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Review 『ナチュラル・シティ』

Text by カツヲうどん
2005/11/27


『ナチュラル・シティ』 ★★★★★

 この映画は、一般的な韓国映画のイメージに魅力を感じる方々や、SFにうるさい方々にとっては、あまり好かれない映画かもしれない。なぜなら、SFというジャンルは、純然たる韓国映画の心象にそぐわないし、目の肥えたSFファンからすれば、韓国のSFセンスは物足りないどころか、あまりにもカッコ悪いからだ。

 だから、この『ナチュラル・シティ』は、私個人も全く期待していなかった。ところが、開けてビックリ! 物語や世界観に目新しさは一切ないが、韓国映画特有の情緒溢れるメロドラマと、ハードなアクション、それなりに納得出来るSFマインドが融合した、感動的な映画に仕上がっていたのである。

 物語の始まりは衝撃的だ。リドリー・スコットの名作『ブレードランナー』で暗喩されながらも決して描写されることのなかった人造人間の末路が具体的に描かれて行く。その光景は、家畜の屠殺工場か、ナチスの殺人工場のようで、残酷極まりない。特に、焼却炉の前に粗大ゴミとして死体が累々並べられる様は、現実的ですらあるのだ。彼らサイボーグ(劇中での表現)は、生きている時も、単なるヒトガタ(人形)の消耗品でしかない。主人の所有から逸脱したサイボーグは、野犬のように追われ、処分される運命にある。だが、それを追い詰め、処刑するのも、人間に率いられたサイボーグたちなのだ。

 劇中全編に散りばめられた激しいアクションやメロドラマに、うっかりすると隠れそうにはなるものの、子宮から生まれた人間と、工場で作られた人間との、残酷で無残な主従関係を、映画は最後まで貫き通してゆく。だから、そうした救済の無さに、このドラマを毛嫌いする人も多いだろうとは思うが、逆に多くの観客の心もまた、つかむに違いない。

 音楽監督イ・ジェジン(『ペパーミント・キャンディー』『オアシス』)の手になるメロディーは、情感たっぷりで、映画のメロドラマ性を非常に高めている。

 VFX映像のレベルは、なかなか高く、数年で、この水準に至った事を考えると、驚異的ですらある。確かに技術的には大した事はないし、デザインコンセプトが、日本のアニメ『GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊』そのまんま、オリジナリティは無に等しいから、世界中のうるさがたマニアには難癖をつけられそうだ。だが、韓国映画界における、数年前のVFX水準の低さや、SFセンスのひどさを考えれば、この『ナチュラル・シティ』の総合的なボトムアップは、脅威すら感じてしまう。

 美術も細かい所まで配慮がなされている。安っぽさはほとんど感じないし、MP(主人公が所属する警察軍)の装備や銃器も、きちんとオリジナルプロップ(小道具)で統一されている。韓国のアニメーション大作『ワンダフルデイズ』ですら、日本製エアガンを、そのままトレースしたような拳銃(ライフルはオリジナルデザインであったが)を振り回していたのだから、『ナチュラル・シティ』の美術的こだわりは、高く評価すべきものなのだ。

 廃墟と化した旧ソウルの街並みは、ミニチュア撮影の技術が、相変わらず低いため、かなりチャチに見えるのは残念だが、造形物自体は水準が高く、今後、撮影のコツをつかむ事が出来さえすれば、一気に開花するに違いない。対照的に、3D-CGIで描かれる、80年後の新ソウルともいうべき水上都市の姿は、非常に完成度が高い。劇中、ハングルが使われることは一切無いが、こうしたVFX映像に加え、香港その他での実写映像が上手にコラージュされており、韓国のようで韓国でない、近未来の風景を更に際ただせる事に成功している。

 MPに所属する主人公Rを演じたユ・ジテは、今までは、気弱な印象の好青年役が多かったが、今回は繊細さと素朴さを残しつつも、粗野で独善的な、20代韓国人青年気質を凝縮したような役柄を好演している。彼のアクションにキレは無いものの、長身の体型は、警察軍の制服が非常に良く似合い、実に格好いい。彼のファンにはたまらないだろう。ユ・ジテの個性は、Rの持つ、残酷さと純情さの共存する姿を、説得力のあるものにしている。

 Rが愛するサイボーグ、リアを演じたソ・リンの演技は、一見そつなく、無難に見えるかもしれないが、今回、彼女に初めて接した方は、絶対に『ロードムービー』をご覧になっていただきたい。そうすれば、リアの姿は、実は計算に裏打ちされた演技であることがよくわかるはずだ。そして、ソ・リンの女優としての資質も、よく理解出来るだろうと思う。

 物語の重要な鍵を握る、流浪の少女シオン役のイ・ジェウンは、日本の歌手Charaの若い頃を連想させる雰囲気だ。イ・ジェウンはいままで、どちらかというと、すぐ裸になるイメージがあったが、今回の役は、そういったイメージを払拭させてくれるだろう。

 Rを最後まで翻弄し続ける、不気味なサイボーグ技師は、戦前のドイツ映画『巨人ゴーレム』(パウル・ヴェゲナー監督)からの、最強の脱走サイボーグ、サイファーは、『ブレードランナー』のロイ・バッディと、古典からの引用かつパロディのようでもある。

 さて、この『ナチュラル・シティ』という映画は、誰でも納得のいく映画ではない。だが、SFの分野では実績がほとんどない韓国において、自らの文化的個性をきちんと織り込みながら、映画『ブレードランナー』や、アニメ『GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊』に、独自の回答ともいうべきものを出して見せたことは、想像も出来なかった驚きであった。この作品は、韓国の映画史において、必ず触れなければならない記念碑的作品であることは、まず間違いない。あとは、この作品以降、韓国のクリエイター達が、どう続いて行けるか、である。だから、『ナチュラル・シティ』の登場は、後に続く韓国のクリエイター達に対して、重い宿題を出したといってもいいだろう。

 まずは騙されたと思って、観ていただきたい2003年度韓国映画の異色の必見作である。


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