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ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2006 リポート
『クライング・フィスト』

Reported by 月原万貴子
2005/3/15



『クライング・フィスト』 2005年 原題『拳が泣く』
 監督:リュ・スンワン
 主演:チェ・ミンシクリュ・スンボム

鑑賞ノオト

 1990年のアジア大会で、銀メダルを獲得したボクサーのカン・テシク(チェ・ミンシク)は、引退後に始めた事業で失敗し、莫大な借金を抱えてしまう。愛想を尽かした妻に家から追い出されたテシクは、生きるために“殴られ屋”として街頭に立つ日々を送り始める。魂の拠りどころだった銀メダルまでも借金のかたに取られ、夢もプライドも失った彼に、追い討ちをかけるように妻が離婚を要求。失意の余り酔いつぶれたテシクの目に、街角に張られた「新人王戦」のポスターが焼きつく。

 ケンカとカツアゲと窃盗の常習犯である19歳のユ・サンファン(リュ・スンボム)が行き着いた先は少年院。そこでも収監早々からケンカ騒ぎを起こした彼を、刑務主任はボクシング部へと誘う。初めて自分にも何かができるという喜びを得たサンファンだったが、心配を掛け通しだった父が勤務先の建設現場で事故死し、過労で祖母も病に倒れてしまったことを知り、ショックを受ける。生まれて初めて家族のために何かをしたいという思いに駆られたサンファンは「新人王戦」でトップに立つ、と心に決める。

 一度は引退した40代のボクサーと10代の新人ボクサー。対照的なふたりの男がそれぞれに抱えたそれぞれの思い、それぞれの事情を、リュ・スンワン監督は一歩下がったところから等分に眺め、公平に描きだす。その視線は暖かくも一定の距離感を保っており、決して被写体に必要以上に寄り添ったりはしない。まるで良質のドキュメンタリー映画を見ているかのような本作は、だからこそどちらかに肩入れすることを観客に許さない。見るものはただ試合の成り行きをハラハラと見守るしかないのだ。「こんな気持ち、以前にも経験したな」と思い返してみたところ・・・ 『あしたのジョー』で矢吹丈と力石徹がリングで対決するシーン。あの時の気持ちと同じなことに気付いた。

 主役を演じたチェ・ミンシクとリュ・スンボムの完璧に作りこまれたボクサーの体は、それだけで感動的だ。特に40代にしてあそこまで自らの肉体を鍛え上げたチェ・ミンシクには、同世代にして中年太りの私、頭が下がる。


リュ・スンワン監督インタビュー

日時:2006年2月25日(土)
会場:ホテルシューパロ 映画祭プレスセンター
聞き手:月原万貴子、イソガイマサト、樫田一恵
通訳:根本理恵

 ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2006の招待部門での『クライング・フィスト』上映に併せ、ゲストとして来日されたリュ・スンワン監督に、自作についてお話を伺った。なお、3人のライターがアトランダムに質問した合同インタビューのため、Q&Aの順番は実際とは多少違っている旨、ご承知ください。

Q: キャスティングはどのようにおこなわれたのですか?
A: 『オールド・ボーイ』のプロデューサーから「チェ・ミンシクさんとリュ・スンボムさんのふたりを主演にした映画を作りたい」と提案されたのがきっかけです。このふたりの競演作を演出できるチャンスを与えられて断るのは馬鹿だけです。私は自分が馬鹿だと認める勇気がない(笑)ので、引き受けました。このふたりにふさわしい企画を考えて、思いついたのが以前テレビで見たふたりのボクサーのドキュメンタリー(歌舞伎町で“殴られ屋”をしている日本人中年ボクサー晴留屋明と、刑務所でボクシングと出会い出所後プロになった新人ボクサー、“韓国のタイソン”と呼ばれる男ソ・チョルを追ったもの。2本は別々の作品)でした。この話をこのふたりで出来たらすばらしいと思い、プロデューサーに提案して実現しました。

Q: 主演のおふたりがとてもボクサーの体になっていたのですが、どのくらい訓練を受けたのですか?
A: 撮影3ヶ月前から実際にオリンピック選手を育てたトレーナーについて訓練を始めました。今回の映画はふたりの撮影がまったく別々に行われていたので、片方が撮影中は、もう片方が訓練を続けていました。最後の試合のシーンで審判の役をやっている人は、実際に韓国のボクシング協会所属の審判員で、解説をしているのも韓国では有名な解説者です。その方たちが、あのふたりは実際の新人王戦に出場できるくらいの実力があるとおっしゃっていました。チェ・ミンシクさんは『オールド・ボーイ』のときに既にボクシングの訓練を受けられていましたし、リュ・スンボムも私と作った前作『ARAHAN アラハン』で、アクションのテクニックが身についていたので、3ヶ月といっても効率的な訓練ができたのだと思います。

