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『新暗行御史』のお出ましだ!

鄭美恵(Dalnara)
2005/1/4受領




左から志村錠児監督、ユン・ソナ(日本版ナレーション)、
イ・ジフン(韓国版ナレーション)

 ここはいにしえの韓の国かあるいは時代を超えた無国籍の山河か。かつて聚慎(ジュシン)という国に暗行御史(アメンオサ)という隠密要員がいた。『春香伝』に登場する、悪政を正す、あの暗行御史だ。ただし、こちらの暗行御史は馬牌をつかい敵を倒す。今は滅びた聚慎を後にし、一人の暗行御史、文秀(ムンス)が乱世をさまよう姿を描いた日韓合作アニメーション『新暗行御史』が劇場公開されている。

 原作・尹仁完(ユン・イヌァン)、作画・粱慶一(ヤン・ギョンイル)コンビで、韓国と日本で同時に連載している人気マンガ『新暗行御史』の映画化作品である。初めて読んだ時、「救いばかり求める奴に奇跡は起こらない。これから起こることは、すべて偶然だ」と言い放つ、シニカルで現実的なヒーローに惹きつけられた。一片の甘さもないヒーローのセリフに勧善懲悪を期待する気持ちが覆された驚きと共感をおぼえた。今回の映画化でもこのセリフが登場するので、ぜひ時代の新しいヒーロー像を確かめてほしい。


左から粱慶一、尹仁完、イ・ジフン、ユン・ソナ

 暗行御史は映画を観るとわかるように実は本人はあまり強くない。ただプロジェクト・マネージャーのように、事件の深部を全体から洞察し、コントロールする卓越した判断力を持っている。その鋭さは衆愚にも容赦なく向けられる。単なる勧善懲悪ではないその姿は、水戸黄門や古典の暗行御史とは異なる、新しい価値観、善悪を超えた価値観を創出して魅力的だ。挫折を知って地に足のついた、悪っぽい正義漢とでも呼ぼうか。ぬるま湯のような勧善懲悪のスタイルに慣れた眼には新鮮で、マンガだからできる部分も多く感じられるだろう。

 実際に敵を倒すのは馬牌で召喚される幽幻兵士(ファントム・ソルジャー)や、供の山道(サンド)。山道(サンド)の名は春香(チュニャン)。あの『春香伝』の春香が、寡黙に華麗に戦うシーンはアニメーションならではの見どころの一つ。文秀と春香が師弟のように山河を歩む無言の風景が、マンガでは味わえない静けさと間を伝えて、戦いと戦いの間のひとときのやすらぎを伝える。このシーンで流れる歌にはしみじみと聞き入ってしまう。前半と後半の戦闘シーンにはさまれた間奏曲のようなシーンで、緩急に富んだ構成となっている。志村錠児脚本・監督。

 登場人物の名前は韓国の古典や歴史上の人物からとられている。朴文秀[1691〜1756]は実在した暗行御史、夢龍(モンニョン)と春香は『春香伝』に登場する主人公の名前だ。柳義泰(ユ・イテ)は実在の人物で職業も同じ医者。実際はマンガと異なって仁医の人だそうだ。柳義泰の弟子である浚(ジュン)は許浚からとられている。『東医宝鑑』を編集した名医だ。小説『許浚』で描かれているのは、柳義泰と許浚、ふたりの医者の理想的な師弟関係だが『新暗行御史』では、師弟がどのように描かれているかも見どころのひとつ。

 登場人物の名前を通して歴史上の人物や古典の人物に関心を持ち、アレンジされた古典の奥行きを感じられるプロット作りが巧みである。換骨奪胎、温故知新、古い革袋に新しい葡萄酒を注いだような、縦横無尽に自由に古典をアレンジする原作者の発想が伝わるように映画化された作品。アニメ映画からも韓国の持つ創作力や発想力が感じられる。


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