたら自分の家族がいて、疲れていても癒されるということがありますよね。それは他のスタッフも俳優も同じですが、外国だとそれができなくて疲れがたまるんですね。だから笑わせながら仕事するんですよ。私自身も疲れているんですが、そうしないと良い作品は撮れませんから。自分の気持ちと反対にしないといけないことがつらいですね。これはまあ韓国にいても同じですが。それで撮影中、ストレスで顔の半分が動かなくなったんです。

Q: いかにストレスが強いかわかりますね。どの位で回復されたんですか?
A: 韓国に帰って針で治りました。頭もストレスで結構はげたんですよ。まあ、監督はみんな同じ苦労をしてるんですが。

Q: 主人公のマンテクと友人のヒチョルの関係をすごくていねいに描かれていますね。自棄酒を飲んだマンテクのために、翌朝、ウズベキスタンのホテルにいるのに、ヒチョルがお粥を調達してきて、二人が並んで食べるシーンでは、二人の友情の強さをしみじみ感じさせられました。
A: 映画の中で、友情と、家族の愛と、男女の愛の3つを描きたかったんです。世の中の愛というのはその3つでしょう。それと、映画としては、連れがいないと話にならなかったんです。なぜかというとマンテクは無口な人間なんで、マンテクのことを表現するためには連れがいないといけなかったんですね。マンテクが本当に良い人なんですよというのは自分の口では言えませんから。どこの国の映画でもそういう仕掛けはしますよね。


『はい毎度!』

● 日本映画学校卒業作品『はい毎度!』について

Q: お蕎麦屋さんが舞台なので、主人公の韓国人留学生が見た日本人が描かれているのかと予想していたら、在日の店主と主人公の葛藤が描かれていました。監督は日本に留学中はアルバイトも経験されたそうですが、その時に見た在日の人への思いが反映されているんでしょうか?
A: 在日韓国人というのは悲しい存在だと思います。日本の中でも日本人と認められないし、韓国にいても韓国人とは認められないし。自分のアイデンティティがないじゃないですか。初めて日本に来て、1ヶ月位して、セーターの販売店でアルバイトしたんですが、そこの店主が北朝鮮出身の在日の人だったんです。注文書を見て、バッグにセーターを入れるんですが、私は当時まだ日本語ができなくて、ピンクを入れないといけないのに黒にしてしまうとかで、お客さんが返品しに来るというのが2・3回あって、クビになったんです。店主が、その日までのバイト料を渡しながら、私に「あなたもお金がほしいからここで働いたんでしょう。私もお金がほしいからあなたを雇ったんですよ」と言ったんです。

Q: その言葉はそのまま蕎麦屋の店主が主人公に言った台詞になっていますね。
A: そうです。その時は、クビになったことはわかったけど、言葉が分からないんで、何を言われたかは分からなくて、先輩に後から教えてもらって、すごくつらかったんです。なんで同じ民族なのにそんな話をするのかと思いましたが、日本で生活するうちに、在日の人が日本ですごく苦労しながら生活してきたのが分かって、そういう気持ちをすごく反省しました。今も在日の人は日本ですごく苦労しながら生活しているんじゃないでしょうか。

Q: 在外の同胞を描いたというところは『ウェディング・キャンペーン』でも共通していますね。
A: 外国に同胞がいるという状態を作った原因は日本にあります。私は、今、韓国で、在外の同胞が韓国人として認められてないことを教えたいと思いました。外国に同胞がいることを知らない若者もいるんです。

Q: 歴史的なことは韓国では学校で熱心に教えているのではないですか?
A: どこに住んでいるという程度は教科書で出てきますが、理由については私が学校に通っている頃は教えていませんでした。今はドキュメンタリー番組でもよく扱われていますが、以前はありませんでした。そういうことを表したかったんです。

● 監督自身について

Q: 今村昌平監督の作品を見て、日本映画学校への留学を決意されたそうですが、今村監督の作品にそれだけ強いものを感じられたのでしょうか?
A: 今村監督は人間をそのままに見せるから、それは衝撃でした。私はまだ勉強が足りませんが、年を経て今村監督のような作品が撮りたいです。

Q: 留学を決意したのには、ユ・ヒョンモク監督のお薦めもあったようですが、ユ・ヒョンモク監督とは映画について教えを受けるというようなご関係だったんですか?
A: ユ・ヒョンモク監督は映画に対する情熱をすごくもっている人です。私は高校の時から映画サークルで短編を撮っていたんですが、そこにユ監督が指導に来てくださっていました。ユ監督に『はい毎度!』を見てもらったら、「これ、本当におまえが撮ったのか!」と言われました(笑)。

Q: きついほめことばですね(笑)。
A: 高校1年の時に映画監督になるという夢をもって、去年が『ウェディング・キャンペーン』の公開だったんで、21年かかって監督になったことになりますね。

Q: 次の作品はどういう内容のものを予定されているんですか?
A: ひとつは浅田次郎の『天国までの百マイル』を原作としたもので、今シナリオを書いています。他にもありますが確実なものはこれです。

Q: では、次回作を期待して待っています。


インタビューを終えて

 映画に対する強い情熱と自分の理論を併せもっている方です。ウズベキスタンでの撮影中はストレスから顔の半分がマヒしていたというお話からはプレッシャーがいかに強い状態だったかが伺えましたが、それも情熱の強さゆえのことだったのではないでしょうか。

 インタビュー終了時も約束の30分が過ぎたので失礼したのですが、「別に時間を設けてもいいですよ」と言ってくださり、ご好意をありがたく感じると同時に、自分の作品について伝えたいという情熱も強く感じました。留学中の苦労も作品の肥やしにし、日本という外国に滞在したという経験が監督にとっても自身や民族のアイデンティティを見つめる機会になった面もあるのだと思いますが、そこにも強い思いを抱いていられるようです。

 日本とご縁の深い方で、日本語も堪能で、次回作も日本の小説が原作で、これからも日本と深く関わり続けていく監督さんだと思います。次回作も早く見せてもらいたいです。


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