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Review 『ケンカの技術』『ラブリー・ライバル』

Text by カツヲうどん
2006/3/4


『ケンカの技術』 ★★

 いじめられっ子が、伝説の喧嘩師に出会い、成長してゆく。こう書くと格闘アクションか、コメディを連想してしまいますが、『ケンカの技術』はそのどちらでもなく、異色の青春譚、ちょっと変わった人間ドラマになっています。

 最底辺の工業高校に通うソン・ピョンテ(チェヒ)は、真面目ですが、ひょろひょろで腕が立たず、隠れるような生活を送る毎日。そうしないと荒廃した学校を闊歩する野獣のような同級生の餌食になってしまうからです。密かに強くなることに憧れ、毎晩、格闘技の勉強に余念がありませんが、あくまでも机上の空論。そんなおり、学校に初老の男性オ・パンス(ペク・ユンシク)が守衛としてふらりと赴任して来ます。彼が実は大変な戦闘力を持った人物であることを知ったピョンテは、パンスに指導を乞いますが、人をおちょくっているかのようなパンスの指導に戸惑うばかりで、ピョンテは強くなるどころか、不要なトラブルに巻き込まれる始末。しかし、ピョンテの唯一の友人ジェフン(パク・キウン)が、不良たちに瀕死の重傷を負わされたことから、彼らに復讐すべくピョンテは行動する決意をします。

 この作品には洗練されたアクションも笑いもありません。描かれるのは底辺の若者たちの粗野な暴力と、悲惨な青春模様。そこには夢も希望もない、真っ暗な「ビー・バップ・ハイスクール」。パンスにしても、あまりにも凄惨な修羅場を生き抜いてきたためか、かなり人格が破綻していて、自由人の成れの果てのようでもあります。監督のシン・ハンソルは、極力、移動撮影を行わず、ワンカット、ワンカット、構図にこだわった画面を積み上げて行きます。アクションよりも一瞬の暴力を描くことに力を入れていて、伝説の喧嘩師パンスのキャラクターは、日本の北野武監督が自ら演じる主人公たちを連想させます。

 主演のピョンテ演じたチェヒは、韓国の男優には珍しく線が細い人物で、これからどう羽ばたくか予想がつきませんが、作家性の強い作品に積極的なようなので、これからインディーズ系作品で活躍をみることができるようになるかもしれません。パンス演じたペク・ユンシクは意外と映画に出ていない重鎮俳優の一人ですが、存在感はかなりのものでありつつも、他の若い俳優たちを押しのけていないところが俳優として優れたところなのでしょう。ただ、彼のアクションは、往年のテレビ・ドラマ『燃えよ ! カンフー』みたいなので、うまく誤魔化された感じ(笑)。極悪高校生の一人を演じたチョン・ジェヒョンも注目でしょう。今までのイメージを覆す凶悪ぶりと、その素早いアクションは、ちょっと見物で、とにかく体がきびきびと動き、スムーズに足が高く上がる様子は、彼のコミカルな印象を変えること間違いなし。

 『ケンカの技術』は、明快な娯楽アクションを求める観客からはブーイングが起きそうですが、映画好きな人たちには、案外高く評価される作品なのではないでしょうか。


『ラブリー・ライバル』 ★★★

 この映画は、地方を舞台に繰り広げられる濃い人間関係を描いたコメディで、チャン・ギュソン監督のヒット作『ぼくらの落第先生(原題:先生、キム・ボンドゥ)』の姉妹編のような作品だ。遊びで前作ともリンクしている。だから『ぼくらの落第先生』に愛がある人ほど、ガックリ来た人も多かったかもしれない。

 物語は、独身女教師ミオク(ヨム・ジョンア)と、教え子でアウトサイダーな美少女ミナム(イ・セヨン)二人の、憧れの君・美術教師サンチュン(イ・ジフン)をめぐる骨肉の争いを描くはずだったのだろうけど、実際は題名に偽りありになってしまっている。所詮、大人と子供は勝負にならない、という事なのだろうか、映画は最初からそういった闘いを描くことを避けてしまっている。そのために、大人は大人、子供は子供と、ドラマが分離してしまい中途半端だ。好きな異性を巡る大人と子供の争い、というテーマ自体は非常に着眼点が優れていると思うのだが、まだ韓国では早すぎたのだろうか? 「子供もまた欲望に忠実なエゴを持つ一個の人間である」という視点は正しいし、女教師ミオクのキャラクターも、キム・ポンドゥの裏返しのパロディと、面白いとっかかりは、幾つもあるのだが、最後の一線を飛び越えていないのだ。

 ミオク演じたヨム・ジョンアは、今までで彼女の地に一番近い感じのキャラクターだが、登場シーンが面白いだけで常識的でつまらない人物だし、彼女に匹敵する脇役や彼女と対立する大人のキャラクターが誰もいなかったのでインパクトはない。ミナム役のイ・セヨンは、韓国では珍しく美人顔の子役だが、暗く屈折している役柄なので魅力は薄いし、彼女を含む他の女子小学生たちが、不相応におしゃれで垢ぬけており、まるで田舎の子弟というよりも、ソウルか東京の金持ち子女のようで現実味に乏しい。恋の鞘あての的になるサンチュンに至っては、単なる人畜無害な優男、いるのかいないのかはっきりせず、観ていてむず痒い。

 チャン・ギョソン監督は、前作『ぼくらの落第先生』で、自身の故郷、江原道山間部を舞台に、彼自身の複雑な思いの丈を、ふるさとへの愛情一杯に感動的な作品を撮り上げた。だが今回は、その路線を形だけ踏襲したビジネス・ライクな作品になってしまい、愛情は希薄だ。最後のオチにしても、『ぼくらの落第先生』を観ていないと、ちょっとなんだかわからないだろう。

 私がソウルで観た当日、劇場は小学生で一杯だった。小学生も大人も観ることが出来るという点では、韓国では珍しい映画なのだろうが、残念ながら、質までは伴わなかった作品である。


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