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『ロマンス』 ムン・スンウク監督ロングインタビュー

Reported by カツヲうどん
2006/11/14



インタビュー&文&編集:カツヲうどん
取材協力:キム・ヒョンソン(G&G Entertainment Inc)
日時:2006年5月25日
場所:三成グランドカフェ、大林・京城羊肉店


はじめに

 韓国の映画監督、ムン・スンウク。彼の名前は日本ではまだまだ馴染みがないと思う。しかし、2001年の韓国映画『バタフライ』の監督、といえば心当たりがある方もいるのではないだろうか? ドキュメンタリー的な手法で、相互コミュニケーションをテーマに取り上げたこの作品は、当時の韓国映画の中で間違いなく異端の映画だった。雨が降りしきる荒廃した近未来を舞台に、おのれを探して流浪する男女を描いたという点でも、特異な物語の作品だ(撮影の一部は神戸で行われた)。『バタフライ』は第14回(2001)東京国際映画祭で上映された当時、新しい韓国映画というものをほとんど目にする機会がなかった日本の観客にとっては、新鮮に感じられた作品であったとも思う。

 これは後日、聞いた話。この作品のプリ・プロダクションの最中、製作資金集めの一端として、日本で行われていた国際的な映画製作支援プログラムに応募したことがあった。その際、『バタフライ』は、日本側に非常に高い評価を受けていたという。なぜなら、韓国から山のように送られてくるの企画のほとんどが、日本に過去への反省を求めるテーマばかりで、日本の担当者がうんざりする中で『バタフライ』という企画だけは全く視点が違っていたからだ。残念ながら、このコンペ支援対象の選考からは漏れてしまい、紆余曲折を経て、『バタフライ』は自力での完成に到ったわけが、公開当時も今も独立系作家映画に冷淡な韓国のマーケットは、『バタフライ』がロカルノ国際映画祭で「若い批評家賞」を受賞しても、冷たい反応しか示してくれなかった。ムン・スンウク監督はこの『バタフライ』の後、オムニバス『デジタル三人三色』(全州国際映画祭製作/2002年)の中の一編『サバイバル・ゲーム』を一本撮って、しばらく沈黙を保つことになる。

 それから数年後。韓国映画は『バタフライ』製作時とは、比較にならないくらい多様性を増し、本作品で映画初出演を果たしたカン・ヘジョンは大スターに、共演したキム・ホジョンもチャン・ヒョンソンも映画俳優として高く評価され、大活躍している。DV撮りのインディーズ作品は当たり前のこととなり、新人発掘を謳い文句にした大手配給会社が定期的に独立系の作品を上映するようにさえなった。過ぎ去った作品のことを嘆いても仕方ないが、結局、ムン・スンウクの『バタフライ』という映画は早すぎたのだろう。

 そして今年2006年、彼の新作『ロマンス』(→「Review 『恋愛術士 〜Love in Magic〜』『ロマンス』『王后沈清』『マドレーヌ』」)が公開。さっそくソウルの劇場へ観にいった私はちょっと驚かされた。この「驚かされた」というのは、『ロマンス』という映画が、鑑賞前の第一印象では、ムン・スンウク監督が一番撮らないだろうタイプの作品に思えたからなのだ。しかし、『ロマンス』が始まってすぐにその印象は大きく変わる。『ロマンス』は、純然たるムン・スンウクの、作家としての自負とこだわりが溢れ出た映画になっていたからだ。

 インタビュー当時、ソウル市長選挙戦の真っ最中。彼は次期企画の取材を兼ねて、ある候補者のスタッフとして選挙戦に参加している最中だったのだけど、時間を割いて会ってくれたのだった。待ち合わせの時間に現れた彼はあまり変わっていなかったが、昔より物腰は慎重になったように見えた。また定期的にジムに通っているそうで、筋肉質になっていたことが一番の大きな違いだったのかもしれない。久しぶりの再会を喜び、映画に関しての雑談を色々交わした後、さっそく新作『ロマンス』から話してもらった。



