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Review 『恋の罠』『救世主』
『クライング・フィスト』『ダンサーの純情』

Text by カツヲうどん
2006/4/8


『恋の罠』

http://www.cinemart.co.jp/koinowana/
原題:淫乱書生
2006年執筆原稿

 この作品、妖艶な時代劇コメディのようですが、フタを開けてみるとガチガチといっていいくらい、真面目な人間ドラマになっていて、笑うにもなかなか笑えない映画でした。それは演出の狙いが外れてしまったというよりも、監督と脚本を担当したキム・デウの、人間ドラマを追求しようとする真摯さや誠実さが丸出しで笑えなかったという感じです。彼は元々、名脚本家として活躍していた人物。イ・ジョンジェの『情事』、ペ・ヨンジュンの『スキャンダル』なども彼の担当した作品ですが、この『恋の罠』は『スキャンダル』のような遊び心やユーモアといったものがかなり足りなかったようでした。いや、シナリオ自体はかなりユーモアを内包したものではあったのですが、シナリオから離れてイマジネーションを膨らませる、という点ではあまり飛躍できなかったように見受けられました。ただし、『恋の罠』は映画としての出来映えはかなり良いものです。最近の時代劇ブームのためか、毒が薄れてしまった感が否めませんが、もう少し前ならもっと反響を呼んだでしょう。そういう点ではちょっと時期を逸した感もありました。

 舞台は朝鮮王朝華やかりし時代。宮廷に務める士大夫、ユンソ(ハン・ソッキュ)は名門の出であると共に、書家として名を馳せていました。ただ、覇気が全くありません。ある日、街場にある仏具屋の手入れに同行することになってしまい、苦手な武官のグァンホン(イ・ボムス)と共に大乱闘に巻き込まれてしまいます。しかし、そこが実は卑猥本の発行を密かに行っている場所であることを知ったユンソは、手に取った卑猥本に書かれた、とある一語に大きな衝撃を受け、憑りつかれたように自ら卑猥本の作者となることを志すようになります。しかし、幾ら名文を綴っても、物が物だけに何かが足りません。武官グァンホンが趣味で絵画を嗜み、写実派として優れた画家であることを知ったユンソは、彼にエロな挿し絵を書いてくれるよう頼み込みます。結果生まれた第一作目は、巷で大変な評判となりますが、評判になればなるほど困るのが次の作品。あれこれ欲情を煽る物語を考え、奇抜な体位を試行錯誤するユンソでしたが、堅物のグァンホンは、ユンソのアイディアを想像で描くことが出来ず、困ってしまいます。一計を案じたユンソは、かねてから互いに想いを寄せていた王の側室ジョンビン(キム・ミンジョン)を呼び出し、二人の情事をグァンホンに覗き見させて写し取らせます。しかし、その本がジョンビンの元に渡ってしまったことから、話は王様をも巻き込んだ大スキャンダルになってしまいます。警吏に捕らえられ、グァンホンの手で拷問を受けるはめになってしまうユンソ。やがて王の親衛隊たちも裏で動きだし、ユンソと仲間たちは命の危機を迎えることになります。

 この作品で最も面白いのは、エロスを表現することに憑衣されてしまった生真面目な男たちの姿であり、性愛描写そのものではありません。それは今村昌平監督初期の傑作『エロ事師たち』と相通じる内容であり、18歳未満観覧不可に期待して観に行った人はがっかりでしょうが、男性のマニアックな性(サガ)をよく突いた物語なので、男性として思わず共感してしまいました。日本でいえば『電車男』のキャラクターたちと同じ訳です。ですから、もっと観覧対象の年齢を下げて観せてもよいと思うのですけど。この映画を観て性犯罪に走る未成年者なんて、今の韓国ではありえないと思うのですけどね? また、この『恋の罠』に、何年前か韓国を騒がせた小説『楽しいサラ』事件を思い出した人も多かったと思います。

