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Review 『私の頭の中の消しゴム』
『甘い人生』『秘蜜』

Text by カツヲうどん
2005/10/2


『私の頭の中の消しゴム』 ★★★★★

 2004年に公開された韓国映画は、今までになく質の向上が著しい作品が多かった。次から次と意欲作・秀作が登場する中で、「また、出た!」傑作が、この『私の頭の中の消しゴム』だ。

 題名、キャスティングだけでは、ミーハーな印象。私も、日本のテレビ・ドラマの焼き直し程度のイメージしか浮かばなかったので、全く期待していなかった映画だった。だが、『八月のクリスマス』、『ラスト・プレゼント』、『バンジージャンプする』、『アメノナカノ青空』と、これらの作品が好きな方、思い入れある方々なら「あの感動が再び」おとずれるに違いない、新世代韓国メロ・ドラマの登場だ。

 まず、主演の二人が素晴らしい。ヒロイン、スジン演じたソン・イェジンは、『ラブストーリー』を越えた、彼女の代表作にふさわしい演技と存在感を見せる。少女から女へと揺らぎながら成長して行くスジンの姿を、とても格好悪く、実に可愛らしく演じている。チョルス演じたチョン・ウソンも、魅力的だ。決して誰にも媚びず、自分の目標に向かってクールに、マイペースに突き進んで行くチョルスの姿は、男から観ても、漓としていて格好いい。こんなことは、韓国映画を観ていてそうそうあるものではない。日本では、知名度がイマイチの彼だが、この『私の頭の中の消しゴム』が日本で公開された暁には、その人気は、急上昇間違いない。

 映画のかなりの部分を、ソン・イェジンとチョン・ウソンのバスト・ショット以上のアングル、そして切返しのカットで占めるが、観ていて全く飽きない。いわば映像作りでの禁則を多用しているにもかかわらず、これだけ魅力的なのは、主演二人がどれだけ素晴らしく、演出チームの仕事が秀でていたか、の証でもある。真のコラボレーションとはこのことだ。

 そして、イ・ジュンギュの撮影チームが作り上げた映像美も、二人の名演技を盛り上げる。特に主人公二人が初めてキスを交わす屋台のシーンは、永遠に語り継がれるべき名シーンだろう。この素敵なシーンは、やがて二人を待ち受ける苛酷な運命へと繋がってゆき、それを目の当たりにした時、観るものは言葉を失う。

 チョルスの家族との葛藤が、とってつけたような安易で半端な物だったり、ヒロインを巡る周辺の人々の描き方が形式的だったりと、気になる部分も多々あるだろうが、韓国映画が好きな人も、嫌いな人も、心を率直して観て欲しいと思う。ちょっぴり残酷だが、素敵で切なく、そして哀しく、人々の普遍的な美しさを讃えた作品だ。


『甘い人生』 ★★

 この作品は、4月1日に韓国でロードショー公開され、続いて4月23日に日本で封切られた。私はソウルでこの『甘い人生』を観たが、韓国メジャー作品の日韓同時公開など数年前までは「絶対ありえない事」だった訳だから、特筆すべき出来事だろう。反面、互いの公開日が近接するほど、日本と韓国の、観客が求めるものの違いが浮かび上がってくる。このことを、今後、日本や韓国の会社が、どう活用して行くか、ちょっと興味深い。

 主演がイ・ビョンホンということで、韓国映画に関心のない人からすれば、単なる韓流ブームの一本にしか過ぎないが、「キム・ジウン監督+イ・ビョンホン主演」という組合せは、実はメジャーというよりもマイナー路線を狙った意欲作といえるし、クリエイターとしての本音を「メジャー」という枠内で謀ったかのような実験作にもなっている。そして、この作品を語るとき、必ず比較をさけられないのが、2004年カンヌ映画祭で審査員特別賞を受けた『オールド・ボーイ』の存在だ。

 口が悪い言い方をすれば、この『甘い人生』は『オールド・ボーイ』の二番煎じといわれても仕方ないし、『オールド・ボーイ』の高い評価があったからこそ、作りえた作品といえると思う。いまだに韓国で根強い人気を誇る『オールド・ボーイ』だが、国際的に評価された以上に、韓国のクリエイターに与えた影響は、日本人が考えるより大きい。しかし、パク・チャヌクに並ぶ存在はなかなかいない。そんな中、ヒット・メーカーであり、こだわったディティール性で評価されていたキム・ジウン監督と、作家指向の企画を好む俳優イ・ビョンホンが『甘い人生』に登板した事は自然な成り行きだろう。

