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Review 『無影剣 SHADOWLESS SWORD』『サッド・ムービー』

Text by カツヲうどん
2006/1/8


『無影剣 SHADOWLESS SWORD』

原題:無影剣
2005年執筆原稿

 この作品は、2005年の終わりを飾る、韓国内興行大失敗作となってしまいましたが、映画自体はなかなか楽しめる武侠ファンタジーに仕上がっています。

 目新しいのは今から千年以上前の中国大陸を舞台にした、渤海国とスキタイ人の戦いが物語の背景にあることでしょう。渤海国とは、高麗系の人々が建立した国家といわれていますが、現代の外交問題などがあって、実態はあまり明確にされていません。高麗系民族と中央アジア民族の激突を描いた物語は非常にロマンが感じられるものですが、それが韓国内で人気を得ることが出来なかった原因の一つかもしれませんね。

 主人公、テジョンヒョンは渤海最後の王子として生を受けましたが、内乱によって幼い時分、国を追放され、今は流浪の身。そこに一人の卓越した武術の使い手である美女ヨンソハが現れ、彼をスキタイ人に立ち向かう渤海国指導者として、国へ連れ帰ろうとします。しかし、彼らの前に突如姿を現したのは、スキタイ反乱軍のリーダー、クナァピョンに率いられた殺し屋軍団。かくて、過去から逃げ続けるテジョンヒョンは意志に反して運命の戦いに巻き込まれてゆきます。

 剣術アクションは良くできていて、冒頭の5分は、なかなか見物となっています。製作途中にアメリカの会社が買ったのもうなずける出来ですが、全体的にチャンポン・アジアな場面の連続でもあって、一部の人は気にくわないイメージかもしれません。

 また、「無影剣」とは、刀で叩き切る術ではなくて、「気」を刀身に充電し、切らずして相手の身体を破壊する技ですが、日本人からすると、二十年前に活況を呈した日本の某漫画そのまんま、突っ込みどころ満載で笑えます。ですが、これは監督の素直なリスペクトとして大らかに受け止めましょう。また、注目してほしいのは、登場する二人の美人剣士が自らを「武士=ムサ」と呼び、誇り高く使命を果たそうとするところでしょう。これは日本の「侍」とは少しニュアンスが異なる印象を受け、私は中世ヨーロッパにおける「ナイト」に近いかな、と思いました。

 テジョンヒョン演じたイ・ソジンは『チェオクの剣』の好演が印象に新しい俳優ですが、映画の主演はちょっと荷が重すぎたようです。セカンドかサード・クラスの脇役としてなら、とてもいい俳優になりそうなんですけどね。彼が全然強くなくて、弱いところが本当はミソなんですが、そこら辺の作り込みが甘いために、魅力的な主人公になれていないのです。キャスティングで画期的なのは、シン・ヒョジンがスキタイ人を演じていること。堂々とその風貌に沿った役柄を演じられたことは、今の韓国だったからこそと思います。ただ、スケジュールの関係か、出番はあまり多くありません。ヒロインのひとり、ヨンソハ演じたユン・ソイは『ARAHAN アラハン』と同じく、凛とした剣客ぶりが素敵ですが、それよりも、エキゾチックな女武士メヨンオク演じたイ・ギヨンは、愛に殉じる悲劇の女刺客をインパクト大に好演、要注目です。

 この作品は、異端の時代劇ですが、キム・ヨンジュン監督の前作『アウトライブ −飛天舞−』よりは遥かに楽しめる作品であることは、お約束したいと思います。


『サッド・ムービー』 ★★★

 この作品は、おそらくは製作会社サイダスHQ肝煎りで作られたであろう、異常に豪華(「非常に」ではなくて「異常に」です)な配役のグランド・ホテル形式の映画です。ただ、先行して『私の生涯で最も美しい一週間』がヒットを飛ばしてしまったためか、韓国での興行は芳しくありませんでした。また、タイトルも「サッド・ムービー=悲しい映画」であったことが、映画に純然たる夢を求める韓国の観客にとっては、魅力が乏しかったのかもしれません。しかし、前作『Sダイアリー』で才覚を発揮したクォン・ジョングァン監督の手腕は的確で、話がちょっと散漫かつ退屈な部分もありますが、人間ドラマという点では、『私の生涯で最も美しい一週間』よりも上かな、思いました。

 映画は消防士ジヌ(チョン・ウソン)と恋人スジョン(イム・スジョン)、聴覚障害者のスウン(シン・ミナ)の生活を中心に、同時間軸で生きる様々な人々を描いて行きます。個々のエピソードが有機的に繋がっていないのはなぜ?ともいえるのですが、無理やり関連づけた『私の生涯で最も美しい一週間』に不自然さを感じる人もいるわけで、これはこれでよかったと思います。

 各エピソードの中で、私にとり一番印象的だったのは、伝言屋ハソク(チャ・テヒョン)です。フリーターの彼は恋人との付き合いに悩む日々。ある日、道端で見知らぬ女性に別れ話の仲介役を頼まれ思わぬ謝礼を受け取ったことから伝言屋を始めます。なぜ、この話が印象深かったのかといいますと、見知らぬ他人に勝手なお願いをする、というところが実に韓国的だったこともありますが(笑)、ハソクがネットで営業を行って仕事を遂行する、というところがネット社会の限界を表わしていたように見えたからです。ここで象徴的なのは、伝えるのが例え赤の他人であっても、直接面と向かって相手に伝えることにクライアントたちが価値を見出している、という点です。韓国における若年層のネット依存ぶりは日本の比ではなく、チャットや伝言板は、想像以上に生活の道具となっています。その反面、ついて行けず、疎外される人々もいる訳ですし、決して万能ではありません。ここには、人のコミュニケーションに対する原点回帰への強い問題意識があって、韓国のみならず、今の日本にも繋がってゆく時事を表現している部分だと思いました。

 映画の最後には悲しい結末が待っていますが、伝言屋のエピソードとは対照的なデジタル・メディアへの肯定的な意見にもなっていて、たとえ介するものが疑似現実であっても、愛するもの同士の絆の確認にはなんの支障もないんだ、という風な解釈も出来るでしょう。クォン・ジョングァン監督の持つ、人間洞察力を感じさせる作品です。


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