 名門文士ユンソ演じたハン・ソッキュと、武官グァンホン演じたイ・ボムスにとって、本格的な時代劇は今回が初めてだと思うのですが、韓国を代表するスター二人が朝鮮時代のコスチュームで出てきたらどうなるか?というのが本作におけるもう一つの楽しみでもありました。結果として、二人とも韓服と髭の組合せが、とてもよく似合っていて、民族のファッションというものが、その土地で暮らす人々に合わせて進化して定着したものであることを改めて実感させます。これは日本人が、紋付き袴や着物が一番似合うといわれる事と同じような感覚ですね。王の側室ジョンビン役のキム・ミンジョンはすっかり大人の女性になってしまって、それなりに色気を振りまいていますが、残念ながら『スキャンダル』同様、この作品も女性キャラが全体的に弱かったようです。また、王(アン・ネサン)が劇中の終盤になって突如、物語を振り回し始めるのも、ちょっと納得がいきません。もう少し伏線を張ってくれれば、と感じました。

 この『恋の罠』は、『スキャンダル』が持っていたようなテンポの良さやユーモアには欠けているのですが、その分、じっくり腰を据えた真面目な演出で観せる内容になっているので、より日本人向けの映画になっていると思います。また、コダックを使った濃厚な李氏朝鮮時代らしい色彩美を表現するという点でも、成功したといえるでしょう。ラブストーリーというよりも、いくつになってもオタク魂に翻弄される、哀しくも愉快な野郎たちの人間喜劇です。



『救世主』 ★★

 1998年、『女校怪談』でデビューして苦節8年、若い女性の身空ながら、女三枚目専門として、数々のテレビ・ドラマや映画でお下劣ネタを一手に引き受けてきた女優、シニ。その彼女が表向き主演デビューしたのが、このB級コメディ『救世主』です。相手役には、これまた個性派三枚目のチェ・ソングクを迎え、とてもドメステックな作品に仕上がりました。なぜドメステックか? それは、作品が、二人の韓国における一般的イメージに沿って作られたコメディになっているからです。いわば、一種のキャラクターもの。それゆえ、お決まりをある程度理解していないと、安っぽい退屈なコメディに過ぎません。逆に、二人のキャラクター・イメージがわかっている方なら、くだらなくても許せる映画になっています。お話は平凡なラブコメかと思いきや、「良き夫婦とは?」という、ちょっぴりビターで大人向けの意外な物語になっています。

 コ・ウンジュ(シニ)は全く冴えない女の子。合ハイに行っても誰も相手にしてくれないので、狂言自殺を図りますが、運の悪いことに彼女を助けたのは、金持ちのドラ息子、イム・ジョンファン(チェ・ソングク)。やがて、兵役についたジョンファンのもとへ、公休日にウンジュが手製のお弁当を持って訪ねてきます。彼女に全く気のない彼は、冷たく接しますが、ウンジュの計略に引っかかり、一夜を共にしてしまうのでした。それから二年後、世間に復帰したジョンファンでしたが、ごくつぶしぶりはエスカレートするばかりで、さすがに父(ペク・イルソプ)と母(パク・ウォンスク)も嘆く毎日。そんなある日、ジョンファンは身に覚えのない容疑で連行されます。取り調べ室で彼の前に現れたのが、なんと辣腕女検事になったウンジュ。彼女は驚くべき真実を彼に告げます。二年前のあの日、自分は妊娠して双子を生んだ、というのです。絶対拒否するジョンファンですが、そこは検事、職権を乱用しDNA検査の結果を突きつけてきます。ウンジュに脅され、いやいや結婚するジョンファンでしたが、おもしろくありません。彼の友人チルグ(チョ・サンギ)は転がり込んでくるし、子供をおっぽり出して遊び歩く日々。二人の仲はどんどんますます険悪になってゆきます。息子の不甲斐なさぶりに、ジョンファンの父は一計を案じて、ジョンファンとサンギを仲間に偽装拉致させ、徹底的に男として鍛え直させようとします。同じ頃、街の女ボスが暗躍する事件を捜査していたウンジュは「家族の命が惜しければ、捜査から手を引け」と脅されます。しかも、運が悪いことに、拉致先から逃げて戻ってきたばかりのジョンファンとサンギが彼らに今度は本当に拉致されてしまいます。果たして、ジョンファンとウンジュは絶対絶命の危機を乗り越え、本当の夫婦になることが出来るのでしょうか?

