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アジアフォーカス・福岡映画祭2005 リポート
『ネギをサクサク、卵をポン』

Reported by 井上康子
2005/10/19



『ネギをサクサク、卵をポン』 2005年
 監督:オ・サンフン(『偉大なる遺産』)
 主演:イム・チャンジョン(テギュ)、イ・インソン(イングォン)


Review

 26歳の主人公テギュは「オレの人生はいつ開ける?」とぼやきながら、海賊版CDを作る会社で下働きをしている。妊娠したガール・フレンドに堕胎を迫ったその日に、酒場で見かけた女を家に引っ張り込んでいる、いいかげんな男だ。その彼の前に、突然、イングォンと名乗る9歳の少年が現れ、テギュを「パパ」と呼ぶ。母親はテギュと高校時代にバンドを組んでいたミヨンだと言う。思い当たるふしはあるものの、突然の展開に困惑したテギュはイングォンを何とか追い払おうとする。しかし、イングォンはたくましく、悪知恵の働く子で、それならば、彼の違法な仕事を警察に告げると、逆にテギュを脅しにかかる。さらに、イングォンは全国縦断を果たせば願いが叶うと信じており、テギュがその旅に付き合うことを求めてくる。

 そうして、二人の旅が始まる。オ監督は、彼らがどうやら本当の親子らしいことをさりげなく示しながらも、親子だということを声高に断定することを一貫して避け、この問題で観客の興味を引こうとはしていない。監督のねらいはイングォンとの交流によって、大人になることができなかったテギュという男が成長する姿を示すことにあり、テギュの変化を巧みに、かつ、ていねいに描いている。旅の中盤、テギュが若干の罪滅ぼしの気持ちも込めて、レストランでケーキを注文して、テギュの1歳からのすべての誕生日祝いをするシーンがある。この時のテギュは自分の生活を混乱させたイングォンへの怒りも感じていて、「何で生まれて来たんだ?」と思わず口走ってしまうのだが、それは、人間の弱さとして共感できるものだ。そして、旅の終わりに、自分がこれまで気づいていなかった、他者が自分へ向けてくれていた強い思いやりに触れた時に、初めて、素直に自分を省みることができるというのも、人間の姿とは本当にこういうものだろうと納得できるものだ。

 監督はシリアスな場面にも、品の良いコミカルな要素を含ませているのだが、イム・チャンジョンはそれによく応えて、海賊版のCD作りの下働きに甘んじているうらぶれた姿に、コミカルな要素もにじませて、味わいのある演技を見せてくれている。イ・インソンは、いわゆる演技が上手な子ではないが、テギュを困らせようと人前で、「アッパ、アッパ(父さん)」と大声で叫ぶシーンなど、野生児のようなエネルギーにあふれていて魅力的だ。

 旅館の一室で、この作品のタイトル通り「ネギをサクサク、卵をポン」と歌いながら、この調理法で、二人がラーメンを作る場面は、彼らの交流の始まりを感じさせる印象的な場面だが、イ・インソンのエネルギッシュで地のままの自然な演技に、イム・チャンジョンも思わず素で対応しているのが感じられて本当に微笑ましい。

 イングォンは、実は、悲しい二つの秘密を抱えている。これらの秘密の内容はへたをすると御都合主義に陥りかねないものだが、そうならなかったのは、これらの秘密があるからこそ、彼がテギュとの全国縦断を願ったのだというイングォンの気持ちがていねいに描かれているためだ。作品の最後に、二つ目の秘密が明かされるが、その秘密を知り、この作品全体をもう一度振り返ることで、観客は静かな幸福感に包まれることになるだろう。


ティーチ・イン

ゲスト:オ・サンフン監督
2005年9月21日 西鉄ホール
司会:佐藤忠男
通訳:根本理恵

Q: 親子だということを明確に示す場面を作品中で設定されていないのが印象に残っています。二人がキムパプ(韓国風のり巻き)を食べるシーンでイングォンが「キュウリのにおいがきらいだ」と言って、キムパプの具のキュウリを取り出してしまいましたが、それに対して、テギュも父子の証として、キュウリがきらいなのに、我慢して食べていたように見えました。とても、さりげない表現でしたが。
A: おっしゃるように、父子の関係をキュウリが好きでないということで、意図的に出そうかと思ったのですが、あまりに大げさに出してしまうと意図的なところが出てしまうので、本当に軽く出しました。

Q: 子役の選考はどのようになさったのですか?
A: オーディションで選んだ子供でしたが、演技をするのは初めてでした。実はオーディションのときに彼の演技力まではわからなかったのですが、父親役のイム・チャンジョンさんが座っている前に彼を立たせて、「この人がお父さんだと思って、頭をなでてくれる?」と指示したんです。そしたら、本当にちょっと生意気な感じでイムさんの頭をグシャグシャにしたんです。その時の彼の顔が印象的で、彼に決めました。

Q: 劇中、韓国縦断が行われますが、実際に縦断して撮影をされたんですか?
A: この作品のように国土縦断していたら、私たちは撮影の途中できっと倒れてしまったと思います。この映画の、主に設定した季節は夏だったんですが、実際に撮影している時はもう秋に差し掛かっていたので、コスモスの花が咲いてしまっていたんですね。設定上まずいので、コスモスの花を抜かないといけなくなり、付近の方に見つかると叱られるんでこっそり抜いていたんですが、花には本当に申し訳なくて、「お花よ。ごめんなさい。」と抜く度に花に謝るようにスタッフに頼みました。花に謝るその姿が、撮影中一番美しい姿だったと思います。