インタビュー

Q: 私、『ロマンス』を観てビックリしたのですよ。なぜかというと私が抱いていたムン・スンウク監督のイメージと全然違ったものだったから。ああいうスタイルの映画って、絶対に監督は嫌いだと思っていたからです。でも映画を観ていくうちにやっぱりこれはムン・スンウクの映画だなと。一見、ありきたりなラブ・ストーリーに見えるけど、相互コミュニュケーションの問題、つまり『バタフライ』とか『異邦人』のように監督が今まで作っていた作品とテーマが全く共通していたと。
A: 『バタフライ』の時もそうだったですが、人間関係を結ぶ時、一番重要なのが「心の傷」。でも『ロマンス』は、朝の連続ドラマのような面を付加しなければならなかったので、そこがあまりうまくいきませんでした。普通のメロドラマだったら、二人の恋が深まる過程を、きちんと見せるべきなのですが、自分はそういったことよりも、そこへ到るまでの過程の方に関心があったのです。『ロマンス』では、主人公二人の恋の道行きが短すぎたのと、不倫といった朝ドラ的なコンセプトを導入していたので、ファンタジーの要素を入れるのが難しくなり、わざとらしくなってしまった。私はユニ(キム・ジス)が劇中ゆっくりと銃を撃つ、とあるシーンのように、二人が愛し合っている刹那的なイメージだけで映画を満たしたかったのですが、自分が求めたものになったのは全体の10%くらいですね。

Q: 『ロマンス』の企画自体は、監督のオリジナルなのですか? 映画の冒頭を観て、日本のヤクザ映画かと思いましたよ。
A: はい、最初から商業性を念頭において企画しました。この映画を企画した頃、借金が溜っていたもので(笑)。ストーリーは通俗的な内容でも映像イメージは、自分らしいもの、ということで考えました。でも、その2つをうまく取り混ぜることは、やはりむずかしかった。『バタフライ』が終わってから、私は一般の人たちと呼吸を合わせながら、自分の話したいことをどう伝えればいいのかについて、とても悩み、分かりやすいものを撮りたいと思っていたのです。ですから、そのためにB級映画や、特にテレビ・ドラマは一所懸命勉強して、参考にしました。例えば1970年代から1980年代のホステス物、テレビ・ドラマでは1960年代に活躍したアメリカ・メロドラマの巨匠ダグラス・ショーの作品などです。

Q: 主人公は死ぬけども、周りの人たちが彼らの思い出を持って生きてゆく、というラストの作り方なんていうのは、シェークスピア的なものもあったのかな、と思いました。ムン監督がヨーロッパで観たオペラを参考にしていたのかな、と。
A: シェークスピアの作品でいうならば『ロミオとジュリエット』ですが、一番参考にしたのがロマン主義の作品群。オペラなら『トリスタンとイゾルデ』。実は『ロマンス』のストーリーは、中世の浪漫小説から取ってきたものなのです。私が元々抱いていた、この映画でやりたかったイメージは、オペラ的なものだったのです。

Q: だから私は『ロマンス』は、そこら辺のところが分かって見ないと、評価するのが難しいと思うのです。この映画を外国に紹介してみるといいのではありませんか?
A: 実はスイスのロカルノ国際映画祭から出品要請はあったのですが、再編集をしてほしいという条件があって、それは嫌なので送らないかも知れません(注:実際、ロカルノ国際映画祭の2006年度出品作品には『ロマンス』の名前はない)。

Q: 『ロマンス』にはもう一つ面白かった点がありました。警察官のドラマとして、なかなかリアルに描かれていた点です。アメリカの警察小説を何か参考にしたりしたのですか?
A: まるで、この映画は百科事典みたいですね(笑) 。でも、先ほど述べたように、浪漫主義小説をかなり参考にしたのです。「ある貧乏なプリンセスがいて、病気の父親のために、お金持ちの貴族か他国の王と愛のない結婚をする。そこに、世の荒波に揉まれて今は落ちぶれてしまった騎士が現れて、彼がプリンセスを救う」という話が基本になっているのです。

Q: でも、韓国映画で、警察内部の上下関係や同僚同士の関係なんて、あまり描くことがないと思うのですが。
A: それに関しては深く考えたことはありません。ただB級映画を参考にしただけですから。

Q: 逆に私はそこが面白かったのですよ。
A: うーん、でもそれは重要な問題ですね。そのせいで、これがメロドラマであるか、アクション映画であるのかよくわからない、っていう評もあったのです。この映画はあくまでも男女二人がどうやって愛を守ってゆくかを描いたのであって、主人公二人が敵と闘う過程や、その際に生まれる暴力を、オペラ的なものを目指して描き、誇張した表現でイメージを作ったのです。そのイメージがストーリーを圧倒してほしかったのですが。