 この映画で本当に面白いのは、冒頭の狂言自殺から、無理やり結婚させられるまでのところまで。ここまでは、主演二人のキャラクターが存分にいかされ、とぼけた演出も合間って、なかなか笑わせてくれます。しかし、失速するのはこの直後。低予算映画のためか、画面に変化が乏しく、俳優たちの演技もすぐ飽きが来てしまい、逆に疲れる展開となってしまいました。夫婦の危機と、検事とやくざの闘いを絡めた脚本は、あまりにもワンパターン。敵対する連中にもっと役割を与えていれば違っていたでしょうが、単なる添え物エピソード。出演者たちは、各々のイメージに沿ったキャラクターを無難にこなしているといった感じで、演技に熱は感じられませんでしたが、飛び抜けて面白かったのはチルグ役の俳優チョ・サンギです。彼の個性的な容貌ももちろんですが、タフでありながら人が良く間抜けなチルグというキャラクターを好演していて、完全に主演二人を喰ってしまっている状態。本当の主役は彼だったのかもしれませんね。

 ちょっと注目してほしいのは、シニ演じたウンジュというキャラクターの生き方です。彼女は妊娠を知っても中絶せず、独りで双子を育てながら司法試験にパス、検事となる訳ですが、これがなかなか感動的に描かれています。徹底的なダメ男ジョンファンも、彼女の苦労を理解することで父親、夫として目覚めてゆく訳ですが、ここら辺のくだりは、韓国社会の側面が良く出ていて、別の意味で面白かった部分でした。最近、映画やドラマで流行りのフェミニズム指向だともいえますが、実際、韓国では男性よりも女性の方が早く自立を要求される立場にあるのではないでしょうか? 韓国人男性の場合、大学→兵役(公益勤務)→復学→海外留学→やっと社会人、というパターンが、裕福な家庭ほど多くて、どうしても女性より親ががりになりがちだからです。ですから、近年、女性が総合職で活躍することが一般化した韓国では、男の立場はますます弱くなるばかり(笑)。この映画には韓国における晩婚率の向上、少子化の原因の一端が見えてくるようで、ちょっと興味をひかれました。

 主演二人のコアなファン以外はあまりお勧め出来ない作品ですが、シニやチェ・ソングクに関心がある方は、観ても損はないでしょう。



『クライング・フィスト』 ★★★(再掲)

 この作品を監督したリュ・スンワンの素晴らしいところは、作品ごとに映画のテイストを大きく変える努力を行っていることだ。それがいつも成功しているのだから、想像以上に引き出しの多い才能の持ち主なのだろう。

 「実弟、リュ・スンボムとの兄弟コンビ」、「男の世界」、「アクションとバイオレンス」という要素はデビューから一貫したものだが、それを維持しつつ、印象の異なる作品を撮り続けている。今回の『クライング・フィスト』は、デビュー作『ダイ・バッド 〜死ぬか、もしくは悪(ワル)になるか〜』に近い感じがする作品だ。今までのリュ・スンワン作品通り、一般庶民や年配者への愛情が随所に感じられる点でも、リュ監督の人生観といったものが、かなり強く出ている。

 映画の構成は、ボクシング新人王座決勝戦以外では決して交わることのない、一期一会の男二人の生き様を並行して描いている。かつてアマチュア・ボクサーの名選手として名を馳せたテシク(チェ・ミンシク)は事業に失敗、破産し、妻子とも別居、町中で殴られ屋として日銭を稼ぐ日々。最初は客も集まらず、彼を支えてくれるのはうどん屋のサンチョル(チョン・ホジン)くらいだ。一方、サンファン(リュ・スンボム)は貧しい家庭で育ったチンピラ。窃盗を繰り返し、喧嘩に明け暮れる荒れた生活を送っていたある日、強盗致死事件を起こしてしまい、少年刑務所にブチ込まれる。そこで不本意ながらボクシングと出会ったことから、運命が変わっていく。

