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Review 『非日常的な彼女』『ビッグ・スウィンドル!』
『時失里(シシルリ)2km』『秘密−Desire−』

Text by カツヲうどん
2005/11/19


『非日常的な彼女』 ★★★★

 2004年の韓国映画の充実ぶりが実感できる、大きな拾い物の一本。話題作とは程遠いが、内容は濃厚で、良くできた人間ドラマになっている。なにゆえ主演が、チョン・ウンインとチェ・ミンソなのか?という疑問もあるだろうが、一般的なスターでない俳優たちの良さを発見する点でも、いい機会だろう。


画像提供:メディアボックス

 出だしは、女子高校生エランがトイレで出産するシーンから始まる。この時、主演の二人は、ともに制服姿で登場するが、とても高校生に見えないのが笑える。だが、これは演出上の狙いのようなので、別に不自然ではない。話の中心は、高校生にして父親になったチョルス(チョン・ウンイン)と、彼の息子チョウォン(ユ・スンホ)の親子の情愛と、その母親エラン(チェ・ミンソ)との再会を描く人情コメディだが、出演陣の好演もあってか、泥臭いネタでも、垢ぬけたバランスのいい作品になっている。ところどころ、韓国らしい、世間の不道徳を正すメッセージが感じられるが、巧妙なので全く臭くないところも洒落ている。

 この映画の特徴の一つは、主人公チョルスが、キャバレーの専属司会業をやっている、ということ。水商売の人間像をまじめに描いている点で、ちょっと今までのコメディと違うテイストになっているのだ。彼が働く店は、派手なオカマ・ショーが目玉なのだが、日本語で「オガマ(=オカマ)・ショー」ときちんと紹介している点がリアルだし、職業人としてのオカマ・キャラの使い方も今までの韓国映画とは一線を画している。オカマのポリス演じたイム・ホ(『宮廷女官 チャングムの誓い』の中宗役)は、オカマ特有の優しさ、逞しさを好演、ぜひ注目して欲しい。

 この作品で最大の見どころは、主演のチョルス演じたチョン・ウンイン(『マイ・ボス マイ・ヒーロー』『輪廻 リ・インカーネーション』『反則王』)の素晴らしい演技パフォーマンスだ。独特の風貌で、今までどちらかといえば、型にはまった役が多かった彼だが、今回は、想像を超える縦横無尽の演技を見せ、その実力がよく分かる。彼の演技を観るだけでも、この映画は価値があるといえるだろう。ヒロイン演じたチェ・ミンソ(『チャンピオン』『亡国のイージス』)は、ちょっと地味過ぎて華がないのは残念だが、よく頑張っているといえるし、息子役のユ・スンホ(『おばあちゃんの家』)の芸達者ぶりは相変わらずだ。

 スターが不在、題材も泥臭いと、大ヒットには程遠い作品だが、機会があればお勧めしたい秀作である。


『ビッグ・スウィンドル!』 ★★★

 原題は『犯罪の再構成』だが、そのタイトル通り、非常に凝った構成で語られるサスペンス・ミステリーだ。「50億ウォン強奪事件がどのように行われ、大金はどこへ消えたのか?」という謎を、起承転結を自由自在にバラし組み立て、再構成してゆく。だから、作劇の楽しさ、映画の利点を活用した作品だが、注意して観ていないと、話を見失う危険もある。他の作品でいえばブライアン・シンガーの『ユージュアル・サスペクツ』に類似した構造と内容・雰囲気を持つ映画である。ただし、話は全く違うから『ユージュアル・サスペクツ』を観ていてもネタばれにはならないから、安心していただきたい。

 この作品の特徴は二つある。一つは、チェ・ヨンファン(『子猫をお願い』)の撮影チームによる、迫力ある凝った映像美だ。冒頭いきなり始まるカーチェイスは、ニュース映像の感覚を目指したようで、今までの韓国映画とはひと味違うし、フィルターを多用したあざとい映像は、明らかにアメリカやイギリスのクライム・サスペンスへのオマージュを連想させる。映画にパズルの性格を持たせるためか、人物の撮り方も客観的で醒めている。二つ目は、好くも悪くも、パク・シニャンの「オレ様映画」である、ということだろう。彼の個性である、大袈裟な演技が、今回は十二分に発揮されているので、彼のスタイルが肌に合わない方にとっては、最後まで居心地が悪いかもしれない。ただ、パク・シニャンのオーバー演技には理由がある。これについては、ネタばれになるので、作品を観て確かめてほしい。

 俳優たちは、パク・シニャン以外にも個性派が揃っている。インギョン役のヨム・ジョアは、本当に個性的で、いい女優になった事がよくわかるし、オルメ役のイ・ムンシクも、今までとは少し違う役を好演している。ただ、警察側の配役(チョン・ホジン他)が弱いため、双方対立の図式が視覚的にハッキリしない原因になっていたこと、もう一人の敵役であるはずのキム先生演じた、ペク・ユンシクの演技が歯切れ悪く、納得のいく悪人像になっていない事などが惜しい。また、劇中ショットガンが2丁、露出度の高い小道具として使われるが、日本製と韓国製のトイ・ガンであることがはっきりわかってしまい興ざめだ。観客の大部分はわからないかもしれないが、映像にこだわったサスペンスなのだから、もう少し神経を廻してほしかった部分である。

