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福岡アジア映画祭2005 リポート
『公共の敵2』

Reported by 井上康子
2005/9/7


はじめに

 今年第19回目を迎える福岡アジア映画祭が、7月1日〜10日の日程で、福岡市のデパート岩田屋内のNTT夢天神ホールをメイン会場として開催されました。この映画祭は福岡市在住の前田秀一郎さんを委員長とする福岡アジア映画祭実行委員会の主催による、企画から運営まですべてをボランティアの力で行っているという特色を持つ、全国でも珍しい映画祭です。

 今年上映された日本初公開の韓国映画は4作品、特別オープニング作品『公共の敵2』、その他『最後のオオカミ』『回し蹴り』『風の伝説』でした。やはり、何と言っても、一番おもしろかったのは『公共の敵2』です。

 残念ながら、来日予定だった『公共の敵2』のカン・ウソク監督は特定の俳優を名指しして、俳優の出演料の高騰が映画製作に支障をもたらしていると発言したことが波紋を呼び、来日できなくなりましたが、他の3監督はみなさんゲストとしておいでになり、ティーチ・インも行なわれました。

 今年はいわゆる韓流スターが主演している作品がなく、私が鑑賞した回はいずれも立ち見が出るほどの賑わいはありませんでしたが、韓国語を交えての質問や、韓国語のせりふについての質問も出たりして、ディープな韓国映画のファン層が出来ているのだということが実感できました。




『公共の敵2』 2005年 英題:Another Public Enemy
 監督:カン・ウソク 『トゥー・カップス』『公共の敵』『シルミド/SILMIDO』
 主演:ソル・ギョング(カン・チョルジュン検事)、チョン・ジュノ(ハン・サンウ)、カン・シニル(キム・シニル部長検事)、ピョン・ヒボン(アン・ヒョンジュン理事)、イム・スンデ(チョ・インス検事)、パク・サンウク(カン・ソクシン)、オム・テウン(ソン・ジョンフン)


『公共の敵2』


 カン・ウソク監督は、2002年に公開され大ヒットした『公共の敵』では、ソル・ギョング演じる悪質で劣等生のカン・チョルジュン刑事を、異常な悪辣さを持つ知的な殺人犯と対決させて、猟奇的状況の中で観客を笑わせるという至難の技をやってのけた。そして、2003年の『シルミド/SILMIDO』では、たいへん政治色の強い史実の映画化を実現させ、さらに興行的にも大成功させ、監督の映画産業界での地位をさらに確固たるものにした。「観客が求めているもの」を確実に把握して見せようとするカン監督は、本作品では何を見せてくれるのだろうか。

 本作の「公共の敵」である悪人、ハン・サンウは大資本家でありながら、財産を独り占めするため、殺人、贈賄、脅迫と悪の限りを尽くしながら、金の力を絶対的なものと信じて疑わず、金は法律より強いと嘲笑している奴だ。対決するのは、前作同様ソル・ギョング演じる同名の主人公カン・チョルジュンであるが、本作での彼は検事であり、主人公が悪に対決するという主題は前作を踏襲しているが、独立したストーリーをもつ作品だ。ハンが金による絶大な権力をもつ巨悪であり、対立的な要素として、本作でのカンは金を持たず清潔に生きる、正義の象徴である検事という設定になっており、前作の大きな魅力となっていたカンの悪質さや劣等性ぶりをコミカルに描いて観客を笑わせるという要素は本作には含まれていない。監督はこの作品では別のものを見せようとしているので、前作同様の笑いを期待して観ない方が良いだろう。

 監督は冒頭で、高校の回想シーンを用いて、カンとハンが同じミョンソン高校の同級生であり、ハンは学校を所有するミョンソン財団の理事長という権力者の息子であるという立場を利用して悪巧みをしては処罰を免れ、そのことは、カンに世の中に矛盾があることを悟らせ、ハンへの強い怒りを植えつけたことを手際良く説明し、二人の対立が宿命的なものであることを観客に印象づける。実はカンがまじめに勉強して検事になったのも、ハンのような不正義を許せないという思いからだったのだ。

