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アジアフォーカス・福岡国際映画祭2011リポート
『Bleak Night(原題)』 ユン・ソンヒョン監督インタビュー

Reported by 井上康子
2011/10/16掲載


作品Review

 凍った川辺、荒れ果てた廃駅舎、雨の校庭、冬の曇り空を背景に立つ高層アパート群を背景に男子高校生の暴力、壊れていく友情が描かれ、全編が寒々しさで満ちている。主役の高校生ギテを演じたイ・ジェフンはギテの焦燥や孤独感を見事に表現しており、脚本も書いたユン・ソンヒョン監督は友人を失いたくないのに暴力で自分を表現することしかできない彼を巧みな言葉と演出でリアルに描いていて、重くひりひりする痛みを感じながらも、画面から目を離せなくなる。


今回来福したイ・ジェフン(左)とユン・ソンヒョン監督(右)
(写真提供:アジアフォーカス・福岡国際映画祭事務局)

 少年が自殺した。父と少年二人だけの家族だったにもかかわらず、息子ギテに無関心だった父は罪悪感からギテがなぜ死んだのかを周囲にいた友人たちに確かめようとする。息子が大切にしていたスナップ写真に息子と共に写っていた二人の少年を探す中で、一人は息子が自殺する直前に転校し、もう一人は退学し葬儀にも来ていなかったことがわかる。

 観る前は、ギテがどうして死んだのか、二人の親友がどのように関わっていたのかが父によって明かされるサスペンスを軸にした作品かと思っていたが、そうではなかった。もちろん、ギテの死の発端となった二人の友人、ヒジュン、ドンユンとの諍いがどのようなものであったかが次第に明らかにされていくが、「ギテが自殺するに至ったのだから友人たちが加害者でギテが被害者である」というような単純な判断ができない理由が示される。諍いの発端は些細と言ってもいいようなことだったのに、三人の友人関係は破綻し、ギテは自殺してしまった。三人は自尊心のため素直に自分の思いを友人に伝えることができない。とりわけ、ギテは感情をコントロールできず、相手を罵倒し、暴力をふるうことでしか自己表現ができない。そのために互いに友人を必要としながらも友人関係が破綻してしまう。この作品ではその過程と、彼らの哀しみや後悔が詳細に描かれている。

 学校の番長的な存在であるギテが、ヒジュンとのトラブルの後に、子分に命じて彼のバッグを奪って呼び出す場面がある。ヒジュンが全く無表情であるのに、人目を強く気にするギテにはそのように見えるのか、ヒジュンを「ニヤニヤするな!」と罵倒し殴る。しかし、ギテが一瞬不安に怯える表情を見せた時、実はヒジュンを失いたくなくて怯えていることがわかる。けれど、ギテは自分の焦燥感を暴力という形でしか表現できず、彼が恐れているヒジュンを失うという結果を自ら招いてしまう。殴られるヒジュン以上に殴っているギテを痛々しく感じるのはそのせいである。


『Bleak Night(原題)』

 ギテが友人を失うことを恐れているのは、彼には実質的によりどころになる家族がいないためだ。母親がおらず、父親も不在で、誰もいない家で彼は一人きりだ。ある日、ギテは友人の目配せの意味を問い詰め、「親の話をするといつも話を変えるだろう」と返さる。それに対してギテは「おまえの母親は飯を作りながら、勉強しろと言ってくれるだろう。俺には母親がいない。飯は自分で作るし、父親にもめったに会えない」と幼さを顕にして孤独感を訴えつつ、自尊心のために「今言えるのはこれだけだ」と話を止める。ギテが強い孤独感を抱いているという設定があることで孤独感から誰かに甘えたいという思いが強く、自尊心を保ちたいという思いといつも交錯して混乱し、暴力で自己表現をしてしまうという彼の人物像が説得力のあるものになっている。

 ギテにとって、ドンユンは長い時間を共に過ごした最も大切な友人であったが、ドンユンはガールフレンドができ、彼女に夢中になってしまう。ドンユンがギテとそれまでのような関わりを持たなくなった時、ギテは表に出すことはできない彼女への嫉妬心を我知らずドンユンに向けてしまい、彼らの友情は一気に破綻へと向かってしまう。クライマックスでは二人がキャッチボールに興じた至福の時間がフラッシュバックで挿入され、その時間が二度と戻らない哀しみが浮き彫りにされて、胸を打つ。

 ギテを演じたイ・ジェフンはティーチインで「実年齢と役柄が10歳離れているので、高校生の心情を表現できるか不安でした」と話していたが、ギテの混乱した心情を傲慢な表情から一瞬で哀しみをたたえた表情に変化させることで見せており、驚かされる。彼の魅力もあって、一つの青春映画として強烈な印象を残してくれる作品だ。


ユン・ソンヒョン監督インタビュー

── ティーチインで「ギテは高校の先輩がモデル」と言われましたが、作品の構想はどのように作ったのですか?

モデルがいたからこの作品を撮ろうと思ったのではありません。哀しみや寂しさや人の断絶感を表現しようとしたときに、高校の時の2年上の先輩の姿が思い浮かんだのです。彼も映画の主人公のように暴力をふるっていました。なんで暴力をふるうのかといろいろ考えさせられました。韓国には兵役がありますが、私も兵役を経験し、時間を経て、男性社会には「認められたい」という欲求があることや、思い通りにならないときに暴力をふるう、ということが分かってきて、主人公の人物像を作り出しました。


ティーチインの模様
(写真提供:アジアフォーカス・福岡国際映画祭事務局)

── 製作費は5千万ウォンと聞いています。韓国の国立映画アカデミーに在学中の作品なので、全部国からお金が出たのでしょうか?

