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Review 『ARAHAN アラハン』『人生の逆転』
『箪笥』『品行ゼロ』

Text by カツヲうどん
2005/10/10


『ARAHAN アラハン』 ★★★★

 リュ・スンワン監督の前作『血も涙もなく』ほど、エネルギーと才気を感じさせない作品だが、韓国の娯楽アクションとしては、格段に面白い作品だ。

 武侠アクションに見えるが、コメディでもあり、実はジャンル不明の怪作といえるだろう。週刊『少年ジャンプ』の黄金期に連載されていた『北斗の拳』と『魅!男塾』のキャラと世界観、物語パターンを、現代に持ち込んだような映画である。だが、マンガそのままのキャラクターとパターンを、実写において破綻なく見せている点は、今までの、この手の韓国映画とは、一線を画している。この手のネタを映像化した場合、韓国は、香港・日本に比べて、オリジナリティを感じさせる点においては、圧倒的に歩が悪かった。しかし、この『ARAHAN アラハン』では、ソウルという街、古い歴史を持ち、現代的な東洋の大都会のソウルが舞台だからこそ、成立し得る魅力に満ちあふれている。この映画は、現代のソウルの風景を見事とらえることにも成功した作品でもあるのだ。

 物語は意外に地味で、大昔の因縁が絡んではいるものの、闘いの規模も小さい。だが、それが必然的なセコさであることは、観ていて納得出来る。また、そういうセコさが、登場人物たちにユニークだが、等身大の魅力を与えている。この映画の主役は若い男女二人だが、映画を本当に面白くしているしているのは、彼らを支える老人たちだ。ベテラン勢の個性とうまさが、役柄に巧みに重なっており、そこがまた、単なるアクションでは終わらない、この作品の面白さなのだ。

 主人公サンファン演じたリュ・スンボムは、今回、かなり個性を抑えた役作りに努めている。だから、彼が強くなって行く様は痛快だし、完全無欠の超人ではないというヒーロー像も親しみが持てる。アクションの切れもよく、かなり鍛練した様子が伺えて、彼のプロとしての姿勢が感じられると思う。ヒロイン、イジン演じたユン・ソイは、まだ顔なじみ薄い女優だが、注目株だ。美人とはいえない風貌だが、オーラが滲み出ているので、今後、大きく成長しそうだ。彼女の持つ「普通さ」もまた、この作品を痛快なものにしている。

 陰で平和を守るカンフー・マスター“七仙”の中で、一番若いと思われるジャウン演じたアン・ソンギは、作品を引き締める役割を一挙に引き受けている感じだ。彼が演じたジャウンという役柄は、若い世代と古い世代の橋渡しをする役目を持っており、年齢相応の役柄といったところである。最初、アン・ソンギが出演すると知った時、とんでもないミス・キャストになるのでは、と心配したが、全くの杞憂だった。この映画の陰の主役は、“七仙”ムウンを演じたユン・ジュサン、ユッポン演じたキム・ヨンイン、ソルン演じたペク・チャンギ、般若佳人を演じたキム・ジヨンの四人だろう。気功と武術を極めた達人ではあるが、老齢を迎えて引退したご隠居でもあるという難しい役柄を、可笑しく、時には格好よく好演している。高年齢者が、表舞台から引きずり降ろされてしまうのは、韓国も日本も事情は大差ないが、若者相手の変則的アクション映画の中で、見事、ベテランたちを活躍させたるリュ・スンワン監督のセンスは、相変わらず素晴らしい。前作『血も涙もなく』でも、ベテランたちに絶妙な配役を敷いていたが、この『ARAHAN アラハン』でも、それがよくわかると思う。

 SFやファンタジー、ホラーといったジャンル物の分野では、パッしない韓国だが、この『ARAHAN アラハン』は、韓国映画の中では、珍しくオリジナリティを感じさせる快作である。魅力的なキャラクターが活躍するのは、まさにこれから、というところで映画は終わるため、リュ・スンワン監督自身の手で、ぜひとも続編を作って欲しいと願う。


『人生の逆転』 ★★★

 この映画は驚いた事にトンデモ系SFだ。正確にいうならば、SFになるまで突き詰めていないため、中途半端なファンタジーで終わってしまっているのだが、明らかなパラレルワールドものである。昔、藤子不二雄が書いた短編群や、フジTVの『世にも奇妙な物語』あたりに出てきそうなネタである。そのせいか、お金を出して観る映画としては、水増し感のある出来映えになってしまい、かなり物足りない。逆に、TVドラマか、中編の映画として製作されていれば、ちょっとした異色作になっていただろう。

 映画は観ていて結構面白い。パク・ヨンウン監督の演出はスピーディーで澱みがなく、退屈させないし、出演者たちからは、現場の楽しさのようなものも伝わってくる。幾つかのカットは、NGすれすれのアドリブだったりするようにも見受けられるが、映画を楽しくさせているので、全く気にならない。

 主人公の元天才ゴルフ少年、スンワン演じたキム・スンウは、一時、太ってしまい、まるで別人のようだったが、今回は減量して昔に近い体型での出演だ。そのためか、動きは軽やかで、コメディ演技も堂に入っている。ヒロイン、ジヨン役のハ・ジウォンは、今までの暗い印象とはかなり異なる、饒舌で明るいキャラクターだ。スンワンの盟友、デシク役のカン・ソジンもいい。スンワンのゴルファー復活に取り組むデシクの様子は、本当に仲の良い友人のようで、観ていて微笑ましく感動的だ。

