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アジアフォーカス・福岡映画祭2005 リポート
『麻婆島』

Reported by 井上康子
2005/10/19



『麻婆島』 2005年
 監督:チュ・チャンミン(新人監督)
 主演:イ・ムンシク(チュンス刑事)、イ・ジョンジン(ジェチョル)、オ・ダルス(シン社長)、ヨ・ウンゲ(会長)、キム・ウルトン(ヨス)、キム・スミ(チナン)、キム・ヒョンジャ(マサン)、キム・ヘヨン(チェジュ)


Review

 ヤクザな生活から足を洗ったシン社長は金に恵まれず、自分の喫茶店も競売にかけられようとしていたが、ちょうど、その時、自分の買ったロトくじが160億ウォンを当てたことを知る。しかし、そのくじは従業員のクッスンが持ち逃げしてしまっていた。社長は、ワイロを取り立てる不良刑事のチュンスに分け前を約束し、部下であるチンピラのジェチョルと共にクッスンを追跡させる。それで、チュンスとジェチョルの二人はクッスンの故郷の麻婆島に赴くことになる。

 船は週に1便しかなく、二人がなんとか船をやりくりして着いた麻婆島は、「会長」と呼ばれるリーダーをはじめ、5人の初老の女性しかいない島だった。若者は、もう、とっくに島を出てしまっていて、おばさんたちは「もう、長いこと、男を見たこともない」と言い出し、二人を妖しい目つきで見る者、いたぶる者も出てくる始末で、これらのコミカルなシーンは上映中、観客の爆笑を誘っていた。

 一方で、若者もおらず、男手もない島で、ほぼ自給自足の生活を送っている女性たちの労働の過酷さも、監督はきちんと描いており、島に来た二人は、やれ農作業だ、やれ屋根の修理だと、さんざんこき使われる。何やかやと不平を言っていた二人だが、不良刑事と、チンピラという根無し草の二人は、農村で堅実な生活を送るおばさんたちには、とうてい太刀打ちできず、二人はいつのまにか島の生活に取り込まれていく。

 5人のおばさんたちを演じているのは、人気ドラマ「宮廷女官 チャングムの誓い」でチョン最高尚宮を演じたヨ・ウンゲ等、韓国ではおなじみのベテラン女優たちだが、安定した演技力で、農村のおばさんたちの素朴な温かみを、貫禄を持ってうまく体現している。修理が終わった屋根の上で、二人が至福の表情を浮かべているのをカメラはクローズアップで捕らえ、その後、バックしながら、アングルを変えて、彼らが美しい青い海を背景に、美しく手入れされた畑の側で、微笑んでいる姿を示しているのはたいへん印象的なシーンで、堅実な営みが行われている農村への郷愁をかきたてられる。

 島の生活に溶け込んだと思われた二人だったが、彼らと島の生活しか知らない女性たちには、しかし、決定的な差異がある。それは以下のシーンで伺える。おばさんたちが花札に興じている。おばさんたちがわずか10ウォンずつのお金を賭けているのを知って、チュンスが大笑いする。麻婆島はユートピアとして創作された島だ。麻婆島の住人の女性にとって、お金は生活を楽しむための手段にしか過ぎないが、結局のところ、外の世界にいるチュンス刑事にとっては、お金そのものが目的化していることが伺えるシーンだ。

 この作品では、結末で、160億ウォンの当たりくじの末路を観客のみに示しているが、事件の加害者が結局は存在しないという結論を導き、また、お金に対して、見事なまでに潔い態度を示している。お金に対して、たいへん潔い態度を示しながらも、農村の生活の過酷さも描くことを忘れていない点には、監督自身の思慮深さも感じさせられる。

 チュ・チャンミン監督は次作『愛を逃す』(ソル・ギョング、ソン・ユナ主演)の準備中のため、ゲスト来日できなかったのだと思われるが、監督の肉声で、この作品に対する監督の思いを聞くことができなかったのは残念だった。笑いのベールにうまくくるみつつ、見終わって、監督の持つ哲学を感じさせられる、なかなか骨のある作品だと思う。


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