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アジアフォーカス・福岡映画祭2004 リポート
『オー!マイDJ』

Reported by 井上康子
2004/10/15受領



『オー!マイDJ』 2004年 原題『アンニョン! UFO』
 監督:キム・ジンミン
 主演:イ・ボムスイ・ウンジュ

 ギョンウは視覚障害があるが、かわいくて堂々とした女性で、家庭問題相談所の電話相談員をしている。子供の頃、UFOに遭遇したときに一瞬だが目が見えるようになったという思い出を大切にしている。彼女は親から独立するためクパバルという町に引っ越してきて、バスで通勤するようになる。彼女が帰宅時間に乗るバスは、サンヒョンが運転を担当している。障害があることに引け目を感じず、バスが遅れたことを怒るギョンウにサンヒョンは魅かれる。

 いつも彼のバスでは、ラジオ放送のDJパク・サンヒョンによる番組が流れているが、実はこれは運転手サンヒョン自身が自宅で録音した偽ラジオ番組だ。クパバルに住むサンヒョンは、ある日、街の路地で彼女を助けるが、自分が偽ラジオ番組のDJ本人であること隠すため、名前も仕事もとっさに嘘をついてしまい、それからは街で出会う彼女の前では、パク・ピョングとしてふるまわざるを得なくなる。

 彼女が好きになる程、嘘に対する自責の念が高まるサンヒョンだったが、彼女が彼の偽番組にリクエスト葉書を送ったことで、窮地に立たされる。彼は彼女の前で自分が嘘をついたことを告白できるのだろうか。そして、彼の想いは彼女に伝わるのだろうか。


レビュー

 クランク・インの報道を見て以来、楽しみにしていた映画だ。イ・ウンジュが視覚障害者を演じるが、その視覚障害者ぶりが堂々としていて、さわやかな印象をもったのと、演技派イ・ボムスが愛する彼女のために一生懸命になる純な三枚目として絡む、と聞いて、これはきっと楽しく暖かい作品になるぞと期待していたが、そのとおりの作品だった。

 キム・ジンミン監督は冒頭でスピーディーに、ギョンウが視覚障害をもっているが、そのことに引け目を感じたりせず堂々と生きていて、かわいい女性であることを示してしまう。イ・ウンジュ自身の魅力なのだろうが、堂々としていて、かわいいという、併せもつことが通常考えにくい要素が絶妙なバランスをとって保たれていて不思議だ。ギョンウが大学の暗い廊下に白状(視覚障害者用の杖)をリズミカルにカンカン音を立てて打ちつけながら、戸惑いの微塵もなく、さっそうと歩くところは本当に格好良い。

 一方、サンヒョンは自分に自信を持っていない人間だ。彼はそのため、直接は自分自身を表現することができず、家で自分がDJをして収録したテープを自分が運転するバスで流している。自分に自信がないサンヒョンが、乗客として迎えたギョンウの堂々ぶりを見れば、恋におちるのは必然だ。

 その後の、サンヒョンの寝ても覚めても彼女のために尽くす純粋さぶりに、彼の、ギョンウが見えないことを前提についた嘘が、ばれないようにするためのドタバタがコミカルな要素として絡まり、エネルギーが一気に高まっていったところが、この作品の個性を最も楽しむことができる部分だ。

 作品後半にストーリーの転換点としてギョンウの元の彼が登場して以降、ギョンウが急に優柔不断な女になり、サンヒョンは常にイライラしてしまい、この作品の暖かく楽しいというトーンが変化してしまったのは残念だったが、ラストではまた何とか持ち直している。

 この作品はストーリー全体の流れとはあまり関係をもたない、独立したコミカルな場面をサンヒョンの家族やクパバルの住民を登場人物として数多く設定しているという特色をもつ。サンヒョンとポン・テギュ演じるその弟の掛け合いは上映中最も笑いを取っていた。その他、不動産屋さんを演じたピョン・ヒボン(『ほえる犬は噛まない』でボイラー室のおじさんを演じた)といつも柔道着を着ているドボク青年を演じたチョン・ジェヒョン(『ブラザーフッド』でパルチザンと見なされて殺された、元靴磨きの少年を演じた)のデフォルメされた演技は秀逸。