Q: クライマックスの試合シーンの撮影には何日くらいかかりましたか?
A: 予選のシーンに5日、決勝のシーンに3日かかりました。

Q: その決勝シーンですが、チェ・ミンシクさんの提案で段取りを決めずに撮影されたそうですが?
A: 最初にその提案を聞いたときは「本当にこの映画は完成できるのかな?」 と心配になりました。しかし、俳優たちが準備をしている過程を見て、これならいけると確信が持てました。私は韓国の俳優はすばらしいと思っているのですが、それは普通ならスタントが必要なシーンでも、スタントを使うのは観客をだますことだから、よっぽど危険でない限りは自分でやるべきだと思っている人が多いからです。たとえば『力道山』のソル・ギョングさんも『反則王』のソン・ガンホさんも自ら試合シーンを演じています。本作にもそういう韓国俳優の精神が反映されていると思います。

Q: 俳優自らが演じることによるメリットは?
A: スタントだと顔が映らないように撮影の角度を調節しなくてはいけませんが、俳優が直接アクションを演じてくれると、そういう規制がないのでカメラを自由に動かせました。本当に段取りを決めずにやったので、ラウンドが進むにつれてパンチが強くなったり、疲れから息が上がったりしましたが、おかげで良い映画を撮ることが出来ました。

Q: 怪我はなかったのですか?
A: チェ・ミンシクさんが訓練のシーンであばら骨にひびが入ってしまい、ちょっと触っただけでも痛がっていました。最後のシーンは1月に撮影したのでとても寒かったんです。試合シーンで汗をかいて、モニターチェックでその汗が引いて体温が下がるため、俳優たちは疲労が激しかったです。申し訳なくて、彼らとはなるべく目をあわさないようにしていました。

Q: 普通、こういった映画は片方がヒーロー、片方が敵役のパターンに陥りがちだと思うのですが、本作では本当に平等に描かれていて感心しました。
A: 演出する上でもっとも力を入れたのが、観客がどちらか一方だけを応援しないような映画にしたいということでした。そういった映画は今まであまり見たことがなく、チャレンジ精神がかきたてられました。実は最初のシナリオの構想では映画全体を3ラウンドに分けて、1ラウンドで一方の話を、2ラウンドでもう一方の話を、3ラウンドでふたりの対決を描こうとしたのですが、これだとどうしても観客は後に見た人物への思い入れが強くなってしまうようなので、現在のような(ふたりをエピソードごとに交互に描く)形になりました。

Q: 本作は、監督の今までのどちらかといえば荒唐無稽な作品とはテイストが違いますね。
A: 『クライング・フィスト』は私の演出者としてのターニングポイントになった映画です。これ以前の作品では私が好きな、やりたいことを追い求めていました。しかし、本作以降は誰もやらない、自分にしか撮れない映画が撮りたいと思うようになりました。

Q: チェ・ミンシクさんのようなベテラン俳優とがっぷり組んでの感想は?
A: チェ・ミンシク先輩から学んだことはたくさんありますが、その中のいくつかをあげると、世の中を見る目の深さ、哲学的な考え方を持つこと。そして芸術家として何かを捜索していく姿勢、そんなことを学んだと思います。言葉ではうまく言えませんが、私が先輩から受けた良い影響は、今後の私の作品に表れるものだと思います。

Q: 次回作は?
A: 現在撮影が終了し、編集中の作品があります。タイトルは『相棒 −シティ・オブ・バイオレンス−』で、アクション映画です。雰囲気は私の初期の作品『ダイ・バッド 〜死ぬか、もしくは悪(ワル)になるか〜』や『血も涙もなく』に似ているかもしれませんが、スタイルはまったく新しいものに挑戦しました。私も重要な役で出演しています。他に武術監督として知られるチョン・ドゥホンさんやイ・ボムスさんが出演しています。

Q: ふたりの主人公が均等に描かれているだけに、どういった決着をつけるのか苦労はありませんでしたか?

《以下の回答は映画の内容に触れています。》

A: もちろんすごく悩みました。心情的にどちらも応援したいという内容だけに、どちらが勝つ結末にすべきか分からなくなりました。しかし、よく考えてみると、どちらが勝ってもいいのだから、現実的に考えて、体力のある若者のほうが勝つんじゃないかと思い、ああいう結末になりました。実はアイディアはいろいろありまして、その中のひとつは最後の10秒を見せない、お互いがパンチを出したところでストップモーションにしてしまうというものだったのですが、これは観客に対して卑怯なのではと思いやめました。また、パク・チャヌク監督に相談したところ「お互いのパンチが滑って、審判をノックアウトしてしまう」なんていうアイディアももらったんですよ(笑)。制作会社からは「いっそのこと2本に分けて創れば?」というアイディアもありました。見ていただいた方から映画2本分のボリュームがあるとほめていただくことがあるのですが、だったら2本分のギャラをもらっておけば良かったなと思いました(笑)。


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