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Review 『恋愛』『5人じゃ多すぎる』
『スパイダー・フォレスト/懺悔』

Text by カツヲうどん
2006/1/15


『恋愛』 ★★

 韓国の最大手映画会社CJエンターテインメントが傘下のシネコンCGVで低予算の独立系作品を定期的に上映するようになってから、俗にいう「韓流」ではない作品を目にする機会が増えたことは、色々な意味で良いことだと思います。ただ、「誰が観るの?」的な作品も多く、また固定ファンがいるようにも見えずで、将来への投資として機能するにはまだちょっと時間がかかるかもしれません。しかし、現在の韓国映画を巡る二つの戦い、「あくまでも金になるもの、主流で行こう」とする企業と、「つまらなくても自己主張を貫こう」とするクリエイターたちの戦いが鋭角化する可能性が生まれる場でもあるわけで、ちょっと行く末を見守りたいところです。

 この『恋愛』という作品は娯楽とは程遠いものですが、きちんと正統派人間ドラマになっていて、なかなか感動的です。こういった作品はかつて韓国映画では多く観られたものでしたが、最近では希になってしまい、「韓国映画の本流」というものがあるとすれば、この『恋愛』という作品は正統派の血筋を引いた映画といえるかもしれません。

 主人公オジン(チョン・ミソン)は、失業中の夫と二人の息子を抱え、テレクラのサクラをやりながら家計を支える主婦。しかし男性に対しては真面目であり、決して家庭を反故にすることはありません。そんなある日、バイト代の支払いで揉めた彼女を、ルームサロンの経営者キム(キム・ジスク)がスカウトし、オジンはホステスとして働くことになります。最初は嫌々だったホステスの仕事も、それなりにこなせるようになった頃、客として店を訪れたエリート・サラリーマンのミンス(チャン・ヒョンソン)と知り合い、客でもあり恋人でもあり、という恋愛関係におちてゆくことになります。

 物語に甘さには全くなく、ルームサロンを巡る人間像はとてもリアルです。客商売する女性には、それ相応の理由があり、皆生きて行くには割り切って仕事をこなしてゆかなければならない苦しみがあります。しかし、それは何もこの手の商売に限ったことではなく、一般的にいえることでもある訳です。

 主演のチョン・ミソンは、有名ではありませんが、映画やテレビにちょくちょく出演している女優です。オジンがすっぴんの主婦からだんだん化粧が巧みになり奇麗になってゆく様子が丹念に、さりげなく描かれていて、オ・ソックン監督の細かい気配りといったものが感じられました。しかし、なんといっても素晴らしいのはキム女史演じたキム・ジスクでしょう。経営者として女性たちを守り、毅然と店を経営して行く様子は、威厳にあふれると共に指導者の苦悩といったものを感じさせて、非常に感銘を受けました。彼女が夫に暴行を受けるシーンは、相手役も含め、手加減なしの演技者として素晴らしいものです。もし、この作品を観る機会があるならば、キム・ジスクに注目して欲しいと思います。


『5人じゃ多すぎる』 ★★★

 この映画はビデオで撮影され、プロジェクター上映された作品ですが、低予算ながらなかなか面白い人間喜劇に仕上がっています。普通からこぼれ落ちてしまった人々の日常を淡々と綴りながらも、ときおり垣間みせる人間くさいおかしな瞬間が上手に描かれていて、他の映画でいえばカウリスマキ兄弟やジャームッシュの流れにあるコメディといえるでしょう。

 主人公の一人ドンギュは家出して仲間と部屋を借りて暮らしてきましたが、同居する男は乱暴な性格で何かといっては暴力を振います。彼らと別れたドンギュは、ゴミ処理推進運動の写真コンテストに応募して賞金を得ようと、粉食屋や弁当屋から万引きをくり返しますが、ある弁当屋で店番のアルバイト、シネに逆襲され、記憶を失ってしまったことから、彼女との奇妙な同居生活が始まります。

 この映画の特色は、登場人物たちが皆、身分不安定な貧しい階層の人々である、ということでしょう。学校にも行かずぶらぶらするドンギュや、彼の貧しい家庭の様子は、心重いものですし、店を失う粉食屋主人の悲壮、中国朝鮮族の女の子が憔悴している様子は、韓国での生活の現実というものを改めて認識させます。やがて彼らがドンギュを通して一つの住まいに集うようになったとき、一つの希望が芽生えてくるのですが、そこには「血のつながりだけが家族ではない」という、メッセージも感じられます。大笑いだったのは、シネのせまーい借家にどんどん住人が増えていってしまう様子で、ある男性と部屋に戻ったシネが、彼らと自分の母親に遭遇するエピソードは本作の白眉といえるでしょう。

 監督アン・スルギの人や社会を見つめる視点は鋭くも的確で、商業作品でも十分活躍できそうです。出演する俳優たちは無名ですが、特に粉食屋主人演じたキム・ドギュンがいい味を出していて、ちょっと今後を期待したいですね。一見斬新なようで、伝統的な韓国映画の血筋を引き継いだともいえる愉快な作品です。


『スパイダー・フォレスト/懺悔』 ★★★

 一見、サスペンスのようだが、実は人間の複雑な心理の内側を、幻想的に描いたファンタジーともいえる作品だ。当然、「娯楽」の二文字から程遠い内容になっているため、韓国での公開が予定より一ヵ月ずれ、かなり少ない上映館での公開になったのは仕方ないといえるだろう。本来ならアート系の劇場で掛けるのが相応しい内容だ。

 物語についてはネタばれに繋がるため、詳細を語ることは出来ないが、結末は、あっと驚くか、狐に包まれるか、のどちらかである。ただし、映画の冒頭を注意して観ていただければわかるように、ソン・イルゴン監督は決して難解なミステリーを観客に対して、無理やり提示していない。観る人が観れば、映画のテーマやオチがわかるようになっている。ミステリーとしてみた場合、色々な意見も出るだろうが、監督は、そこら辺のことをきちんと予想して製作しているようだ。

 主人公のカン・ミン演じたカム・ウソンは、彼の繊細さがよく出た演技を見せ、映画のテーマに沿った配役になっている。ギラギラとした男らしさを売る俳優や、単なる二枚目では、この役はこなせなかったと思う。だからカン・ミンを巡る運命は一層哀しく切ない。彼にとり、永遠の恋人であるウナと謎の女スインの二役を演じたソ・ジョンは、『魚と寝る女』以来、久しぶりだが、一段と成長したようで、謎めいたヒロイン像が印象的だ。彼女が森でたたずむ姿は、物語の鍵をよく象徴している。

 複雑な構成、難解なテーマ、地味な配役、暗い映像と、ちょっと冴えないアート作品といった感じの映画だが、今まで韓国に無かった感覚を目ざした、異色作だ。


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