 ストーリー全体の流れを楽しむというより、個々の場面をいかに楽しむかに重きが置かれた作品だ。見る人の好みによって評価が分かれそうだ。


ティーチイン

2004年9月13日(月) エルガーラホールにて
ゲスト:キム・ジンミン監督
司会:八尋義幸(アジアフォーカス・福岡映画祭事務局スタッフ)
通訳:根本理恵

Q: 主演の2人の演技が良かったです。イ・ウンジュ、イ・ボムス起用の過程を教えてください。
A: イ・ウンジュさんは、シナリオの段階から起用を考えていました。私は以前からイ・ウンジュさんの出演した作品を見ておりまして、是非いつか彼女と一度映画を撮ってみたいと思って、最初からギョンウ役に決めていました。イ・ボムスさんの演じたパク・サンヒョン役は、実は他にも2、3人の候補がいました。でも、その2、3人の候補の俳優さんはイ・ボムスさんに比べたら、コミカルな面と純粋な面がちょっと弱いかなという感じで、その代わりシリアスな面がありました。でも、最終的にはイ・ボムスさんに決まりまして、彼がこの役を演じたことによって、コミカルな部分と純粋な部分がうまく引き出されて、映画そのものも非常に純粋でコミカルになったと思います。イ・ボムスさんは韓国映画界ではコミカルな演技が本当にうまい俳優さんとして知られています。

Q: イ・ボムスさん演じるパク・サンヒョンとポン・テギュさん演じるその弟の掛け合いがとても楽しかったですが、あれはアドリブで演じられていたのですか?
A: あの、2人の掛け合いはアドリブではなくて、シナリオの段階から、私が決めて書いたものです。私には2歳上の兄がいまして、ちょうど、兄と私の関係が、この映画の中の兄弟のような関係でしたので、自分の姿を映し出すようなものなので、兄弟を書くことについては自信をもっていました。だからといって、私が悪い弟という訳ではありません(笑)。

Q: クレジットのシナリオのところには、監督の名前はなかったですが、ストーリーは監督自身が考えたのですか?
A: 私が最初の大まかなストーリーを決めて、その後、脚本家の方にお任せしました。

Q: 作品中に登場した歌手のチョン・イングォンさんについて教えてください。
A: チョン・イングォンさんは歌手で1980年代に活躍した「野菊」というロック・グループのメンバーで、ボーカルでした。韓国で上映されたときは彼が出てくる度にみなさん大笑いしていました。私は30代前半ですが、この年齢の人間にとって、彼はアイドル的存在の歌手で、子供の頃に是非一度会いたい、と思う歌手でした。それで、この作品に出演をお願いして引き受けてもらえました。実はここで明かす秘密なのですが、当初はこの歌手の役にチョ・ヨンピルさんを考えていました。彼にも出演をお願いしたんですが、忙しいということで、出演していただくことができなかったので、チョン・イングォンさんに決まりました。

Q: チョン・イングォンさんが歌っていた『行進』という曲は、映画のために創作されたのではなくて、実在する曲ですか?
A: 実在する曲で、作品の中でチョンさんがこの歌を作りながら、歌詞をどうするか悩んでいるという部分は私の創作です。

Q: バスの運転手サンヒョンがDJの放送を流しながら運転していましたが、韓国では、バス運転手が運転中にDJの放送を流しているといったことは、本当に行なわれているのですか?
A: 韓国ではバスの運転手さんが、ラジオをかけて乗客に聞かせるというのは普通のことです。韓国では「運転手は神様だ」と言われています(笑)。運転手さんが、自分が好きな曲をかけても良いことになっています。

Q: 舞台になっている街が、少し昔の日本に似ていて懐かしさを感じましたが、韓国では今も、ああいう街があるのですか?
A: 舞台になっているのは、ソウルのクパバルというところですが、ソウルの中心地ではなくて少しはずれにある街です。私がそこを選んだ目的は、映画作りの目的にもなるのですが、今、私たち現代人はとても忙しい毎日を送っていて、利己的というか自分勝手で、自分のことしか考えないで生きている人がたくさんいると思うので、そういう姿ではなくて、本当に純粋で穏やかで平凡な人々の姿を映せないかと思って探したところ、ロケハンで探している時に、ちょうどクパバルの町を見つけました。そこは、いわゆるソウルらしくない街で、今回の映画の舞台にはもってこいでした。ソウルは、ほとんどの所が開発されてこういう街は、なかなか残っていないです。

