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Review 『俺たちの明日』『私の恋』『河を渡る人々:多摩川から臨津江まで』『天国からの手紙』

Text by カツヲうどん
2008/3/9


『俺たちの明日』

2007年執筆原稿

 この作品、「青臭い」という表現がピッタリな作品です。でも「真っ正直」な作品という形容も実にふさわしく、色々未熟な点を考慮しても韓国若手の作品としてはなかなか好印象の作品でした。貧しい家庭、学歴なし、縁故なしと、主人公二人を取りまく環境は絶望的です。どんなに心根が真面目でも底辺社会でフリーターとして暮らし、現実逃避のような夢を見続けるしかありません。それは今の日本と似たようなものかもしれませんが、その現実を真正面から訴え、描こうとしたかのようだったのが、この『俺たちの明日』という映画です。

 今の日本ではこうしたテーマの作品は、学生の作品でもあまり観ることは出来ないでしょう。なぜなら、ただ単に暗い現実の反映でしかなく、作る側も観る側も楽しくないからです。でも、社会派メッセージを強く込めた映画が激減してしまった、そういう作品を作りたくても違う形態に暗号として組み込まなければいけない韓国映画の現実の前では、こういった青くても真摯な作品は独立系映画でなければ観る事が出来なくなってしまっていることも事実です。

 監督のノ・ドンソクの描こうとする人間像は、意欲的であり極めて真面目です。それゆえ、演出的な未熟さもあって、たどたどしい部分も目立ちますが、目指すべきものは伝わってきますし、中途半端な明るさ、コメディ・タッチである部分も、この作品が持っている絶望的な世界を、少しでも観客に対して受け入れられるようにするための工夫だったのかもしれません。

 この作品で一番残念だったのは、やはり主演の二人が個性的に弱かった、ということでしょう。彼らの特徴や考えといった個性的な側面をもっと誇張してもよかったと思うのですが、等身大で描こうとしたために、かえって誰が誰やら非常にわかりにくくなってしまいました。特にギス(キム・ビョンソク)の造詣描写が弱かったために、二人の対比と葛藤がうまく出なかったことが残念でした。結局は、ジョンデ(ユ・アイン)が主人公だった、ということなのかもしれません。反面、脇を固める大人たちはよい演技と存在感を示します。ジョンデの母親を演じたパク・ミョンシンは、終始そのうまさが光りますし、風俗店社長キム演じたチェ・ジェソンはその大人ぶりが主人公二人の幼さと対象的であり、監督の現実を見る視点がよく反映していたと思います。

 ラストは絶望と希望が交差する若手らしい終わり方であり、1970年代のアメリカ映画を連想させますが、そこが一番映画青年らしい側面だったように思えました。『俺たちの明日』は非常に未熟な作品ですが、随所から監督の意思が伝わってくる映画といえるでしょう。


『私の恋』

2007年執筆原稿

 この作品、『永遠の片想い』で商業デビューしたイ・ハン監督の第三作にあたります。まだ明確には断言しきれないのですが、彼の方向性がとりあえず定まった印象を受ける作品でした。その持ち味は、ゆったりしていて優しく、幻想的、そして、ちょっとほろ苦くと、悪くいえば「男の少女趣味」丸出しに見えなくもありませんが、厳しい現実の中でも絶えず人のやさしさを信じ続けようとするポリシーを感じさせます。

 物語は、地下鉄運転手のセジン(カム・ウソン)と、変わり者の恋人ジュウォン(チェ・ガンヒ)のどこかファンタジックだけど悲しい恋を中心に、彼らに縁のある人々の愛の物語が綴られて行きますが、今まで韓国で何本か作られてきた群像劇とまるっきり同じなので、「また、これ?」とか「話が散漫」といった印象からは免れません。正直、セジンとジュウォンだけで物語を廻して行けば、もっと濃くて感動的な作品になったのでは?と残念に感じたのですが、この二人のエピソードも少女漫画の世界を無理やり大人の現実に持ってきたようなお話なので好き嫌いがはっきり分かれると思います。

 そんな核になるエピソードよりも光っていたのが、広告代理店で働くジョンソク(リュ・スンリョン)とスジョン(イム・ジョンウン)のドラマ。スジョンは女性として上司ジョンソクを深く慕っていますが、ジョンソクの心には、いつまでも断ち切れない亡き妻の面影が生き続けており、スジョンは入り込むことが出来ません。でも、ジョンソクの一人息子パダ(パク・チャンイク)はそんな二人を冷静に見つめています。このエピソードには、人としての誠実さや相手を思いやろうとする大人の恋愛が抑えた描写ながら溢れていて、短い挿入劇に過ぎませんが、本作品におけるもっとも優れたエピソードになっています。その反対に、若い世代の物語として描かれたソヒョン(イ・ヨニ)の初々しい三角関係の物語は一番この映画で余計だったようです。