Q: イメージといえば、撮影監督を担当したクォン・ヒョッチュン、彼はムン監督の韓国とポーランドの大学で後輩にあたる人ですよね?
A: はい。韓国の撮影監督の多くは、西洋美術やデザインに弱いのですが、ヒョッチュンはそこに強みがあったから、今回一緒に組みました。彼は絵画などに詳しく、意見交換がうまくできる間柄なのです。

Q: 映像スタイルは、独自な色が出るようにしていたのですけど、あれは韓国の現像所を使ったのですか?
A: はい。韓国で現像して、デジタルで画像処理をかけました。今回のような画像処理は、韓国では、あまりやったことがないのですけど、担当の話によれば、今までで一番良くできたということです。

Q: 音楽を担当したイ・ドンジュンは、『シュリ』とか『ブラザーフッド』とか、大作を担当している人物ですが、ムン監督の指定だったのですか?
A: オペラ的で叙事的なメロドラマを考えた時、あの人しかなかったのです。彼はエピックな音楽が得意ですからね。タンゴに関しては、有名な音楽家が韓国に来ていたので、演奏を依頼することができました。タンゴの伝統楽器バンドネオン(Alejandro Guershberg)とボーカル(Maria Estela Monti)、ピアノ(Nicholas Quershherg)はアルゼンチンの人たちです。チェロは幸運にもロンドンから、たまたま韓国に来ていた有名な演奏家ソン・ヨンフンがいたので、ほとんど無料で頼めました。ですから試写会に来た方に、音楽だけで価値があるといわれましたよ。

Q: 『ロマンス』でもうひとつ意外だったことは、アクション演出がすごくうまかったという点です。全然、想像出来なかった。
A: I'm professional(笑)。でも今の韓国映画はアクションがうまいですから、あまり目立たなかったですけどね。

Q: 最後の病院のシーンは、どこで撮影したのですか?
A: 全州(注:韓国・全羅道にある「食」で有名な街。フィルム・コミッションを結成し、ここ数年、映画撮影を盛んに誘致している)の古い役所です。全州の役所が移転中だったので、空いている間、使わせてもらったのです。病院内は全部セット、外側は役所の建物を使いました。ちなみに出てきたヘリコプターは全部CGIですよ。今回は「わがスタッフ」っていう感じで、本当にいいスタッフに恵まれました。

Q: 最後のアクション・シーンって、撮影はどのくらいかかりました?
A: 4日です。映画全体は3ヶ月。そして製作費は31億ウォンくらい。

Q: え?そんなものですか。割と安くあげたんだ。
A: お金のことは詳しくはわかりませんけど(笑)、安くあげたのでほめられましたよ。でも興行は全国で70万人くらい。100万人入って収支トントンなのですが。でも私が所属しているLJ Film(注:キム・ギドク作品で知られている会社)は、私を長い目で育てようと考えてくれているので、成績はあまり気にしていないし、『ロマンス』には満足しています。配給会社担当からは、「職人気質で作られた精巧な作品だが商売にはならない」といわれましたけどね。

Q: 主演の刑事をチョ・ジェヒョンが演じていますが、もともと彼を考えていたのですか?
A: はい。彼が持っていた「悪い男」というイメージを覆してみたかったのです。「悪い男」のイメージの中に純情なイメージがあったので、まず彼をキャスティングしました。

Q: 彼は、すごく神経質で気難しいタイプっていうイメージがあるのだけど。
A: いいえ、全然。まるでスタッフみたいな気さくな方ですよ。ちょっと残念だったのは、彼の持つ従来のイメージを動かすことが難しく、動物的な部分を見せることが簡単ではなかったことですね。

Q: キム・ジスも監督の指名ですか?
A: 彼女に関しては、三十代の女優の中ではほぼベスト。他に選択の余地がありませんでした。私が『ロマンス』でテレビ・ドラマ的な要素との混合を考えたことはお話しましたが、キム・ジスさんがテレビ・ドラマで有名な方だから、そのイメージを使いたかったのです。ただし、実際問題として、この映画で狙ったものと同じように、キャスティングにおいても非常に映画的でありテレビ的だったことは、成功でもあり失敗でもあり。

Q: 若い観客にはちょっとマイナスだったかもしれませんね。一番受けるであろう彼らの親の世代って、一番映画を観ないですし。
A: ネットにも「この映画は親に見せたい」という意見が上がってきたりしましたね。