Q: UFOを登場させた監督の意図は?
A: この質問はこれまで多く受けていたので、何で今日はその質問が出ないのかと思っていました。手短に言いますとUFOは希望の象徴として、この映画の中で描きました。私たちは憧れるものには、是非会いたいと思うのですが、なかなか会えません。憧れというのは夢でもあり、その夢を失わずに生きている人は幸福ではないかと思いました。ですから、UFOに象徴されるように、夢の大切さや希望を込めてUFOを登場させました。

Q: サンヒョンと弟が、きゅうりをかじる場面が多くて気になりましたが、監督の意図は?
A: 小道具の担当者が持って来たから使っただけです(笑)。というのは冗談で、兄弟の関係を面白く描けないかと思い、目立つものを考え、おやつとして、一般的に食べる物ではない物を食べさせてみました。

Q: 視覚障害のあるギョンウの仕事が電話相談員でしたが、仕事の候補は他にもあったのですか?
A: 日本もそうだと思いますが、韓国でも視覚障害のある人の職業は制限があって、声だけで何かできる仕事はないかと思い、家庭問題相談所を思いついて、そこの電話相談員という職業に設定しました。

Q: 一般的に障害者を描いた作品は、障害者が努力をしないといけないという設定で、障害者にプレッシャーを与えるものになっていますが、この作品では障害者の悩みも描かれていて感動しましたが、障害者像はどのようにイメージしたのですか?
A: 良い質問をしてくださってありがとうございます。障害者をどう描くかというのは本当にとても難しかったのです。障害者の憂うつな姿や、困難を克服するためにがんばっている姿を描いたドラマや映画が非常に多いと思います。でも私はそういう姿ではなくて、一般の人と同じ姿で描きたいと思いました。みなさんも、もし視覚障害の人たちが通う学校があったら、そこに行ってみるとわかりますが、私はこの映画を作るにあたって行ったのですが、本当に皆さんが明るくて、おしゃれをし、すごく純粋なところがおありでした。私はそういう人たちと、少しの間一緒に生活し、会話をしながら、障害をもつ人の本来の姿を近くで見ることができました。そして、私が以前もっていたイメージというのは、健常者が作り出した偏見にすぎない、そういうことに気がつきました。ですから、この作品の中では、そういう人たちの本来の姿を、健常者と変わらず、こんなに明るいのだということを、描きたいと思いました。障害者の憂うつな部分が描かれていないという意見もありましたが、明るい障害者の姿がとても良かったと言っていただいたことがあって、非常にうれしかったです。


インタビュー キム・ジンミン監督

2004年9月16日(木) ソラリア西鉄ホテル
聞き手:井上康子
通訳:根本理恵

キム・ジンミン
 1970年、釜山生まれ。東義大学政治学専攻卒業。その後、世宗大学で映画芸術を学ぶ。パク・チョルス監督やソン・ヌンハン監督の製作チームに加わった後、イム・サンス監督の『ティアーズ』、オムニバス映画『THREE/臨死』キム・ジウン監督が担当した第1話などの助監督を経験し、本作で監督デビュー。

 キム監督、真面目に話しているのかと思いきや、サービス精神旺盛で、ティーチインの端々にボケや突っ込みを入れて、観客の笑いを巧みに誘いだしていた。実はキム監督、釜山生まれとのことで納得したが、結構、釜山なまりが強く、そのなまりで、知的なボケや突っ込みを入れるので、私は突っ込み好きの大阪の友人に会っているような親しみを感じた(釜山は大阪によく似ているといわれるが、釜山なまりのイントネーションも大阪のそれによく似ている)。また、障害者の問題を語る口調は真剣かつ真摯で、真面目なお人柄も伺えた。