Q: 寝たり、横になっているシーンが多かったですが、監督の意図は?
A: この映画の中で、父と子の和解があるとしたら、横になっている姿の中にあったのだと思います。宿というのは旅の途中で睡眠を取る場所ですが、横になっていると、緊張が解けて、心の扉が開くということがあるという気がします。作品中、宿がいくつか出てきますが、その度に父と子の心が近づいていっていたと思います。


オ・サンフン監督インタビュー

ゲスト:オ・サンフン監督
2005年9月21日 ソラリアホテルにて
聞き手:井上康子
通訳:根本理恵

Q: 作品のタイトルですが、擬音語を使っているところが斬新で、ラーメンへの連想で暖かさが感じられて、印象に残っていました。どういう経過で決定なさったのですか?
A: 脚本家から最初に受け取ったタイトルがこれでした。このタイトルは韓国映画の市場の中で考えると、ちょっと茶目っ気がありすぎるかという感がしましたし、そういう声もあったんですが、私としては、素朴ですごく良い印象を受けたので、このタイトルにしました。

Q: イム・チャンジョンさんは、テギュの、平凡さの中にある暖かさや、うらぶれた感じもうまく表現できていて、はまり役だと思いました。作品では歌を歌う場面もあって、歌えることが重視されていると思いましたが、彼なら歌えるということもあってイムさんがキャスティングされたのでしょうか?
A: この作品は音楽という要素も出てきますが、その部分もさることながら、私は俳優としての彼がこのキャラクターにぴったり合うと思ってお願いしました。

Q: イ・インソン君は野生児のようなエネルギーが感じられて魅力的でした。彼はオーディションで1,500人の中から選ばれたそうですが、彼を選んだ決め手になる要素は何だったんでしょうか?
A: 私がすべての子供に会ったわけではなくて、最終的に残った20人くらいに私が会いました。実はインソン君は、スタッフがおまけで連れて来ていた子だったんです。オーディションは退屈なことが多くて、面白い子が入っているといいんじゃないかと連れて来てくれたんです。彼は演技経験がなかった子です。演技経験のある子は「こうやって」と指示すると何か表現しようとするんですが、彼は何かやらせても、とても自然で、素朴な笑顔もあって、いいんじゃないかと、最初、思いました。もう1つの理由は、イム・チャンジョンさんがキャスティングされていたので、彼とつりあうのはどういう子か考えたら、ただ、かわいい平凡な子より、少し強い印象のある子だろうと思って、彼に決めました。

Q: インソン君が、演技経験がないというところでは、演技指導に苦労もおありだったのでしょうか? 二人がラーメンを食べるところはすごく好きなシーンですが、あのシーンもたいへん苦労なさったと伺っています。
A: 現場というのはせりふが変わったりしますよね。彼の場合は、演技の経験がないので、覚えてきた通りにはできるけど、即興的に状況に対応するのは苦手だったんです。彼には撮影に入る一ヶ月半前に演技指導をしてくれる先生をつけて個人指導でトレーニングを受けてもらいました。実際の撮影に入ってからは、イム・チャンジョンさんと息がぴったり合わないといけないので、なるべく二人で遊んだりして、なじんでもらうようにしました。

Q: 監督がこの作品の中で、最も意識して見せようとしているのは、イングォンとの交流によってテギュが成長する姿だと思いました。場面場面での、テギュの発言や行動を見ていると本当に人の気持ちはこのようなものだろうととても共感できました。テギュの成長をどう描くかについて、監督が意識なさったことを教えてください。
A: とにかく、私は、ある時はテギュになってみたり、ある時はイングォンになってみたり、頭で考えるのでなく、身を置き換えて、気持ちで感じようとしました。私はシリアスなだけというのは好きじゃないんですね。どちらかというとちょっと茶目っ気がある方が良いと思うし、人に何かを押し付けて強調するようなやり方はしたくないと思っています。私がよく取る方法は滑稽な笑いを込めた状況を作るということです。滑稽なものを見せられた時に人というのは、笑う人もいるし、逆に、滑稽さの中に胸が締め付けられるような気持ちを見出す人もいると思います。人によって感じ方は違うのでしょうが、最終的に同じことをみなさんが感じてくれるのではないでしょうか。

Q: 最後に監督ご自身への質問ですが、映画監督を志されたのはどうしてですか?
A: 5歳の時に本当にねだってねだって、映画館に連れて行ってもらったことがあったんです。その後、小学校の頃から、映画の小さなポスターを収集し始めて、中学の時にはシナリオを書き始めました。映画を志そうと本当に決心したのは中学2年の時でした。それで、大学では映画を専攻し、卒業して現場に入って、映画とは長い付き合いです。初監督の夢が叶ったのは35歳の時でしたが。


(注)<ティーチ・イン>と<インタビュー>では作品の結末に触れた質疑を省略しています。また、合同記者会見で聞き手が質問した内容について、インタビューに含めて再構成しております。御了承ください。


インタビューを終えて

 「ある時はテギュになってみたり、ある時はイングォンになってみたり、頭で考えるのでなく、身を置き換えて、気持ちで感じようとしました」という発言は、二人の気持ちを説得力をもって描いているこの作品を見ていると、素直に納得できるように思えました。

 落ち着いた雰囲気の方で、たいへん物静かに、ていねいに質問に答えていただきました。この日は、日本に来てくださった記念にと思い、『ネギをサクサク、卵をポン』で調理されたラーメンの写真をパッケージに使ってある、日本のインスタント・ラーメンをおみやげに差し上げたのですが、にっこり微笑んで「有難うございます。わたしがきちんといただきます」と、繰り返しお礼を言ってくださり、暖かい人柄も感じられました。


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