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福岡インディペンデント映画祭2011リポート

Reported by 井上康子
2011/10/16掲載


はじめに

 9月9日(金)から開催された福岡インディペンデント映画祭2011(http://www.fidff.com/)では、海外招待作品として、韓国映画が6作品上映されました。映画祭代表の西谷郁さんは釜山独立映画協会と交流があり、釜山国際短編映画祭などで上映された韓国の若手作家による短編映画が毎年、福岡インディペンデント映画祭で上映されています。また、今回はプロの監督として既にアジアフォーカス 福岡国際映画祭2008で『7月32日』が上映された実績のあるチン・スンヒョン監督の新作長編『Where are to go?』も上映されました。上映作品中、『Where are to go?』『Stray Cats』『Hi,beggars』を中心に、ゲストとして登壇した監督たちの発言も交えながらリポートします。


カフェトークの模様

『Where are to go?』 チン・スンヒョン監督/97分35秒

 西谷さんがチン監督の『7月32日』を韓国で見つけて、アジアフォーカスで上映されたことがきっかけとなり、お二人の個人的交流が続き、今回の新作上映につながったそうです。アジアフォーカスをきっかけとした人材交流が作品の交流に発展したという素敵な例です。今回の上映がワールド・プレミア上映で、韓国ではまだ一般公開の予定がないとのことで、「ここでの上映が韓国公開のきっかけになればいいのですが」と監督もこの映画祭に期待されているようでした。

 冒頭の場面、バスタブの中でリストカットしたキム・ギュリ(『囁く廊下〜女校怪談〜』『リベラ・メ』『コックリさん』など)演じる主人公から滴る赤い血がワインの赤と混じり合うというのが衝撃的ですが、赤い色が耽美的に美しく、これがチン監督の真骨頂と感じさせられる映像で、一気に引き込まれます。裕福ではあるけれど、愛情のない結婚生活に耐えられなくなった主人公が、学生時代の恋人を探そうと釜山に行き、タクシーで彼を探すというロード・ムービーです。主人公が、ユ・ゴン演じる人のいいタクシー運転手に助けられたことで恋人と再会でき、かつての夢を思い出して、自分を取り戻して行く過程が釜山の海や街を背景に丁寧に描かれています。


舞台挨拶をするチン・スンヒョン監督(左)

 リストカットで始まる前半は、夫に自分の名前さえも忘れられていることに耐える主人公の日常の息苦しさが重いテイストで表現されていますが、ユ・ゴン演じる釜山方言丸出しの明るいタクシー運転手が登場し、主人公も自分を取り戻して元気になっていくと、作品の印象ががらりと変わり画面が明るくなっていきます。原題の『オディロ カルカヨ?』は日本語に訳すと「どこに行きましょうか?」で、タクシーの運転手役のユ・ゴンが乗客となった主人公に繰り返し尋ねる言葉であり、また「あなたはこれからどう生きて行くの?」という意味も込められているようです。大学の映画学科で学んでいた頃は、恋人が監督する映画に出演していた経歴をもつ主人公が、元気を取り戻すとエキストラから再出発するという設定は監督自身の映画作りに対する愛情の表れでもあるのでしょう。

 ゲストの話が聞けるカフェトーク(上映会場の階下のカフェで、無料のコーヒーがふるまわれ、気楽にゲストの話が聞ける時間が設定されています)で、何とチン監督は自腹で福岡まで来てくださったということが紹介され感激しました。トークの中で、知名度の高いキム・ギュリとユ・ゴンのキャスティングの経緯については「女優は活躍しているけどちょっと休んでいる人をリストアップしたらキム・ギュリがいて、私の所属している会社の人脈でキャスティングできました。ユ・ゴンはこの役ができるのはおまえしかいないと口説き落としました。この作品を撮って彼は軍隊に行きました。彼は日本でもファンミーティングが開かれていて人気がありますね」と答えていました。チン監督は色彩へのこだわりが強い方ですが、「岩井俊二監督の作品が好きで、色彩についてすごく影響を受けています」という発言もありました。「『7月32日』も『Where are to go?』も、男性監督なのに、女性が日常で感じる息苦しさをうまく描いている」と感想を述べると、「常に弱い立場の人の思いを描きたいと思っています」と答えられたことも、チン監督の2作品を見て伺うと納得できました。次回作は全く違うタイプの作品になるそうです。西谷さんと監督のご縁でまた新作が拝見できたら素敵ですね。