 デビュー作としての特別な思いも知りたく、お話を伺わせていただいた。

● 映画化の過程

Q: 『オー!マイDJ』について、私が初めて知ったのは、クランク・インしたことが、韓国の芸能番組で紹介されていたのを見た時だったのですが、「視覚障害があるけどめげてない女性」、「昔UFOを見たときに一度目が見えるようになったことがある」、「その女性を好きになる、自作のDJテープをバスで流す運転手」という設定を聞いて、とても楽しそうな作品だと思いました。監督はこの作品でデビューされましたが、こういう観客の興味を強く惹く、楽しそうなストーリーなら、監督の企画がすぐに認められて、出資者を得るとかいうことがスムーズに決まったのではないかと思いましたが、実際はいかがだったのでしょうか?
A: 実は製作にこぎつけるまでは、結構難しかったのです。まず、シナリオの段階でたいへんでした。視覚障害の女性が主人公になっているということ、そして偽って会い続けるバスの運転手がいて、そしてUFOを見たというエピソードを組み立てるのに2年半かかりました。2人だけの恋愛を描くのではなくて、街の人も登場させないといけなくて、いろいろなキャラクターを作るのにも時間がかかったし、ひとことで簡単に、自分を偽っていると言いましたけど、だましているわけで、でも、どういうふうにだましたらいいのか、ちょっと綱渡りのような感じで、ばれそうでばれない、いい塩梅でだましていかないといけないから、そういう物語を組み立てるのがたいへんでした。そして、ファイナンシングと言いますが、最終的に資金を集めて映画を作らなきゃいけないのですが、実はこういったジャンルは、韓国ではあまり人気がないのです。出資する会社の方や配給会社からは、「ストーリーが弱い」「インパクトが弱い」とあちこちで断られてしまったのです。幸いTUBEエンターテイメントという会社にもって行った時は「シナリオが良いね」と言われて決まっていきました。その後は、撮影は順調に進みました。

Q: こういうジャンルは人気がないと言われましたが、この作品はラブコメになると思いますが、韓国では人気のないジャンルになるのですか? ラブコメ作品は、韓国で多いという印象があるのですが。
A: まず、視覚障害の女性とバスの運転手という設定を聞いただけで、暗い話じゃないかと心配されました。今の韓国映画界の雰囲気や実際に作られている作品の状況を見ますと、刺激的なストーリーの作品が人気があるのです。とにかく、インパクトの強い作品が人気を集めて、最近はメロドラマ、ラブストーリー、ラブコメというのは作品自体が良くても、商業的な人気がちょっと下降線をたどっています。製作費を出す人たちも、とにかく刺激的な映画を求めていて、刺激的でインパクトが強いなというものには結構お金を出すのですが、そうでないものには控える傾向があります。それで、俳優さんたちもそうなのです。送られて来たシナリオを見て、メロドラマとかラブコメだと難色を示して、キャラクターがすごくインパクトが強かったらやりたがるという傾向があります。

● イ・ウンジュに関して

Q: イ・ウンジュさんのことがとても好きで、シナリオも彼女を想定して書いたし、ぜひこの映画に参加してもらいたいと思っていたと、ティーチインでお話なさいましたが、彼女はこの役を演じることに積極的だったのですか?
A: シナリオを見て、すぐに「出演します」と連絡が来ました。イ・ウンジュさんは、他の女優さんがこれは難しいと言って、避けたがるような役に挑戦するタイプの女優さんです。自分がかわいく見えるとか、かわいく演じられるような役よりも、少し興行的に当たらない可能性があっても、少し暗い内容でも構わないから、自分が気に入った役をやりたい、そして役の大小もあまり気にしない人なのです。若いにもかかわらず、非常に成熟した考えをもっている女優さんです。だから、韓国の映画監督には彼女を起用したがる人が多いです。

Q: そういう売れっ子の女優さんと仕事をすると、スケジュール調整はたいへんなのでしょうか?
A: スケジュール的には順調ではなかったです。イ・ウンジュさん、イ・ボムスさん、共にとにかく人気のある方なので、次の作品が決まっているし、こちらも期限内に撮影を終えないといけないというプレッシャーがありました。それは新人監督としては大きな負担でした。製作方式や撮影日程は、日本と韓国ではたぶん違うと思います。日本ではとにかく決められた期間内に撮影を終えるというのが前提ですが、韓国の場合は少し伸びたりしても、スタッフも理解するし、製作会社の方もそれだけの器があり理解を示す余裕もあります。もしかしたら、これは韓国だけの製作方式かも知れないですが、合理的な観点からしたらとんでもない話で、ヨーロッパやアメリカや日本の映画製作関係者から見たら、本当にとんでもないと言われそうですが、外国だったら12時間以上は撮影しないとか、朝始めたら夕方の6、7時には終わるのだと思いますが、韓国では何でもありで、48時間以上ぶっ通しで撮影ということもあります。でも、それでもスタッフはあまり不満も言わずに撮影しています。韓国の現場の特長なのですが、結集力や団結力というものがすごく強いのです。