Q: キム・ジスという人は映画を観ているとメロ系の作品が多いのだけど、本人はどういう方ですか?
A: とてもとても複雑な方、そして優れた俳優です。テレビのキャリアが長いから器用で、普通ならば、その事が即興演技の邪魔になったりするのですけど、そういうことがないのです。主演二人の演技スタイルは正反対。キム・ジスさんはセリフを絶対に変えません。

Q: 同僚刑事のパク役を、『バタフライ』のチャン・ヒョンソンが演じていましたが、私は悪徳検事役を演じたユン・ジェムン(注:ユン・ジェムンは、この作品の後、『卑劣な街』と『グエムル −漢江の怪物−』に出演)がとても気になりました。
A: チャン・ヒョンソン氏は、今は演技派として有名な俳優ですが、他の男優陣も演劇界では有名な面々でして、「コルモッキル/横丁」という現代演劇の劇団メンバーです。ユン・ジェムン氏は『ロマンス』が本格的な映画デビュー、おそらく初めてでしょう。彼のことは若い監督たちが注目していて、日本では北野武の映画に似合う俳優だと思いますよ(笑)。

Q: ヒロインの夫を演じた俳優も印象に残りましたが、なんていう俳優なのですか?
A: 彼はオム・ヒョソプ氏。彼も映画は初めてなのです。かなり顔が売れ始めていますね。

 ムン・スンウク作品の出演者で一番有名な俳優といえば、『異邦人』に主演していたアン・ソンギだが、今現在、最も注目を浴びているのが『バタフライ』で映画初出演を果たしたカン・ヘジョン(『オールド・ボーイ』『トンマッコルへようこそ』)。当時、日本人ユキ役が出来る若い女優を探していたムン・スンウク監督が、テレビ・ドラマでカン・ヘジョンの演技を観たことが、ヒロイン起用のきっかけになった。

Q: ところで、仕事をした俳優たちとプライベートの交流はあるのですか?
A: 『バタフライ』に出演した俳優たちとは今でも、とても親しいですよ。

Q: 『バタフライ』といえば、本当にビックリしちゃったのは、ユキ演じたカン・ヘジョンが大スターになっちゃったこと。ムン監督も彼女があんな有名になるなんて想像もできなかったのでは?
A: ええ、意外でしたけど、運がよかったのでしょう。でも彼女のように、若手の中で、とても頭が良くて爆発力のある俳優は他にはいません。

Q: あんなに有名になってしまうと、監督もコンタクトしにくくなってしまうでしょう。
A: そう、難しい。ギャラも高いだろうし。

Q: 監督が直接電話するとマネージャーから文句言われるだろうし。
A: (苦笑) 最近、ヘジョンさんは忙しいから、私が連絡をしたくても出来ないのですが、キム・ホジョンさん(『バタフライ』のほかに、『ほえる犬は噛まない』、『春が来れば』に出演)とはよく連絡しているのです。でも、これは私だから特別ということではないです。彼女もまた、韓国の若手監督の間で人気がある女優です。私たち『バタフライ』のチームは、今でも初めて仕事をしたときの気持ちそのままです。

Q: カン・ヘジョンは日本でも有名だから、日本の仕事をする可能性もあるでしょうね。
A: それじゃ『バタフライ』をリバイバル公開しようかな(笑)。

Q: それなら『バタフライ』をリメイクすればいいのですよ。お金をかけて。今だったら監督が考えているものに近いものが撮れる環境だと思う。
A: うーん、今すぐには・・・ 『バタフライ』を作った頃はまだ若かったから、何かを伝えようと考察したというよりは、怒っていたというか、そんな図式で作ったのですが、再び『バタフライ』を作るとすれば、もっと歳をとってからでしょう。次回作に政治ドラマを考えている重要な理由の一つが、私の年齢にあるのですよ。私は四十歳になるのですが、最近、政治と人の関係が見えてきていて、非常に重要だと思っているのです。だから、『バタフライ』を再び撮るなら、もう少し歳をとってからですね。韓国では私を100%、韓国の監督だと思っていない人たちがいることもあって、次の政治をテーマにした映画にかける自分の期待は大きいのです。それを経てから、もうちょっと深い『バタフライ』を作れないかと。『バタフライ』を撮った時「韓国映画じゃないみたい」とよく言われましたよ。

Q: でも、それだからあの映画は評価されたのだと思いますよ。
A: でも個人的には、そういうことから抜け出したい。

Q: しかし「韓国映画らしい」という枠組みがあるのも、いいことではないと思いますが。
A: いいえ、それは枠組みではありません。だって、私の映画を最初に観る客は韓国人なのですから、すごく重要です。

