学生府君神位
題名 英題 ハングル |
学生府君神位 Farewell My Darling 학생부군신위 |
製作年 |
1996 |
時間 |
119 |
製作 |
朴哲洙フィルム |
監督 |
パク・チョルス |
出演 |
パク・チョルス パン・ウンジン キム・イル ムン・ジョンスク チェ・ソン クォン・ソンドク チュ・ジンモ パク・チェファン チュ・グィジョン ソン・オクスク チョン・ハヒョン キム・ボンギュ ナム・ポドン ユ・ミョンスン ホン・ユンジョン パク・トンヒョン チェ・ユギョン |
日本版 Video DVD |
なし |
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韓国の「お葬式」映画。父親の葬式で久しぶりに故郷に集まった親類縁者一同が繰り広げる騒動を描く。題名の「学生府君神位」は位牌に書く死者への尊号。
韓国ではテーマ的にかぶる『祝祭』と同年に公開され、国内映画賞を分け合った。『祝祭』には、おばあちゃんと孫の心温まる話しがあり、あれを良いと感じる人と、わざとらしすぎると感じる人がいると思われるが、後者の方は本作品のほうが趣味に合うかもしれない(監督のパク・チョルスは、人間の汚い部分を描くのが得意だから)。本作品では、小憎らしい男の子が出てくるが、彼と『祝祭』のウンジちゃんのどちらを好きになれるかが『祝祭』と本作品のどちらを評価するかの分かれ目の一つ。
監督の言によれば映画のモチーフはファン・ジウの詩『旅情』からとり、企画は1986年にスタートしたが一端頓挫。その後、1992年の実父の死、そして葬式をきっかけに再度映画製作を決意したという。映画が一見ドキュメンタリー風であったり、監督自らが出演しているという事実は、この辺の事情を考慮すると理解しやすい。
監督のパク・チョルス自らが映画監督チャヌ役で出演している他、ベテランのチェ・ソンが死亡するパク老人を、ムン・ジョンスクが母親役を演じている。
ロケ地は全斗煥(チョン・ドゥファン)元大統領の生家がある慶尚南道陜川郡佳會面徳村里。この映画で重要な役割を担っている悪ガキ役(キム・ボンギュ)も現地でキャスティングした他、現地民の多くの協力を得て完成した。
ベルリン国際映画祭ほか10余りの国際映画祭に招待された。第20回モントリオール映画祭最優秀芸術貢献賞、第12回(1997)タシケント国際映画祭大賞、第34回(1996)大鐘賞助演男優賞(キム・イル)・脚本賞(チ・サンハク,キム・サンス)、第32回(1996)百想芸術大賞映画部門大賞・作品賞・監督賞(パク・チョルス)・特別賞(ムン・ジョンスク)、第16回(1996)映画評論家協会賞最優秀監督賞(パク・チョルス)受賞作品。映画振興公社選定「1996年良い映画」。
初版:1998/4/1
最新版:1998/11/1
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投稿者:前川龍彦さん 投稿日:2000年8月6日(日)00時45分04秒
前川龍彦
千葉市在住。韓国とアイルランドに関すること全般を趣味としている。本業はサラリーマンだが、ときどき愛蘭酒幕(アイリッシュ・パブ)で鼓手を務める。
この映画が公開された同じ年に、同じように葬儀をテーマにした林權澤(イム・グォンテク)監督の『祝祭』が公開され、それと韓国の各映画賞を分け合ったといわれる。
日本では『祝祭』が先に上映され、そちらを高く評価する人が圧倒的に多い。老母の葬儀をきっかけに、それまでバラバラだった家族が和解してゆく過程をほのぼのと描いた点が好感を持たれたようだ。設定がたまたま同じというだけで、この『学生府君神位』にも同じような期待を抱いた観客はみごとに裏切られる。
この映画の主役はあくまで死者である。そもそも、この映画には、遺族やその他の登場人物相互間の交渉を描くという目的は最初からないのである。すべての登場人物が、葬儀の進行に伴って登場し、次々と死者との関係を述べることで、映画そのものが進行する。
題名の「学生府君神位」とは、現代韓国社会で、ごく普通に位牌に記される文字である。それは、かって、科挙に合格して官職を得た者の位牌には位階、官職、諡号等が具体的に書かれ、それ以外の者の位牌は共通して皆このように表記された伝統が今も継承されているからである(科挙のなくなった現在、行政高等考試や司法考試等の合格者、公職選挙の当選者等は別の表記をするらしい)。したがって、この題名は、素直に解すれば、「尊敬する死者(この場合は老父)の霊魂」あるいは「名もなき庶民の霊魂」という意味を持つことになるのだが、果たしてそれだけだろうか。というのは、この映画が老父の死とその葬儀という重いテーマを扱いながら、タイトルの、まるでイタズラ書きのような線画の位牌と、そこに書かれた活字風の「学生府君神位」という文字が、不釣り合いなほど軽いのである。