 なお、映画公開前にミュージック・ビデオ風の予告編が製作され流されました。これがなかなかよい出来で、スターとしての立ち位置がいまいち明確でない、カム・ウソンの魅力がよくでています。これだけは彼のファン必見といえるでしょう。

 さて、イ・ハン監督は次回作でもこの路線を突き進むのでしょうか? 興味深いところです。


『河を渡る人々:多摩川から臨津江まで』

2007年執筆原稿

 ドキュメンタリーを作るということは、思いのほか難しいもの。劇映画のように、多くの人為的・物質的コストがかからないように見えますが、どんな地味な作品でもとてもお手軽に作れるものではありません。特に被写体から狙っていたテーマが引き出せなったり、被写体が逆に撮る側を振り回し始めたりと、商業ベースから離れたドキュメンタリーは、その先で何が待ち受けているかわからないものです。

 日本の撮影監督、金徳哲(キム・ドッチョル)氏が手がけた『河を渡る人々』は、約七年間の歳月をかけて作り上げた労作です。戦時中の川崎で起こった朝鮮系労働者の争議を辿ることから始まり、韓国と積極的に交流を持とうと疾走する若者たちや大人たち、そして在日の人々の姿を追っていきます。特に靖国神社に収められた朝鮮系戦没者の故国返還を求めて戦う金景錫(キム・ギョンソク)氏と支援者たちの姿は強く印象に残るでしょう。そこには複雑で一つの概念では切って捨てられない、そして描ききれない日本と朝鮮半島の関係が浮かび上がってきます。それゆえ、残念ながら支離滅裂でまとまりきれていない作品にも見えました。

 また、この作品に出てくる日本人や在日の人々は、韓国・朝鮮嫌いからみれば気にくわないだけだろうし、逆に浅はかな韓国シンパから観れば一層卑屈になるだけのテーマかもしれません。しかし、その多層な内容は表向きの言葉や感情に惑わされない人なら、この作品が、日本に住む「日本人」の「日本人自身の問題」を描いていることに気がつくと思います。映画の中で大きな核となる金景錫氏は、若い頃かなりの暴れん坊だったのではないかと想像してしまう方ですが、格調高い日本語で力強く遺骨返還の問題を訴えかける姿に、今の日本人には失われてしまった「意志力」といったものが感じられて圧倒されます。

 監督の金徳哲は前作『渡り川』でも、今回と共通した題材を取り上げていましたが、それは本作の前章に過ぎなかったのかもしれません。もしこの映画を観る機会があったならば、映像の裏側、言葉の裏側にあるものは一体なんなのか、日韓関係であるとか戦後処理問題であるとかを超えて考えて欲しいと思いました。ただ、頭を下げ、卑屈になって、友好や相互理解を叫ぶだけの世の中を、この映画は求めていないと思うからです。


『天国からの手紙』

2003年執筆原稿

 物語のコンセプトや、その根底にあるイメージは中々いい。ファンタジーとメロ・ドラマが融合しており、小説だったら感動的だったろう。だが、映画がそうだったかというと全く逆である。「過去→現在→未来」を往来する構成がベタで、メリハリが持たせられなかったため、全然ドラマチックにも力強くにもならなかったのだ。そして困った事に出演している俳優たちも皆元気がない。製作期間が切羽詰まっていたのか、それとも皆、他の仕事で忙しかったのか、製作者側を含めてなんだかやる気の無さが感じられて仕方がない。

 キム・ジョングォン監督(『リメンバー・ミー』)は、ファンタジー系の話が好きなようだ。これはこれで期待したいし、応援したいのだが、今回は残念ながら不燃焼で終わった。

 村の郵便配達員スンジェを演じたシン・ハギュンは、今まで観た中で、一番ひどい演技である。始終ニタついているだけで彼の良さが全く出ておらず、これでは危ない「トンでいる」人だ。売れっ子ゆえ疲れていたのだろうか。ヒロイン、ソヒを演じたキム・ヒソンは予想通りの貧弱な演技の上、役柄自体も掘り下げが浅いので、魅力の無さに拍車をかけている。また、彼らの子供時代のつまらない描写が長すぎるのも問題だ。ただし、子役のキャスティングは成人後のイメージとよく重なっている。唯一、好演しているのは、薬局のソンミを演じたパク・ソヒョンだ。彼女だけが今回、プラスのオーラを発している唯一の俳優である。だから、スンジェがソヒにこだわる様子はかなり説得力がない。スンジェの弟役でキム・イングォンが出ているが、登場シーンは少なく残念だ。彼はブ男ではあるけれど、個性派としてもっと注目されるべき俳優である。

 映画の最後は、観る者の解釈にまかせる結末となっている。それゆえ、映像として処理するには困難を極めたとは思うが、残念ながらあまり上手に出来なかった。せめてここだけでも、まとまっていれば、作品の印象は、まだ多少なりとも良くなっていたかもしれない。作品の持つ雰囲気を思うと、なんとも惜しい企画の映画だったと思う。多分、活字向けの物語であり、映画には向かなかった企画だったのだろう。


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