 そんなカンの耳に「ミョンソン財団事件」の話が入って来る。財団では、ハンの父親であった理事長が急死し、さらに後継者であるハンの兄も不審な交通事故のため昏睡状態に陥っていた。ハンの仕業だと直感したカンは捜査を開始する。そして、兄が亡くなるや、理事長の座に着いたハンは財団所有の学校を売却しては、その資金を海外に流出させ、贈賄を繰り返し、大物政治家に取り入っていく。ハンは金の力が絶対的なものだと信じているので、決定的な証拠を持っている学校のアン理事を金で抱きこみ、金の力で癒着した政治家を利用して、検察上部や警察上部に手を廻し捜査を妨害する。

 さすがのカンも一人ではこれに対抗していくことができない。金の力を超える、この事件を解決に導くことができるものとして、カン監督が示しているのは、カンを取り巻く検察官や、部下の捜査官たちとの、熱い情によるつながりだ。特にカンと、カンの直属の上司であるキム部長検事とのつながりは熱く深い。カンの捜査が暴走気味なのを懸念したキム部長が「相手がハンだからここまでやっているのではないか?」と尋ねると、不器用なカンは返事に困って黙り込んでしまう。するとキム部長は「俺の前では素直に『はい』と言えばいいのだ」と諭す。

 ハンの妨害による捜査の行き詰まりから泥酔したカンが訪れるのもキム部長の一人暮らしのアパートだ。ひとつ鍋のラーメンを奪い合い食べる場面は、ソル・ギョングとカン・シニルの演技力があってのことだが、おかしくて、温かくて、切なくなる見せ場だ。カン監督は、これ以外にもほろりとうまく泣かせてくれる場面をたくさん準備している。この作品では、監督は、男同士の熱い情を見せ、観客を泣かせようとしているのだ。

 事件の解決のために、作品中、具体的証拠を積み重ねて示してはいるが、それらは形式的で重視されてはいない。事件の解決に決定的な役割を果たすのも、たいへん韓国的であるが、男同士の情のこもった縦のつながりだ。捜査の妨害が排除できず、もはや検事としては行動できないと感じたカンは自分のI.D.カードをはずしてキム部長に預けるという象徴的な行為で、キム部長への信頼をも表わす。キム部長は、そのカンのI.D.カードに自身のカードを並べて、主席検事の前に置き、捜査への協力を依頼する。キム部長の行為にほだされた主席検事は、今度は自分のI.D.カードをはずして横に並べると、上層部からの捜査妨害をはねつける行為に出るというのが、この作品の実質的なクライマックスだ。

 この作品には、二枚目は、犯人のハン役のチョン・ジュノと彼のボディーガード役のオム・テウンしか登場しない。また、カンは仕事に打ち込むあまり恋人もおらず、キム部長も同様の理由で離婚したという設定で、作品中、女性は完全に排除されている。登場するのは主演のソル・ギョングやカン・シニルを筆頭に、決して二枚目とは言えない、しかし、味わい深い、無骨で実直な顔を持つ男たちだ。無骨な男たちは、ウィスキーをビールで割る爆弾酒を一緒に飲み、ひとつ鍋のラーメンを奪い合って食べることで、情のこもったお互いのつながりを確認していく。

 この作品で描かれているのは、こういう韓国の伝統的な男社会だ。そういう意味では、この作品は、キム・ジウン監督が、男の世界の中で、情が不在であることを前提にして、一人の男の孤独な闘いを耽美的に描いた『甘い人生』の対極にあるような作品だと思う。

 映画祭の実行委員長である前田さんからは、実はこの作品は他の規模の大きい映画祭でも上映したいという強い要望があったものの、こちらの映画祭ではすでに、カン監督作品『トゥー・カップス』『公共の敵』を上映したというつながりもあり、アット・ホームな雰囲気を持つ映画祭として、カン監督がこの映画祭を気に入ってくれていて、こちらで上映するという選択をしてくれたという裏話も紹介された。きっと、カン監督自身も、人と人のつながりを重視する情の深い人だということを示す良いエピソードだと思う。


前田秀一郎氏

 この作品は、さすがに、カン監督の作品であって、泣かせどころを巧みに押さえているし、また、韓国の伝統的な男社会を描いているという点では、韓国の社会や文化に興味を持つ人にも、お薦めできる。ただ、本作は残念ながら、日本ではまだ配給が付いていないとのことだ。興味のある方はソウル訪問の折に、DVD等のソフトを購入して楽しんでほしい。


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