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Review 『初恋のアルバム〜人魚姫のいた島〜』
『彼女を信じないでください』『マイ・ブラザー』
『もし、あなたなら〜6つの視線』

Text by カツヲうどん
2005/5/29受領


『初恋のアルバム〜人魚姫のいた島〜』 ★★★★★

 「アジュマには、アジュマの人生がある。」

 韓国で「アジュマ」といえば「おばさん」という意味に、「女性として完全に終わった」といったようなニュアンスが付け加わることがある(だから私はあまり「アジュマ」という言い方はしないようにしている)。

 この映画に登場するヨンスンも、そんなネガティブな意味でのアジュマの一人である。逞しく生命力に溢れているが、あまり側にいて欲しくない、ずうずうしい中年女性だ。だが、この『初恋のアルバム〜人魚姫のいた島〜』を観れば、そういった「アジュマ」への見方がちょっと変わるかもしれない。

 この作品は間違いなく2004年の韓国映画ベスト5の一本であり、主演のチョン・ドヨンにとって代表作になるだろう。

 一見陳腐な物語に見える、この映画が、なぜ素晴らしいのかは、観ていただければすぐわかると思う。パク・フンシク監督の優れた演出と脚本(共同執筆:チョン・ヘジン)は、言葉だけでは臭い物語を、素晴らしい人生譚に逆転させ、観客をヒロインと共に、30年前の済州島にタイムスリップさせる。そして、一人の女性の人生を目撃することになる。他の作品とあえて比較するなら、隠れた名作『ある日どこかで』(1980年/ジュノー・シュウォーク監督)に、ちょっと近い感性の作品だ。

 また、『初恋のアルバム〜人魚姫のいた島〜』は、『大統領の理髪師』や『ぼくらの落第先生』といった作品と共通する「過去への原点回帰」の風潮も色濃く出ており、日本人が、韓国のドラマに求める過去への哀愁、懐かしさと重なる部分でもあるから、日本でも大勢の共感を呼ぶに違いない。

 この映画の、もう一つ素晴らしい点は、済州島が舞台であることを、ことさら強調せず描いていることだ。今まで済州島を舞台にした映画は、同地の特殊性ばかり前面に出しがちだったが、『初恋のアルバム〜人魚姫のいた島〜』では、済州島の風土を誰の心にもある故郷の象徴として自然体で描いており、実に心地好い。

 キャスティングは全体的に地味だが、それがまた物語に厚みを加えている。中でもヒロイン演じたチョン・ドヨンは素晴らしい。おそらく、彼女の出演作で一番の演技だろう。ここ数年、パッとしない主演ぶりが続いていたから、なおさらだ。彼女が20歳の役を演じるということで「いくらなんでも無理がある」という下馬評もあったが、実際は全くそんな事はない。漁村で生まれ育った素朴な可愛らしさは、ズーズー弁の済州島訛りとあいまって、実に魅力的だ。

 現代でのヨンスン役は名女優コ・ドゥシムが演じているが、彼女も非常に説得力がある。彼女の持つ迫力は、まさに人生を背負った「アジュマ」の姿に相応しい。二人の女優によるコラボレートは、見事に一女性の生き様を表現して見せた。あのパク・ヘイルですら、たいした演技はしていないのに、共に輝いている程だ。

 かなり毛色の変わった作品ではあるものの、名作と呼ぶに相応しい作品である。


『彼女を信じないでください』 ★★★★

 韓国では最近、観客の目が肥えた為か、ギャグばかり噛ましている中身の無いコメディ作品には、皆がソッポを向くようになって来ている。そんな中で、成功したのがドラマ性を重視した『ぼくらの落第先生』であり、『オー!ブラザーズ』なのだが、この二本に共通することは、人間ドラマに力を入れている、という事だろう。この二作に比べれば、『彼女を信じないでください』はくだらないし、軽率かもしれないが、ドラマ性重視のコメディとして、十分観る価値のある作品になっている。

 内容は、女詐欺チュ・ヨンジュ(キム・ハヌル)が、刑務所出所後、列車の中で知り合った青年チェ・ヒチョル(カン・ドンウォン)の婚約指輪を手にしたことから巻き込まれる、韓国ド田舎コメディだ。

 舞台になった龍江という場所は、観客席から地名を観ただけで笑いが起こるほど田舎らしいが、それゆえ、この場所は人間関係が狭く濃く、ヒロインが村から抜け出せなくなって行く様、ヒチョルの婚約者と偽って居座らざるをえなくなる様、それなりに受け入れられて馴染んでしまう様が、ズレた笑いで描かれて行く。

 ここにおいて一番重要なテーマとして提示されている事は、まず「家族」だろう。現代の冷めた人間関係を象徴するのがヒロイン、ヨンジュであり、本来の韓国における濃い家族を象徴するのが、龍江の人々であり、両者の比較と対立は、非常に面白く、監督のペ・ヒョンジュンのバランスのとれた演出センスと合間って、オーソドックなネタを、きちんと今風の感覚で見せる事に成功している。切れのよい編集と構成は、泥臭くなりがちな人情コメディを、明るく洗練された印象に仕上げており、特に地元の「Mr.唐辛子コンテスト」のシーンは、秀逸だ。

 すっかり三枚目女優と化したキム・ハヌルだが、演技そのものは冷静で計算高い。相手役演じたカン・ドンウォンは、見かけこそパッとしないが、ごく普通の冴えない若者を好演しており、イム・チャンジョンの若い頃を彷彿とさせる魅力を持っている。

 脇は皆、堅実で上手い俳優が揃っている。リュ・テホ&ソン・ジェホの『殺人の追憶』名演コンビは勿論だが、ヒチョルの祖母演じるキム・ジヨンの惚けた可愛らしさは、多くの観客を魅了するだろう。