 しかし、この『甘い人生』に「オールド・ボーイの夢よ、もう一度」という目的があったとすれば、それが成功したかどうかは、残念ながら疑問だ。『甘い人生』は、イ・ビョンホンのアクションの切れも良く、映画の技術的水準も高く、と、普通のクライム・アクションとしては、悪くない。また、キム・ジウン監督は重度のガン・マニアなのか、マイナーだが有名な、旧ソビエト/スチェッキン・ピストルの描写は、東西随一のこだわり方だ。登場する人物も、物語の舞台も、過度に誇張され、一種無国籍な雰囲気を狙っており、映画の目的の一つが、マカロニ・ウエスタン的混沌さの再現であった事は、ラストの大乱戦を観てもらえれば分かると思う。

 しかし、そういった意欲も残念ながら『オールド・ボーイ』に肩を並べるところまでは行かず、せいぜい届いたのは『オールド・ボーイ』足首程度といったところだろうか。『オールド・ボーイ』のパク・チャヌク監督作品の場合、残酷さとは裏腹の、人間賛歌と社会正義、絶対的ユーモアが存在する。しかし、『甘い人生』のキム・ジウンの場合は、ディティールの繊細さでは非常に優れてはいるものの、人間描写の奥深さがイマイチで、ユーモアとして折り込んだつもりの部分も、監督の生真面目な作風からくる、過度な冷淡さゆえ、笑えないものになってしまう。また、企画としてのオリジナリティの無さ、後発ゆえのマンネリ感も、『甘い人生』の、作品としての差別化にマイナスに働いている。主演格の登場人物たちにしても、皆、スタイルばかりを追っていて、中味に乏しく、彼らの人格や人生が全く伝わって来ない。かといってマンガ的なカリカチュアにも徹し切れておらずで、魅力がない。確かにスタイリッシュと人間臭さを両立させることは至難の技だろう。しかし、それが出来たからこそ、『オールド・ボーイ』は高く評価されたのだろうし、逆に『甘い人生』は、それが出来なかったから、高い評価が出来なくなってしまうのだ。決してつまらない作品ではないが、映画とは、ディティールだけでは成立しないことがよくわかる作品だろう。


『秘蜜』 ★

原題『緑の椅子』

 この作品を監督したパク・チョルスは、今でこそパッとしないが、1990年代初頭の韓国では、注目すべき監督の一人だった。日本において、韓国映画が、まだまだ特殊なものであった時代(といっても、ほんの数年前までそうだった)、彼が監督した『301・302』(1995)や『家族シネマ』(1998)が日本でもきちんと上映されたから、観た人もけっこう多いと思う。特に『301・302』は、当時の韓国映画として、かなり狂った内容でありながら、極めて常識的というか、良識的なブレーキがかかった演出がなされており、監督の理知的さを感じさせ、感性よりも、理論重視型の監督という印象を受けた記憶がある。

 今回の映画は、低予算の小作品で、映像にこだわりを見せていても、今の韓国映画としては既に古臭く、残念ながら過去の作品、といった印象は否めない。物語も、一昔前だったら、衝撃的だっただろうが、今の韓国では、別になんの驚きももたらさないし、登場人物たちの突飛な行動、過度に感情表現があらわにされる様子も「演出的な狙いなのかな」と思いつつ、失笑の対象にもなっていて、ユーモアと受け止めるべきか、否か、よくわからないものだ。

 主人公ムニ(ソ・ジョン)とソヒョン(シム・ジホ)の、年齢や立場を越えた純愛物として解釈する事も出来る物語だが、年がら年中、さかってばかりで、彼らや周りの人々からは精神性が感じられないし、「大人の恋愛」というよりも、中学生か高校生の痴情話といった風情であって、観ていて疲れる。どうせなら、わりきって喜劇に徹した方が、より優れた映画になっていたのではないだろうか。

 時代とクリエイターのずれを大きく感じた作品だった。


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