 映画でミステリーを展開するには、活字媒体とは違い、出来る事に制約がつきまとう。だから、そこが製作者側の知恵の見せ所だが、この映画は「犯人が誰か?」ということではなく、「事件前後に何が起こったのか?」という事実を、劇中の捜査に沿って観客に提示していくことで、謎の提示と解体に成功したと言えるだろう。あっという間にネタばれする『H[エイチ]』や、最後までモヤモヤしてはっきりしない『カル』などに比べると明解ですっきりしている。ただし、日本での一般的な韓国映画のイメージとは相当異なるスタイルの作品であるため、欧米作品の泥臭い二番煎じに見える方もいるだろうし、『ユージュアル・サスペクツ』のような他の有名作品のパクリに感じる方もいると思う。確かにスタイリッシュな映像を目指しながらも、撮影技術は意欲に追いついてはいないし、美術面が弱いことは、韓国映画の特徴として相変わらずだ。俳優たちの泥臭さも、いまいちな印象の原因かもしれない。ただ、非常にカッチリしたサスペンスであり、純粋なピカレスク物を目指して成立していることは、現在の韓国映画の中において、評価すべきだと思う。この『ビッグ・スウィンドル!』は、そうした方向性がはっきりしている点でにおいて、新しい韓国映画の一つだといえるだろう。


『時失里(シシルリ)2km』 ★★★

 物語を考える時、既にある内容をどう組み合わせるかが、クリエイターのセンスの見せ所だ。この『時失里(シシルリ)2km』は、そのセンスがちょっと独特。例えるならば、韓国の巷で氾濫する「フュージョン料理」のような発想である。『ビッグ・スウィンドル!』と『クワイエット・ファミリー』と『友へ/チング』と『友引忌 −ともびき−』を混ぜ合わせ、『ぼくらの落第先生(原題:先生、キム・ボンドゥ)』を加えたような感じなのだが、こう表現して具体的イメージが湧く人は少ないと思う。

 物語の基本は、強奪されたダイヤを巡るドタバタ・クライム・アクションだ。ダイヤを奪ったソッテ(クォン・オジュン)が、逃亡先の農業コミューンで、欲に目が眩んだ農民に追い回される様と、ダイヤを奪還すべくやってきたヤクザのヤンイ(イム・チャンジョン)一団の戦いを描いている。だが、そこに謎の女幽霊のソンイ(イム・ウンギョン)が登場し絡むことから、映画は闇鍋状態になってゆく。この作品の公開前、たまたま音響担当と話す機会があったので、映画の内容を聞いたところ「パンキッシュ・ホラーだ」という答えが返ってきたが、その意味が「破天荒」という事なら、それはその通りかもしれない。

 主演を演じたイム・チャンジョンは、奇妙な髪型が面白いが、持ち味はあまり出ていない。本当の主役は、ソッテ演じたクォン・オジュンだろう。最後まで「ここまでやるんかい?」といった大活躍で、完全に主演を喰っていた。また、女幽霊演じたイム・ウンギョンも、彼女の女優としての上手さが非常によく出ていて、彼女の明るい未来を期待させてくれる。

 映画のラストが「ヤクザも本当はいい人」で締めくくられることに納得がいかないが、コメディゆえ仕方ないとしよう。とにかく変な映画だが、その「変さ」が計算の上に成立している点が新しい。


『秘密−Desire−』 ★

 鮮やかな映像美、端正な構図、まるでヨーロッパの街並みのごとく描かれたソウルの街角、全体を包む冷たいリズムと、美術作品のような映画である。反面、死ぬほど退屈であり、ゲイ、不倫といった禁断の愛を、こういった極端な作家作品でしか描きえない韓国の難しさをも、顕著に示している作品だ。

 監督のキム・ウンスはソウル大学を卒業後、国立モスクワ大学に通ったインテリらしいが、彼のエネルギーは、一貫して自らが感化されたであろう異国の風景を、故郷韓国でいかに再現するか、に注がれているように見える。それは、故郷の否定と解体、再構築のようでもあり、この作品を撮った背景にある、監督自身の複雑な問題を象徴しているようでもある。

 低予算作品ゆえ、一見、街の一角でロケをし、普通にあるもので美術を間に合わせているかのようだが、小物一つ一つ、建物のデザイン一つ一つにおいて、かなり凝った吟味がなされており、その映像美は一種のコラージュ芸術として見物だ。だが、ワンカットにかなりの時間をかけて撮っているようで、それがノロノロした、時には時間が停滞して凍りついてしまったようなリズムを醸し出しており、元気いっぱいで観に行っても、寝ないためにはかなりの努力を要する修行系作品にもなっている。

 出演している俳優たちは皆、地味で無名に近いが、他のヒット作にも出演しているので、どことなく見覚えがあるだろうと思う。今回、注目すべき俳優は、美青年レオを演じた、イ・ドンギュだろう。古代ギリシャ彫刻のような二枚目ぶりは、男と女を惑わす危険な香りいっぱいで、韓国の俳優としては、かなり珍しい(思い切った)役を演じている。『ワイルド・カード』の時は、不良グループのリーダーを、生彩なく演じていたので印象に残らなかったが、今回は舞台で鍛えた演技力を上手く発揮している。

 なお、本作とは関係ない事だが、上映されたプリントは英語字幕付きの、どうやら海外の映画祭で使われたらしいボロボロのもので、観ていて「ちょっと、いい加減にしろよな」と言いたくなった。それだけ、この作品が鬼っ子扱いされているという事だろうか。


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