 日本人にもよく理解出来る、愉快な快作として、是非お勧めしたい作品である。


『マイ・ブラザー』 ★★★★

 ウォンビン主演ということで、アイドル映画扱いされた感のある作品だが、偏愛的といってもいいくらい、郷土愛丸出しの映画だ。慶尚道嫌いの人がいるとしたら、その人にとっては絶対ダメな映画といってもいいだろう。しかし、せっかく地方性を前向きに語れる時代になった訳だから、このぐらい「故郷万歳!」を主張してくれた方が、これからは正解かもしれない。

 アン・グォンテ監督は製作記者会見で「家族愛がテーマである」ことを強調していたが、観終わってみれば、確かにその通りに仕上がっており、なぜ原題が『俺の兄貴』ではなく『うちの兄貴』なのか、観ると、きっとわかるだろう。

 ただ、男の体育系の物語なので、特に女性の場合、ウォンビンのファンにしても、シン・ハギュンのファンにしても、期待を裏切られるかもしれない。弟ジョンヒョン演じたウォンビンは、力強く、かつ繊細な演技を見せ、俳優としての株を一層上げた。この映画は、彼のアイドル然とした、誤ったイメージを払拭させてくれるだろう。

 不良オクスを演じたキム・テウクも、個性的な顔立ちと哀愁漂う演技で、非常に印象的。まさに「慶尚道映画」の名脇役にふさわしい活躍を見せる。だが、その反面、兄のソンヒョンは、最後まで魅力的な面を見せることが出来なかった。これは演じたシン・ハギュンの問題ではなく、シナリオの問題のように思える。始終不明瞭なキャラクターゆえ、かわいそうなだけで、よくわからない人物なのだ。故に、弟ジョンヒョンの兄への想いはひとりよがりに見えてしまうし、この想いが映画の重要なテ−マにもなっている為に、どこか物語が破綻しているようにも見えてしまう。

 そして、この映画最大の難点は、女性陣を全く生き生きと描けなかったことだろう。兄弟の母親演じたキム・ヘスクは、力強いが、全編を通じてこの母親像に演出側の疎遠さを感じたのは私だけだろうか。せっかく女手一つで子供たちを守り育てて来たのだから、そういった人生の一面を、もっときちんと踏み込んで描いて欲しかった。ヒロインのミリョンは、もっと悲惨だ。みもふたもない役柄で、これでは演じたイ・ボヨンも、がんばりようがない。

 この『マイ・ブラザー』は、アン・グォンテ監督の作品というよりは、『友へ/チング』の監督、クァク・キョンテク組スタッフの、同士愛と郷土愛に支えられて作られた彼らの作品といったほうがふさわしく、良くも悪くも、ドメステックだ。だから必ずしも一般的な作品とは言い難いが、意外な佳作といっていい作品だ。


『もし、あなたなら〜6つの視線』 ★★★★

 人権をテーマにしているため、お役所の影が見え隠れしているような企画だが、どの作品にも監督の個性が反映し、製作費が安い分だけ、皆リラックスして撮り上げている楽しさが感じられる、なかなか面白い短編集だ。

 決して暗かったり、深刻だったり、お堅かったりはせず、コメディからホラーまで、多種多様な作品が揃っている。どの作家の視点についても共通していることは、皆醒めている、という事だ。

 それでは、各作品について述べてみたい。

1.『彼女の重さ』(イム・スルレ監督−『ワイキキ・ブラザース』)
 太めの女子高生を巡るコメディ・タッチの作品。全編漂う脱力感が笑える。登場する女の子は皆冴えず、学校も家庭もしょぼくれている所が逆にリアルだ。主演のイ・ソリの冴えなさぶりは、女優として輝いている。

2.『その男、事情あり』(チョン・ジェウン監督−『子猫をお願い』)
 近未来、管理された集合住宅を舞台にしたSF風の作品。おねしょが治らず、叱責される少年の姿が妙に活き活きしており、印象的。こういう映像を観ると『ウルトラセブン』を思い浮かべるのは、世代ゆえ?

3.『大陸横断』(ユ・ドンギュン監督−『寵愛』)
 最も笑えた、身障者の生活を巡るコメディ。主演のキム・ムンジュは、実際の障害者だが、壮烈な熱演を見せ、驚きのラスト・シーンが待っている(というよりも、こんな事、やってもいいのか?)。

4.『神秘的な英語の国』(パク・チンピョ監督−『死んでもいい』)
 最もエグイ作品。実質セミ・ドキュメンタリーだが、思わず目を背ける方も多いのではないだろうか。なぜなら、「L」や「R」の発音が出来ない子供の舌を、生々しく手術する様子を、延々と映し出す内容だからだ。まさに、親馬鹿残酷物語である。日本でも、同じことが行われていないとは言えないことも、恐ろしい。

5.『顔の価値』(パク・クァンス監督−『イ・ジェスの乱』)
 これは一種の怪談である。すっかりベテランになったパク・クァンスの演出ぶりに、斬新さは無いが、チョン・エヨンの無機質な表情は、なかなかぞっとさせられる。

6.『N.E.P.A.L . 平和と愛は終わらない』(パク・チャヌク監督−『オールド・ボーイ』)
 この話は実話だそうだが、急激な外国人増加に、韓国内の行政のみならず、一般の意識さえついて行けなくなっている事を示す現代の奇譚だ。「そんな馬鹿な」と思う方もいるだろうが、韓国の街頭で警察の訊問を喰らい、外国人であること(もしくは正規の滞在者であること)を、なかなか信じてもらえなかった経験がある方には、切実な事実として理解出来ると思う。

 韓国映画のクリエイターたちに関心のある方々にとっては、絶対損のない、お得で充実した作品集だ。


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