 この二人に共通することは、両者とも貧しいアウトサイダーである、ということだ。特にサンファンは、リュ・スンワン監督の伝え聞く人生を連想させる。また、二人がボクシングを続ける動機が非常にシビアなところは、観ていて心痛い。

 かつて韓国でプロボクシングは、非常に人気があり、ちょっとした花形プロスポーツでもあった。このハングリーなスポーツに人生を託す姿は、社会的成功の象徴だったのだろう。だが、社会が豊かになればなるほど、プロボクシングの人気は衰退し、より求道的になってゆく。この『クライング・フィスト』は、そういったボクシングに賭ける人間たちの生き様を通して、大きく変化を続ける祖国・韓国への、哀愁と回顧を、元不良リュ・スンワンが想いを込めて描いた映画なのかもしれない。



『ダンサーの純情』 ★★★(再掲)

 この映画は、オーソドックスな題材に、現代の風潮を加味、若い観客と高年齢層の観客の、どちらが観ても楽しめることを目ざした作品だ。パク・ヨンフン監督は、決して悪ふざけすることなく、登場人物を深く真面目に描こうとしているし、社会派の側面もある。全体のまとまりがイマイチで、最後のダンス大会は、色々無理を感じるものの、単なるハッピーエンドで逃げない展開になっているところは、映画に厚みをもたらした。反面、キャラクターがあまりにもステレオ・タイプだったり、お笑いの演出がギクシャクしていたりと、観ていてちょっと苦しいところもある。しかし、『ダンサーの純情』という古典的な題名が示すように、娯楽映画への回帰がテーマの一つであったとするならば、なかなかいい作品なのではないかと思う。

 ヒロイン、チェリン(ムン・グニョン)が、故郷の川から持ち込んでしまった蛍の幼虫へ、望郷の願いを込めているところは、とても強く心に残るし、相手役のヨンセ(パク・コニョン)のダンスにかける真面目な姿勢、「愛がなければ、体を預けることが出来ない。ダンスを踊っているときだけでも俺を愛してくれ」という台詞は説得力がある。

 韓国人と中国人との偽装結婚を扱った作品に『パイラン』があるが、この『ダンサーの純情』の場合は、チェリンが「朝鮮系中国人=外国人であっても同胞である」という、微妙な立場にあることが今までなかった大きな違いだ。韓国における彼女の立場は、「ソウルにおける地方人」、「外国における韓国人」の立場を連想させ、日本人にはわかりにくい韓国人の同族意識を覗かせているかのようだ。

 主演のムン・グニョンは、かなり大げさな演技で、わざとらしい。ただ、単なるロリ系アイドルといった今までの印象とは違い、大化けしそうな予感を感じさせた。相手役ヨンセ演じたパク・コニョンは、今回大抜擢といっていいだろう。どちらかといえば脇役で光りそうなタイプなので、もっと個性の強い作品に出ることで、より高い評価を受けそうな気がする。

 今回、一番の注目株は、ワルなダンサー、ヒョンス演じたユン・チャンだ。前作『ナチュラル・シティ』の時は目立たなかったが、ミュージカルで鍛え上げた肉体と演技力が、本作ではギラギラと他を圧倒している。惜しかったことは、ヒョンスというキャラクターが典型的な悪役としか描かれていなかった点で、単なるワルではない部分、向上心に満ち、自他共に厳しい努力家としての面をきちんと描けていれば、『ダンサーの純情』はもっと素晴らしい作品になっていただろう。日本ではとても受けそうにないルックスだが、今後も注目して行きたい一人である。時代劇にも、よく似合いそうだ。

 この『ダンサーの純情』は、うるさ型の評論家には酷評されるタイプの作品かもしれないが、韓国映画の持つ、人情味や情緒が好きな方には、ぜひお勧めしたい。


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