全部、国から出ました。実質的には1億5千万ウォン位かかっています。編集・ライト・渉外などについては無料で借りられるなどの援助があったので、5千万ウォンと公表しています。

── ユン監督がアカデミーで特に優秀だと認められたから、これだけのお金をもらえて長編を作ることができたのでしょうか?

私がいた制作研究課程(*)には私を含めて三人いましたが、三人ともお金をもらって長編を作りました。

(*) アカデミーの最初の1年は「教育課程」、後半1年が「制作研究課程」。「教育課程」では2本の短編映画を撮り、「制作研究課程」では企画コンペで採用された者が製作支援を受けて長編映画を撮る。

── 監督が脚本も書いていますが、ギテたちの思いがひしひしと伝わって来て、すばらしい脚本だと思いました。

5・6ヶ月かけて脚本を書きあげました。書いている当時、ちょうど著明な俳優や政治家が自殺するという事件があり、人が死ぬ時、どんな理由があるのかを考えさせられました。韓国はOECD加盟国の中でも自殺率が高いのです。他人を強く意識する韓国では人間の内面的な弱さが見て取れます。自殺や死について内面的なことを描きたいと思いました。哀しさや寂しさや断絶感を描きたいという思いから始まって、人の死にたどりついて、そこを掘り下げると、結局、最初にイメージした寂しさや断絶感に戻ったという感じがしています。

── ギテを演じたイ・ジェフンさんは傲慢さの中に哀しみを見せていて魅力的でした。彼はどういう経緯でキャスティングしたのですか?

短編を撮っていた時に彼に会ったことがありましたが、その時は彼を使おうとまでは思っていませんでした。この作品を撮ることになって、目の輝きがいいし、表情に浮かぶ哀しさや躍動感がいいなあと思うようになり、彼に電話してオーディションを受けるように誘いました。オーディションで最終的に彼が残って決まりました。ドンユン役のソ・ジュニョンとヒジュン役のパク・チョンミンの二人も私がオーディションを受けるように誘って彼らに決まりました。


ティーチインでのイ・ジェフン
(写真提供:アジアフォーカス・福岡国際映画祭事務局)

── ギテはいつも相手に受け入れてほしいという思いと相手より優位な立場にいたいという二つの思いを抱えています。気持ちが複雑なので演出する監督も演技する俳優も難しいと思いましたがどんなふうに演技指導をしたのですか?

演技指導はほとんど行っていません。心理を表現するのは俳優であって、演出する監督ではありません。心理描写はある面では俳優に任せるもので、かなり自由にやってもらいました。ただ、俳優は表現することはうまいけれど、相手の話を聞いて受け取ることが苦手です。それで、よく聞いて演技してほしいということは何回か言いました。監督の役割として一番重要なのは演技と演技の間をどう埋めて観客を案内していくかということだと思っています。俳優の演技についてもう少しお話しすると、俳優の演技が「演技」でなければいいと思っています。俳優が自分の内面をそのまま出していればいいのです。映画というのはすべて架空のことです。映画の中で行っていることはすべて作りものです。けれど、感情は本当の感情を表現できます。例えば「泣く」と脚本にあっても、実際の俳優がそういう感情にならず、涙が出ないとしたらそれはそれでいいという感覚でやっていました。

── 時間が過去から現在、現在から過去へと行き来があり、さらには登場人物が同時に現在と過去に存在しているという描き方も使われていて、登場人物の思いが複雑に示されていました。撮影は過去から現在にという時間的な順に沿って行ったのですか?

予算の制約があったので、学校なら学校のシーンを全部撮影していくというように場所ごとに全部のシーンを撮影していきました。

── 廃屋になった駅舎が何度か印象的に出てきて、クライマックスにも使われていますが、駅舎のシーンを続けて全部撮るということだったら、演じる俳優は感情をこめるのがたいへんだったでしょうね?

主演の三人は、当時は演技経験が少なかったから難しかったと思います。私以上に負担が大きかったと思います。

── 次回作について聞かせてください。

明るいタッチの大衆的な作品の予定です。ファンタジーを交えたもので、人間そのものを表現できたらと思っています。


取材後記

 ユン・ソンヒョン監督は、落ちついた語り口が印象的でした。映画アカデミー内で「制作研究課程」に進んだ際は、3枠しかない企画採用枠に2千の応募があって、その狭き門をくぐって長編を製作したそうです。それを「日本の東大に入るよりむちゃくちゃ難しいです」と発言した時も、文字だけで見ると自慢していると受け取られそうですが、実際には淡々としていて全然自慢げでなかったのもクールでした。

 『Bleak Night(原題)』は重い作品でしたが、それ以前に撮った短編『子どもたち/Boys』『告白一杯/Drink & Confess』は明るいタッチの作品のようです。また、最新作『バナナ・シェイク』は、国家人権委員会が「差別」をテーマに製作しているオムニバス映画『もし、あなたなら』シリーズの第5弾『視線を越えて』の中の一編です。差別される側の外国人労働者だけでなく、これまで差別する側として描かれてきた雇用主の喜怒哀楽も描き、ユーモラスな要素を多く含んだものだそうです。

 次回作はファンタジーを交えているとのお話からもジャンルを問わず、さまざまな作品を作っていくことができる方だと思います。次回作もアジアフォーカスで上映されることを期待しています。



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