Q: 次の作品ですが、どういう映画になるのでしょうか?
A: アメリカのテレビ・ドラマ『ザ・ホワイトハウス』の韓国版のような映画をやろうかと考えています。タイトルは『大統領の人々(仮題)』。ドキュメンタリーのような作品になると思います。ポーランドで映画の勉強をしていた頃からドキュメンタリーが大好きだったので、その頃に戻ったような気がして、準備がとても楽しいのです。

Q: 出演者は誰を考えているのですか?
A: キャストについてはコンタクト中なので、名前は具体的に言えませんが、主人公が5人くらい。韓国映画界の重鎮俳優を使って、政治意識の表現をしようと考えています。

Q: クランクインはいつぐらいになりそうですか?
A: 計画どおり2006年末までにシナリオが出来れば、2007年晩春くらいかな。公開は2007年の大統領選の頃を考えています。

Q: ところで、同じポーランド留学組の後輩に、ソン・イルゴン監督がいます。彼はヨーロッパ的な作風で日本でも良く知られていて、ムン・スンウク監督は都会派、ソン・イルゴン監督は自然派。そういう違いはあるかな、と。ムン監督としてはどう評価しているのですか?
A: ソン・イルゴン監督は若いし、作品もよく作っていて、日本で知られているのは東京フィルメックスで日本の観客に観せる機会があったからでしょう(注:東京フィルメックスでは、ソン・イルゴン監督の長編デビュー作『フラワー・アイランド』をはじめ、『スパイダー・フォレスト/懺悔』、『マジシャンズ』が上映されている)。でも、ソン監督もヨーロッパ的なイメージから外れたがっているのですよ。彼は基本が優れているのですが、一般大衆と呼吸を合わせることが出来るようなスタイルを、まだ見つける事ができないのです。彼の作品がヨーロッパ的だというのは、私もそうですが、ポーランド留学時代の記憶がとても良かったからなのでしょうね。それに作品がヨーロッパ的であることは、それなりに商品性もあるので、無視出来ないのです。彼と会えばそんな話をよくしています。ソン監督も、しばらくその方法を使うしかないし、自分の領域を作る手段であり、それは生き残るためのあがきと一緒ですよ。


あとがき

 インタビューから10日ほど経って、ムン・スンウク監督とソウルの下町でお酒を飲む機会があった。礼儀正しく、フレンドリーである反面、ナーバスで気難しく、ちょっと頑固なところは、やっぱり変わっていない。

 その時、私は彼にSF映画を企画することを薦めたのだけど、彼はその言葉に対して「自分は日本のアニメ『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』の実写版を撮りたいのだ」と語っていたことが印象に残る。『攻殻機動隊』の押井守監督は、あるインタビューの中で「自分は旧ソビエトや東欧の映画に非常に影響を受けた」と語っていたことがあったけど、ムン・スンウク監督は『攻殻機動隊』のイメージに、ヨーロッパ留学時代の想い出を重ねていたのかもしれない。『攻殻機動隊』の映画化が現実的であるかどうかは別としても、『バタフライ』的世界の発展系を、今後の新作で是非、観せてほしいと願っているのは私だけではないだろう。

 彼にしても、ソン・イルゴン監督にしても、韓国の観客と「呼吸を合わせる」ことが出来る映画を編み出すのは、そんなに先のことではないはずだ。


<参考資料>

1)『シネ21』「<ロマンス>監督ムン・スンウク」2006/3/17
 http://www.cine21.com/Magazine/mag_pub_view.php?mm=005002002&mag_id=37226
 『ロマンス』公開に際して行われたロング・インタビュー。今回のインタビューと重なる内容だが、より詳細に作品と自己のパーソナリティーを語っている。

2)『FILM2.0』「フラワー・アイランドにバタフライが飛ぶことは出来るか? <フラワー・アイランド>ソン・イルゴンと<バタフライ>ムン・スンウクの出会い」2001/11/19
 http://www.film2.co.kr/feature/feature_final.asp?mkey=927
 5年前に行われたソン・イルゴン監督との対談を収録。彼らがなぜ「デジタル」という手法を選んだかを理解するために非常に重要な内容といえる。また、現在の韓国映画が抱える問題を鋭く指摘している部分もあって、二つの文化圏で生きてきた韓国人だからこそ言えることだと思う。


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