この不釣り合いの意味を、次のように解釈できないだろうか。「学生府君神位」の「学生」とは、朝鮮時代の儒教−科挙体制の中では、「行く末は科挙に合格して官位に列するはずだったところ、勉学の道半ばにして不幸にも死んでしまい、名を成すに至らなかった人」という意味ではないか。科挙に合格して官職に就くことが、すべての人の人生の目標であることを前提として、「故人はその途から逸脱することなく精進したが、ただ不運にも途上で死を迎えた」と位置付けるこの言葉は、科挙に縁のないすべての庶民に、そのような途上にあったという虚構の名誉を追贈するものであり、それゆえに死者の一般的な尊号として機能するのである。
しかし、この映画のタイトルは、このような現代韓国社会にまで引きずられた建前の死生観に対する、大いなる皮肉であるように思える。
そんな空虚な建前で飾ってもらわなくても、この老父の人生は十分すばらしいものであった。むしろ、そのような陳腐な建前の下に刻苦勉励の末、途半ばの人生を送ったなどと擬せられるべきでは断じてない。
彼は、田舎の片隅で、斜陽の旧家を引き継ぎながらも、飄々と艶福にして満ち足りた人生を送り、不慮の事故での今際のきわに「子供のためにしてやらなければならないことがあるから、まだ死ぬわけにはいかない」と、あの世からの迎えの使者に訴えながら、その生涯を終えるのである。
その死者の人となり、人生の在り様を観客に伝えるために、葬儀の参加者たちは、次から次へと喪家に参集し、画面に登場するのである。まるでそれが、死者から頼まれた約束事であるかのように。
更に付け加えれば、死者は、申星一(シン・ソンイル:1960年代韓国映画界を代表する二枚目スターで、先般の選挙で国会議員に当選)にそっくりの、田舎には場違いなダンディーな老人で、女性にモテモテの洒落者なのである。
そして、死者が生前に蒔いた種が、まるでイタズラで仕掛けた時限爆弾が爆発するように、次々と顕現する場がこの葬儀である。そして、その最大のイタズラが明らかになり、ドラマは大団円に至る。
死者の満足を象徴するような、この葬列の晴々とした爽やかさは何だろう。
ていねいに作り込まれた緻密な脚本、広角のハンディカメラを駆使したカメラワーク、荒野を吹き抜ける一陣の風のようなボトルネック奏法のギターの乾いた音色、そして、これらを統合した監督と製作者の力量を以て初めて、この作品は、死者と生者の交歓という韓国の葬礼の本質を描き得たのである。
【評価:★★★★★】
(第5回シネマコリア上映会のパンフレットより)
『学生府君神位』感想集
第5回シネマコリア上映会(2000/8/20開催)のアンケートより
- パク・チョルス映画祭をやるべきではないか? 作品は『手紙』も『学生府君神位』もグレートでした。特に『学生府君神位』の真露の瓶を持って暴れる男の子にはシビレタ。
- 田舎の韓国の人のエネルギーに圧倒させられた。日本でも田舎の葬儀で共通点が多い。
- 韓国のお葬式の場面を見たのは、まったく初めてなので、とても興味深く見ることができました。一人の死に対してのそれぞれの人達の思いがよく伝わってきて、悲しいと思うのですが、その中にも笑えてしまう場面もあって良かったです。小さな男の子の無言の演技がとても良かったです。
- 笑う部分もあったのですが、亡くなった祖父を思い出しながら見ていました。泣けました。
- あちこちのドタバタシーンに毒気がなくてホントのドタバタ。マジなシーンはシラケてしまった。どーせなら徹底的にブラック・コメディにしちゃえばいいのになーと。『祝祭』のほうが好き。
- 『祝祭』とは違ったとらえ方で、私は少し韓国の葬儀を知っているので本当に昔の大変さを思い出しました。
- 色の使い方が赤・黄・青と宮川一夫さんの作品を観るようだった。韓国映画は昔の日本映画を見るようで嬉しい。
- 最後はアート系にオシャレに終わっちゃいましたネ。でもまぁいろんな登場人物がガチャガチャと出てきました。昔、祖母の葬式もこんな賑やかでした。感無量。今は親戚の数も少なくなってさみしい。豚を殺すところと少年の反抗が印象的でした。お嫁さんも良かった。本当、苦労しますね。『祝祭』よりも有名人は出ていなかったけど、チョッピリ面白かったのは良かった。泣きが演技が入っているのは知っていたけど、本当に泣き出すのはスゴイ。でも最後の女達の涙は本物でしたよね。
- 韓国の田舎の様子などが面白かったです。
- 葬式がテーマという事で暗い映画と思ったが、笑える部分があった。
- 『祝祭』よりも家族の取り上げ方が私には理解しやすかった。建前のない正直な感じがした。字幕がちょっぴり不満。
- 皆、泣きすぎ。向こうではあんなに泣くものなの?
- 記録映画的にも可。民俗学の文化人類学・生活学紹介に。
- 韓国の葬式を取り上げているが、日本と形式は似ているが儀式と本当の気持ちの矛盾、政治情勢の批判もちらっと出ていて中々面白い。
- 一週間前、友人のお父様が亡くなられ、通夜・葬儀と参列させて頂きました。大変悲しいことです。お一人の方が亡くなられ、別れというのは、そんな思いと反面、この葬儀を通じて信仰的な儀式・参列された方々の言葉・会話から、それぞれの人生観・生活も感じることもまたあり、いろんな部分から見つめられるものですね。そんな思いを感じた『学生府君神位』でした。
- KNTVでも見たのですが、今回同様なぜか時折眠ってしまいます。
- 『祝祭』よりもずっと良かった。
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