 なお、映画終了後のエンド・クレジットは、本編で一切語られなかった、もう一人のスンワンの様子が明かされ、実はここが一番面白かったりする。

 『人生の逆転』は、豪華な出演陣にもかかわらず、コメディとしては的が絞れない散漫な作品だろう。だが、実に楽しい作品である事は間違いない。劇場で観るよりも、テレビ画面で本領を発揮する、よい意味でのB級映画である。


『箪笥』 ★★★

 一見、ホラー映画の体裁は整えてはいるものの、純然たる作家系の作品であり、実は娯楽作から程遠い作品である。二重、三重に仕掛けられた複雑な物語は、まるでパズルのようでもあり、簡単な理解や解釈を最初から拒絶している。一回観ただけでは、まず分からないだろうし、二回、三回観たからといって理解できる保証のない物語なのだ。

 監督のキム・ジウンは、この『箪笥』を撮るにあたって、恐らくは、スタンリー・キューブリック監督の『シャイニング』をかなり参考にしたのではないかと思われる。映像のスタイル、精神世界を描いたプロット、時間軸を複雑に組み合わせた構成と、キューブリックの『シャイニング』を連想させる部分が幾つもあり、キューブリック版『シャイニング』の遺伝子が、現代の韓国において花咲いたとすれば、それは大いに注目すべき映画的な事件であると思う。

 物語は、姉妹スミ&スヨンと継母ウンジュの対立を軸に描かれているが、簡単には進まない構成だ。主人公の姉妹は、まだまだ幼く、野暮ったい。対照的に継母は美しく、女性として爛熟期に入ったばかりだ。だから、彼女らの対立は、あまりにも生臭く、醜い。特に、妹スヨンが、激怒した継母ウンジュの手により、折檻を受けるくだりは、諍いの白眉ともいえるシーンとなっており、最大の見所の一つだろう。

 姉のスミ(=薔花)を演じたイム・スジョンは、パズル・ボックスの鍵となる複雑で繊細な役柄を好演している。とても美少女とはいえないルックスではあるけれども、映画の中では、時間軸が進行するにつれ、段々と色香を開花させてゆくようでもあり、それは一女性の成長を観ているようでもある。妹のスヨン(=紅蓮)役のムン・グニョンは、太い一文字眉毛があまりにも特徴的だが、前作『永遠の片想い』とは180度異なった、特別なキャラクターを、今回は演じている。

 今回、素晴らしい演技を披露したのは、継母ウンジュ役のヨム・ジョンアだ。ウンジュ役の素晴らしいところは、彼女が意地悪で冷酷、無慈悲であると共に、快活で社交的、明るく洗練された魅力的な女性であるということだ。その二律背反なキャラクターをヨム・ジョンアは魅力的に演じている。姉妹の実父役のキム・ガプスは、本作品の格を高めてはいるけれども、あまり特筆すべき役柄ではない。

 撮影のイ・モゲ&照明のオ・スンチョルが作りあげた映像は、残念ながら今二つだ。キム・ジウン作品の特徴である鋭利さが、かなり欠けているし、郊外の自然描写があまり上手くない。美術も大がかりで凝ってはいるが、セット然とした部分が多く、かなりリアリズムを損ねてしまっている。それがデザインとして機能していれば良いのだが、そうなってもいない。

 この『箪笥』は、評価が真っ二つに別れる作品だろう。日本では、決して好評を持って迎えられるとは思えないし、特にラストについては反感を抱く方も多いと思う。だが、キム・ジウン監督の今後を考える時、大いに期待させられてしまう作品であることは間違いない。


『品行ゼロ』 ★★★★

 一見、いかにも最近の若手監督による安易な韓国式コメディのようだが、内容は手堅く、オーソドックスにまとめられており、中々感動的な作品に仕上がった。

 同じ1980年代のノスタルジィを描いた映画として『友へ/チング』が「美しき80年代」を描いたとすれば、『品行ゼロ』は「楽しき80年代」を描いた映画といえるだろう。個人的には『友へ/チング』の持つ、お坊ちゃま臭い哀愁に共感できなかった事に比べて、こちらの『品行ゼロ』は、十分に同感出来るノスタルジィに満ちている。

 品行ゼロの不良高校生チュンピル演じるリュ・スンボムは、演技がワン・パターンのきらいはあるものの、今回はまさに彼の一人舞台である。韓国の劇場は彼のファンらしき女性客で一杯、その一挙一動に爆笑の渦が沸き起こり、大変楽しい雰囲気だった事が印象に残る。喧嘩早い不良娘ナヨン役のコン・ヒョジンは、脇役に徹して、それほど活躍しないが、彼女の演技力と個性は、一種のカリスマ性を漂わせる。美少女ミニを演じるイム・ウンギョンもまた、この作品で可能性を示したと言えるだろう。今までの「TTL」のCMや、映画『リザレクション』では、あくまでも、お人形的、記号的な役割ばかりだったが、今回は予想以上に演技が出来る事を証明した。彼女の普通性を強調した演出も非常に効果的で、ラストの感動を盛り上げている。

 劇中の表現に、一部マンガ的すぎる部分もあるが、『火山高』のように嫌味はなく、リュ・スンボムの魅力と、韓国映画アカデミー13期の若手チョ・グンシク監督の手堅いドラマ演出に支えられて、過去への憧れを心優しく、瑞々しく、そして可笑しく描いた、愛すべき好編となった。


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