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Review 『拍手する時に去れ』『親知らず』

Text by カツヲうどん
2005/12/31


『拍手する時に去れ』

2005年執筆原稿

 この作品のタイトルは、劇中に出てくる、とあるフレーズを指しています。そのままではよくわからない題名ですが、映画を観終わると、この言葉には、チャン・ジン監督のウィットが感じられました。それは「何事も引き際が肝心だ」というメッセ−ジだったのではないでしょうか。

 この映画は「殺人事件の公開捜査を生中継する」という題材を扱った、時事ミステリーではありますが、「マスコミ批判」であるとか「行政批判」といった、よくあるテーマは、あまり感じられません。また、ミステリーとしても人を喰った展開になっています。しかし、チャン・ジン監督の狙いは、問題提起やミステリーよりも、「舞台という空間の感覚」を「映画として再現する」ということだったのではないでしょうか?

 チャン・ジン監督は元々、劇作家兼舞台演出家であり、そのためか、映画のスタイルも演劇的で、日本でいえば三谷幸喜の映画に近いかもしれません。では映画と演劇の違いとは一体何なのでしょう? それを一言で結論づけることは私には不可能ですが、一つ言えることは、物理的な環境が大きく違うことです。しかし、全く異なるものかといえば、そういう訳でもなく、どこか文脈が大きく繋がっているもの同士の分野でもあるのです。

 今まで、演劇と映画を融合して表現しようと、東西の色々な映画において様々な試みがなされて来ました。しかし、大概は、舞台をカメラワークで割っただけ、といった感じで、映画として魅力のある作品はなかなかありません。この『拍手する時に去れ』という作品は、チャン・ジン監督の映画人兼舞台人としての、映画と舞台の融合を狙った試みだったのではないか?と私は強く考えました。大胆な構成、誇張されたセリフ、強いキャラクター、唐突な展開と、中味を取り出せば非常に演劇的に思えますが、実際は大変に映画的でもあり、かつ演劇的な視点を排する努力をしているように見受けられたからです。カメラは四方八方、多彩に動き、大胆な物語は、映画のマジックがあればこそ、成立しえた脚本です。

 チャン・ジン監督は、もしかすると今に至るまで「映画でもあり舞台でもあり、どちらでもない新しいもの」を模索していたのかもしれません。もしそうであるのならば、『拍手する時に去れ』において、その試みは、ある程度達成出来たものとして高く評価すべきでしょう。なぜなら、この映画において、演劇の持つ第三者的視角と映画的視点の融合が、私には十分再現できていたと感じられたからです。

 また、この映画は、チャン・ジン作品の中でも、もっとも緻密に作られた映画でもあります。今まではどちらかというと、緩い持ち味を重視した作風が特徴でしたが、今回は隙なく構築された印象を受けました。それゆえ、『ガン&トークス』や『小さな恋のステップ』のような作品が好きな方には必要以上に緊張を強いられるかもしれません。しかし、ハードに行くと見せかけて、そう行かない展開は今まで通りですし、チャン・ジンの舞台を観ている方には、一層彼らしい作品であると納得出来る一本になっています。

 出演は、いつものチャン・ジン組の面々ですが、シン・ハギュンにしても、チョン・ジェヨンにしても、まさに監督の同志といった感じで、他作品では見られない生き生きとした演技を見せてくれます。主演のチェ検事役チャ・スンウォンは、チャン・ジン作品初登場ですが、きちんと演出のツボにはまっており、最後には観る者を感動させてくれるでしょう。

 映画至上主義の人には抵抗がある作品かもしれませんが、劇作家として、映画監督として実績を残すチャン・ジンと、その仲間たちだからこそ出来た、2005年韓国映画秀作の一本といえるでしょう。


『親知らず』 ★★

 この作品を監督したチョン・ジウは、1999年末に韓国で封切られて大ヒットした『ハッピーエンド』以来、久々の登場ですが、今回の作品は、かなり変わったラブ・ストーリーに仕上がっています。かつて、霊魂レベルでの恋愛関係を問うた『バンジージャンプする』という作品がありましたが、この『親知らず』も、テーマはよく似ているのかもしれません。人間の魂は輪廻天生、同じ運命をくり返すといった、ちょっとだけオカルテックなラブ・ストーリーが展開します。

 また、構成が、過去のエピソードが現代に繋がり、時空を越えて一つになる、という形式になっていて、英仏マケドニア映画『ビフォア・ザ・レイン』(1994年)を彷彿をさせます。当時、韓国では、この『ビフォア・ザ・レイン』がヨーロッパ映画としては異例のヒットを飛ばしていたことからか、もしかするとチョン・ジウ監督のイメージには、この『ビフォア・ザ・レイン』があったのかもしれません。

 韓国テレビ・ドラマの女王、キム・ジョンウンを主演にすえていますが、作品的にはかなり作家寄りの作りで、「一見、商業映画、でも実は・・・」といった、実験精神に富んだ内容になっています。ただし、物語は単純ながら、人間関係が複雑で、ちょっとよくわからないところもあります。チョン・ジウ監督は、過去と現在をいったり来たりする物語を、カットとカットを直接つなぐ編集で表現しようとしていますが、違う役を同じ俳優が演じていたりするので、観ているうちに、混乱する人も多かったと思います。妙な偶然の連続も「そんな馬鹿な」といった感じで人によっては笑ってしまうかもしれません。そういうところは、もう少し普通に構成を紡いでくれればなあ、とちょっと残念でした。

 今回、キム・ジョンウンは、映画の中で初めて、大人の女性を演じています。ヒロインのイニョンは予備校で高等数学を教える講師であり、心やさしい恋人ジョンウ(キム・ヨンジェ)と同棲している自立した女性ですが、初恋の男性と、うり二つのイソク(イ・テソン)が教え子として入学してきたことから、複雑な愛憎劇に巻き込まれて行きます。こう書くと、ドロドロの韓国ドラマを連想するかもしれませんが、作風はいたって乾いており、大人の登場人物たちが理性を失って暴れたりは絶対にしません。逆にイニョンを巡る人間関係は、学生を除いて、いたって理知的かつ自由であり、映画は後半、静かな展開を迎えてゆきます。

 チョン・ジウ監督の前作『ハッピーエンド』も、よくあるメロドラマと見せながら、実は醒めた男女の関係を淡々と描いていた作品でしたが、この『親知らず』も、それと共通するものを感じました。チョン・ジウという人物は、受けるとわかっている愛憎劇よりも、精神的絆、人間関係としての恋愛を描きたかったのかもしれません。ちなみに、一番感情的な恋愛像を見せてくれる新人のイ・テソンとチョン・ユミの二人は瑞々しく、彼らの存在が本作一番の収穫といえるでしょう。


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