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Review 『親切なクムジャさん』
─ 今回の復讐はワルツではなくレクイエムだった ─

鄭美恵(Dalnara)
2005/11/27受領



同じ386世代のポン・ジュノ監督の
『殺人の追憶』が殺人犯人を捕まえられず
事件が未解決で終わってしまうやりきれない現実を描くのに対し、
『親切なクムジャさん』の犯人を探し出して、断罪する世界は
現実とはどこか距離のある、ファンタジックな虚構の世界、
もしくはこの社会の、悪を滅ぼしたいという願望を
写しとったかのような気もする。
前作以上に現実離れした感のある映像も、
現実の世界が持つ痛みと悲しみを隠しながら照射しているようにも思える。

人間社会は
目には目を、歯には歯をの
バビロニアの復讐法が通らない、
個人的な復讐がゆるされない社会、法治社会になっている。
法に任せておけない、殺人犯を殺してやりたい、自分たちの手で罰したいという
気持ちをクムジャが解き放ち、カタルシスをもたらしているように見える。
最後の審判の日にラッパを吹き鳴らし、審判の場で人間の魂を秤にかけ、
悪を裁く大天使ミカエルのように。

『殺人の追憶』の世界が、未解決事件という、苦しみに満ちた現実の世界として
あるとすれば、
『親切なクムジャさん』は未解決事件のない、悪が討たれる、『殺人の追憶』とあべこべの
鏡の国のような虚構の世界。
殺人犯は決して逃げ切れることはなく、生かしたままでは置かれない。
殺人犯を法に委ねるなど悠長なことはせず、被害者の家族で処刑する。
現実にはほぼ不可能な、殺人犯への復讐を個人的に実現している点で
『殺人の追憶』の世界や未解決だったすべての殺人事件の死者を
悼んでいるかのようだ。

個人的な復讐を成し遂げることを、どこか非現実的な映像で描くことで、
復讐3部作最終章は生を無残に奪われた人々、
世界のあらゆる被害者への鎮魂歌(レクイエム)を奏でているようだ。
復讐3部作の最後にふさわしく
個人の復讐の是非を問い、個人が悪を処罰できない現実を知りながら
個人の手による復讐を、
天使のような悪魔のような、非人間的なクムジャを通してファンタジックに描いて
社会全体が殺人者に抱く復讐心を、代理昇華させようとしている。

魂の救済は誰の元にもない、本当は誰も得られないのだろう。
罪のない被害者でさえ苦しみのあまり死を選ぶことがある現実が描かれている。
だから言葉での救済は真ではない。
そして人間は一生の間に善でもあり悪でもあるのだろう、天使のようで悪魔のようなクムジャが
体現している通り。
悪を否定するキリスト教から離れ
人は善でもあり悪でもあると認める仏教に
クムジャが改宗したの、と言った気持ちもわかる気がする。
キリスト教を心から信仰しているようには見えなかったので、ふき出してしまうシーンではあったが。
そして、銃の設計図が書かれている経典を選択する、という行為が
武器を持たない状態から武装することへスイッチする象徴でもあった。

観ながらアガサ・クリスティの『オリエント急行殺人事件』を思い浮かべた。
家族を殺された関係者が集まり、復讐のためにひとり一刺しずつ殺人者にナイフ
を突き立てる。
12人が順番に殺人者の部屋に入り、刃物を使うところ、
幼子の命を無残に奪われた、という動機も一致している、と思って見ていた。
探偵エルキュール・ポアロは殺人者の非道ぶりを知り
復讐者たちの心情に打たれ、真犯人を知りながら
殺人事件としては取り上げず、復讐を成就させるのだった。
そこには殺された人間への鎮魂があふれていた。
刑事とクムジャがポアロに重なる。
ふたりは子どもを殺された親たちの心情を理解し、ささやかなカタルシスを得ら
れる場に立ち合っていたのだ。
『復讐者に憐れみを』も、親と子、親の愛と復讐を描いているが、
前作『オールド・ボーイ』に鏤められているモチーフ
親と子、親の愛、子を失った歳月の重さのうち、今回は更に子を失った歳月の重さと残酷さが感じられる。
12人は欧米では陪審員の数になる。
クムジャたちは全部で12人いなかったかもしれないが...

最後は『オールド・ボーイ』のように真っ白な雪の場面。
すべてを救済するかのように雪は降る。
刑務所を出た時は豆腐を口にしなかったクムジャ。
娘の前で白いケーキを口に含んだクムジャは今度こそ本当に罪を贖い
魂の救済を得られたような気がする。


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