『Stray Cats』 ミン・ビョンウ監督/6分38秒

 恋人に去られたばかりの傷心の男の部屋に、お腹をすかせた野良猫が上がり込んで来ます。主人公が、どしゃぶり雨の外へ猫を放り投げたと思いきや、実は心優しい主人公は猫を洗ってやろうと「たらい」へドブン! こんな意表を突いたスピーディな展開が続き、見ていて何とも心地よい作品です。彼と猫の共同生活が始まりますが、猫が主人公の振り回す釣り竿にじゃれつく様子や彼と猫が同じ姿勢でベッドで眠りこける姿がキュート。お腹がすくと戻り、元気になると出て行く猫の姿をユーモラスに描きつつ、主人公が猫のことを「まるで自分勝手な元彼女と同じだ!」と思うあたりをほろ苦い味わいとして加えているところに、監督の力量を感じました。ラストでは、彼女も野良猫も勝手に行ってしまい、半地下部屋から外を見上げる彼の背中が寂しげです。


カフェトークでのミン・ビョンウ監督(左)と主演のイム・ソンジン(右)

 トーク会場では、「どうやってこんなに自然に猫を動かせたのか?」という皆が抱く疑問に対して「猫は実際に私が飼っている猫で、主人公が住んでいるアパートも私が当時住んでいたアパートだったので、普段の猫の動きがよくわかっていて、それに合わせて撮影することができました」と誰もがまねできるわけではない驚きの裏技があったことがミン監督から明かされました。撮影期間もわずか「1週間」だったそうです。また「自分の猫を使い、友人の俳優に出演してもらい、自分のアパートを使い、iPhoneで撮影したので、製作費は2万円しかかりませんでした。一番かかったのは食費でした」という発言は、微笑ましく、また製作費がたった2万円という事実には驚かされました。西谷さんからは「来年1月に日本公開されるチャン・グンソク主演の韓国映画『きみはペット』(http://kimipe-movie.jp/)は日本の漫画が原作ですが、脚色はミン監督」ということも紹介されました。『Stray Cats』で「多くの人に愛される作品を作ることができる」という評価を得ての起用だろうと思います。『きみはペット』をご覧になるときは、クレジットでミン・ビョンウという名前をご確認ください。


『Hi,beggars』 キム・ソヨン監督/21分18秒

 ゴミ捨て場の段ボールで眠っていたホームレスの若い女性が目覚める。彼女は近くの商店に入ると、パンを盗んで無心にかじりつく。孤独な彼女のそばに、ある日、若い男性のホームレスがやってくる。彼は盗んだパンを彼女に渡し、おどけて踊って見せる。二人は目を合わせ微笑むが、至福の時間は長くは続かなかった。


カフェトークでのキム・ソヨン監督

 西谷さんも映像の質感を絶賛されていましたが、主人公が登場するゴミ捨て場でさえ幻想的な場所に感じさせてくれる独特の映像に魅せられました。キム監督からは「喪失感、悲しみ、愛、ファンタジーのような自分の感情から始まった作品です。まず、シナリオを書いたのではなく、表現したいことをイメージする写真を撮って、それからシナリオにしていきました」と、イメージ重視を強調した発言がありました。印象に残ったのは「俳優に私が書いた詩を渡してイメージを伝えました」という話です。イメージを共有するために色々な手段を使ったということなのでしょうが、素敵な伝え方ですね。キム・ソヨン監督、今後も詩的なイメージを持つ、個性的な映像作家として活躍する方だと思います。


おわりに

 その他、『MISSING』(ソン・スンウン監督/21分)は、誘拐された子どもたちが売買のために臓器を摘出されていく様を描いたホラー的要素の強い作品。『The Memory of Loss』(キム・ユリ監督/28分)は、不仲な姉妹の葛藤を、妹の幼い時からの記憶をたどって描いたシリアスな作品。『Busan Everland』(DKキム・テギュン監督/5分24秒)は、釜山の街全体を遊園地に見立てて紹介している楽しい作品でした。上映作をすべてを見ると、どこか人の孤独感を表現している作品が今年は多かったかなと思いますが、それぞれが個性的で新しさを感じさせてくれました。

 韓国からゲストを招いてのカフェトークは2日間行われ、2時間ずつたっぷり時間が取ってあり、若い作り手たちの熱のこもった話を聞くことができます。テーマに沿ってパネリストが発言する時間と、パネリストが参加者からの質問に答える時間で構成されていますが、たいへん和んだ雰囲気で進行していきます。さらに大勢の方にこの映画祭を楽しんでいただけたらと思います。みなさん、ぜひ福岡インディペンデント映画祭においでください。


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