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チミン監督の作品『2lines』をお勧めします

Text by 岸野令子(映画パブリシスト)
2011/8/16


『2lines』(画像提供:CINEMA DAL)

 あいち国際女性映画祭2011で上映されるチミン監督の『2lines』は、今年4月に開かれたソウル国際女性映画祭で一番人気だった作品です。ソウル国際女性映画祭は、去年から「ピッチ&キャッチ」という企画を発足させています。何本かの候補作をプレゼンテーションし、審査の結果1位になった作品に製作支援するものです。『2lines』は、去年の「ピッチ&キャッチ」で「女性監督のドキュメンタリー製作支援」にあたるオクラン文化賞を受賞していて、映画祭から1,500万ウォンの支援を受けています。だからこそ観客の期待も一番で、その成果が待たれていたのです。


ソウル国際女性映画祭

 この作品の紹介に入る前に、私とチミン監督のかかわりを少し。

 2009年1月に「第4回女たちの映像祭・大阪」という催しが開かれ、私もその実行委員として作品選定から参加していました。そこで上映された1本がチミン監督の短編『ファンボさんに春が来た』です。70歳になって初めて学校に行き、文字を習い、絵を描き、芝居もするようになったハルモニ、ファンボ・チュルさんを取り上げた佳編で、チミン監督は識字学校でファンボさんと知り合ったのでした。この上映会以後、ソウルに行くたびに、私はチミンさんと会っていますが、あるとき「ファンボさんに会いたいですか?」とチミンさんが誘ってくれて、ファンボさんに会うことができました。ファンボさんは今も週2回学校に行くためにソウルまで通っているとのことでした。そのとき、チミンさんは「実は妊娠がわかったのだけど悩んでいる」と打ち明けてくれたのです。そして「今の自分たちのことをドキュメンタリーにしようと思います」と言いました。それが『2lines』として完成したわけです。


チミン監督(左から二番目)とファンボさん(中央)、そして筆者(一番右)

 彼女と彼チョルさん(劇作家)は「非婚カップル」です。『2lines』は、妊娠と出産を通して自分たちの関係をどうしていくか、同時進行で捉えたドキュメンタリーです。韓国は民主化以降、何度か家族法が改訂されましたが、結婚していないカップルやその子どもに対しては、結婚しているカップルとは扱いが違うようです(英語字幕で見たので、法律的なことは正確には理解できていないかも知れません)。さらには社会的に非婚カップルやシングル・マザーを見る目が厳しいようです。「非婚」という言葉がまだ定着していないのか、この作品を紹介した記事でハングルに「非婚」と漢字をつけていたものがありました。

 チミンさんは労働運動をしていた自分の両親が離婚するという体験をしており、家族制度への疑問から非婚を通してきました。チョルさんには身内に障害者がいます。妊娠から出産までの長い期間、さんざん迷った末、ふたりは婚姻届を出すことにしたのです。チミンさんとチョルさんは本当によく話し合います。ふたりの関係が赤裸々に撮られているにもかかわらず、映画には品位があって、観客がプライバシーをのぞき見るという感覚におちいることはありません。それがチミン監督の持ち味なのです。そして自分たちの選択が絶対正しいとは思っていません。迷いながら話し合ってその都度選択していくというカップルの姿勢が素敵です。2年がかりのこの作品の中には「ピッチ&キャッチ」のプレゼン風景も写っていて、病院にいるチミンさんに代わってチョルさんが壇上でアピールしているところが出てきます。なぜか泣いてしまうチョルさん・・・。


ティーチインに答えるチミン監督(左)

 ソウル国際女性映画祭での上映後、チミン監督は打ち上げの席に招いてくれました。チョルさん、息子のカンちゃん、チミンさんのオンマ、そしてドキュメンタリーを作っている仲間たちが集まって楽しい宴でした。『2lines』では撮影を担当したソン・ギョンファさん。自身は『ならずものが大統領になった日』(この作品も今年のソウル国際女性映画祭で上映されています)を監督しています。そのときはチミンさんがカメラを担当というふうに協力し合っているそうです。仕事も子育ても皆で助け合いながらしている素敵な仲間たちでした。

 『2lines』は韓国だけではなく日本にも共通するテーマを持っています。シングル・マザーが暮らしやすい社会が本当の福祉国家だとヨーロッパの大臣が言ったという話をずいぶん前に聞きました。日本以上に家族の絆が重視される韓国で、その重圧に抗している女性たち。チミン監督が姓を名乗らないのも、そうした儒教的家族観への抵抗です。現在進行形のセルフ・ドキュメンタリー『2lines』。是非たくさんの人に見ていただき、自分の問題として考えて欲しい作品です。

追記

 あいち国際女性映画祭2011では『2lines 私、妊娠しました』という邦題で上映されますが、この邦題はあまりにひどい。サブ・タイトルを入れるなら『2lines ある非婚カップルの選択』はどうでしょう? 原題の『二つの線』は、妊娠テストの結果が陽性のときに出る線の意味と、二人が非婚と結婚のどちらの道を選ぶかという意味をかけていると思います。


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