この作品をこれからご覧になる方々の多くは、まずは主演の二人、イ・ヨンエとイ・ジョンジェがお目当ての事だと思います。しかし、映画が終わると、詐欺師コンビを演じたクォン・ヘヒョ(=ハクス役)とイ・ムヒョン(=ハッチョル役)の人間味溢れる名コンビぶりに、必ず心魅かれているに違いありません。

 なぜなら、名演技であることはもちろんの事、実は彼らが観客に近い存在であり、観客の代理人であったからではないでしょうか。この映画において、ヨンギ(イ・ジョンジェ)とジョンヨン(イ・ヨンエ)の夫婦関係はうまく行っていません。本当は互いを深く思いやっているのですが、諸々の事情で喧嘩ばかりしています。しかし、観客はそんな二人の本当の心の内を、歯痒い思いで見守る事しか出来ません。

 そこに登場するのが、詐欺師のハクスとハッチョルです。彼らは最初、ヨンギとジョンヨンを騙そうと接近して来ますが、やがて二人の愛の深さを理解する事となり、悪戦苦闘しながらも、観客に代わって、ヨンギとジョンヨンの、最後の愛の橋渡しをする事になってゆくのです。また、ハクスとハッチョルの劇中での役割は、人形浄瑠璃における、義太夫と竹本のコンビにも似た、物語の語り部でもあったのではないでしょうか。

 この詐欺師コンビがいたからこそ、『ラスト・プレゼント』は、より感動的で忘れられない作品になった事は、観終わった方々なら、十分に納得していただけると思います。

 独特の顔立ちとオーバーアクションが印象的な、ハクス役のクォン・ヘヒョは、元々は舞台出身。TV、CM、映画と大活躍している、韓国ではよく知られた個性派で、シリアスな役もこなせる、柔と剛を備えた実力派です。『ラスト・プレゼント』のハクス役は、まさに彼の代表的な名演技と言えるでしょう。

 とぼけた表情と、レスラーのような体躯が特徴のハッチョル役のイ・ムヒョンも舞台出身です。映画デビューはつい最近ですが、韓国では映画の常連脇役として、お馴染みになりつつあります。出演作は意外に多く、『火山高』(2001)や『達磨よ、遊ぼう!』(2001/劇場未公開)などにも出ているので、ファンになった方は探してみて下さい。

 ヨンギの相棒チョルスを演じたコン・ヒョンジンは、若手の名脇役として沢山の映画に出ており、イ・ジョンジェの新作『オーバー・ザ・レインボー』(2002/劇場未公開)にも、主人公の大学時代の友人役として、出演しています。

 ジョンヨンの幼なじみ、おでぶのエスクを演じたク・ヘリョンも、TVや映画では欠かせない個性派女優。どこかで彼女をご覧になった記憶のある方も、必ずいらっしゃる事でしょう。2003年日本公開予定の時代劇『アウトライブ −飛天舞−』(2000)にも出演しています。

 こうした配役陣の中で、俳優のキム・スロと映画監督のキム・サンジンがゲスト出演している事にすぐ気がついた方は、あまり多くなかったかもしれません。TV番組のリハーサルでヨンギにパンチを喰らわす売れっ子のユシクこそキム・スロであり、彼のマネージャー役として不遜な態度で振る舞う人物がキム・サンジン監督なのですが、この二人は、現在の韓国映画におけるキーパーソンたちの一員といっても過言ではありません。

 ユシク役のキム・スロは、『シュリ』(1999)にも脇役で出ていますが、何といっても注目を浴びるきっかけになったのは、キム・サンジン監督の大ヒット作『アタック・ザ・ガス・ステーション!』(1999)での中華料理屋出前役でしょう。ガソリンスタンドを占拠した四人組にドツキ回され、最後にはブチ切れてしまい、出前持ち軍団を率いて逆襲をかける役柄を、荒々しくエネルギッシュに演じていました。また、日本公開された『反則王』(2000)では長髪の人気レスラーを、『リベラ・メ』(2000)では消防隊員を熱演。そのほか、初主演となった『火山高』では怪力の番長を、『おもしろい映画』(2002/未公開)では日本人のテロリストを、そして『達磨よ、遊ぼう!』ではヤクザ役と、相変わらず存在感抜群の怪演を見せてくれています。『ラスト・プレゼント』では、さりげなく出演しているので、是非注意して観て下さい。

 一方、マネージャー役のキム・サンジン監督は、今韓国で最も売れている映画監督の一人です。最近では『新羅の月夜』(2001)のヒットが記憶に新しいところですが、ソル・ギョング主演の新作『ジェイル・ブレーカー』(2002)も、彼がメガホンを取っています。彼は、一貫してコメディーを撮り続けていますが、特異な映像も特徴で、いわば日本の岡本喜八監督に似た、職人かつ作家監督と言える存在です。また彼は『ラスト・プレゼント』のプロデューサーでもあり、若手の育成にも力を注いでいます。

 劇中番組「お笑い王」の司会を務める男女の二人も、韓国では有名な面々です。男性司会者役のペク・チェヒョンは、TVを中心に活躍している中堅コメディアン。名前がわからなくても「太ったギャグマン」といえば、すぐに彼のイメージが浮かぶくらい、よく知られた人気お笑いタレントで、『ラスト・プレゼント』ではギャグ監督も務めています。韓国のお笑い番組には頻繁に出ているので、機会があれば一度探してみて下さい。女性司会者役のコン・ヒョジンは、今、韓国の若手女優の中では、最も注目されている一人。TVの人気ドラマ『華麗なる時代』、『勝手にしやがれ』に主演の一人として出演し、人気を集めました。映画では『少女たちの遺言』(1999)や『火山高』、『ガン&トークス』(2001)の高校生役が記憶に新しいところですが、2002年度は、続々と出演作品が公開されているので、近いうちにそれらの作品群を、日本で観る事が出来るかもしれません。

 映画『ラスト・プレゼント』をこれからご覧になる予定の方々は、新たなご贔屓を見つけて、応援していただければ幸いです。また、既にご覧になった方々も、出演者たちの今後の活動と共に、韓国映画の動向を注目し続けていただければと願っています。そうすれば、楽しい発見や感動的な瞬間が、これからも皆さんの前に、きっと、たくさん広がる事に違いありません。韓国映画の新しい波は、まだまだ、うねり始めたばかりなのですから。


<筆者プロフィール>
 フリーのプロデューサー&ライター。元々はVFX系出身。ムン・スンウク監督の『バタフライ』(2001/劇場未公開)に、ちょこっとだけ関わる。昔から韓国映画に縁があってよく観ていたが、真面目に観るようになったのは、つい最近。たまたまアニメーションの仕事でソウルに長期滞在していた1999年、韓国映画の大転換期を肌で体験し注目するようになった。日本と韓国の長所を併せ持った作品が作れないかと日々思案中だが、溝は深く険しく頭を抱える日々。




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