● 冒頭のシーン ギョンウのキャラクター

Q: 作品の冒頭のギョンウが初めて登場するシーンがとても好きです。学校の暗い廊下を、杖をリズミカルに突きながら、さっそうと歩いていって、教室に入って先生に堂々と「1時間だけ聞いてみて受講するかどうか決めます。障害者だから大目に見てください」という短いシーンで、ギョンウが障害に負けないで堂々と生活をしている人だということを印象的に伝えています。私はこの冒頭ですぐにギョンウが好きになりました。映画の冒頭のシーンなのでどのようにするか特に考えられたのではないでしょうか?
A: 私の初監督作品の冒頭のシーンなので本当にいろいろ考えました。私が描きたいと思ったことは指摘していただいた通りで、あそこで彼女のキャラクターを見せたいと思いました。普通、男性の方から別れを切り出されたら、女性はもう電話を聞いて泣くか、消極的な女性なら行動を起こさなかったと思いますが、彼女はわざわざ男性の所を訪ねて、別れの理由を尋ねています。そういう女性は数少ないと思うし、まして、視覚障害のある女性ならそういうことをしないと思いますが、ギョンウはそういうことをする女性なのだということを見せたいと思いました。そういうキャラクターを凝縮した形で短い時間の中で見せたいと思い、監督の度量も発揮しなくては、なんて思いましたが、いろんな仕掛けを欲張って出すと、かえって観客に好まれないと思い一気に見せました。私も短い1シーンの中に、その人のキャラクターがきちんと出ていたり、映画の中の核心が詰まっている映画というものは良い映画だと思います。

Q: イ・ウンジュさんがとても好きだと言われましたが、彼女自身も挑戦的だと監督が評価されましたが、そういう部分が彼女を好きな理由ですか?
A: いろいろなことに挑戦している部分も好きだし、とても良い方で、純粋な部分ももたれていて、今も時々連絡して、一緒に映画を見たり食事をしたりしていますが、本当にさばさばした性格の方です。彼女のもっている日常の姿も良くて、彼女だけがもっている独特の姿があって、普段の彼女もとても好きです。イ・ウンジュさんは堂々とした視覚障害者のコンセプトにとても合っていたと思います。それは、監督の演出力だけでは引き出せないもので、彼女の力が大きかったと思います。

● イ・ボムスに関して、キム監督の俳優への関わり方

Q: イ・ボムスさんは演技力に定評のある方だそうですが、この作品でもサンヒョンの純粋さやコミカルな要素を十分表現されていましたし、『オー!ブラザーズ』でも、表情だけで子供の内面を表現されているのに感動しました。彼はどのように役作りをされるのですか?
A: 韓国ではイ・ボムスさんは性格派俳優、コミカルな俳優として知られていて、観客も彼の名前を聞いただけで、とにかく笑う準備をして映画館に行くと思います。彼は私が何かこういう演技はどうですかとひとつ投げかけると、事前に準備をして役作りをして現場に来るタイプです。そして、現場でさらに監督と相談しながらキャラクターを作っていくというスタイルをもっています。監督側のことを言えば、監督にもいろいろなタイプがありますが、例えば、本読みをたくさんして、練習をたくさんして、人物を作っていく監督もいますが、私はあまりそういうことはしません。とにかく俳優さんに会って一緒に冗談を言い合って、会話をします。そうすれば、その俳優さんがどんなことに関心をもっていて、どんな人かわかります。だから、あえて作ろうとしなくても、この人はこんなキャラクターだから、今回はこんなキャラクターになるだろうということを考えながら作っていくのが私のやり方です。もうひとつ付け加えますと、キャスティングが決まったら、私は俳優さんとできるだけ、おいしい物を食べに行くようにします。そうするとうまくいきますね。

● 映画監督を志した動機

Q: 映画監督になろうとした動機は? 監督の情報を得るために韓国のサイトを検索して見ていたら「素敵に暮らしたくて映画監督を志した変わり者の監督」という記載がありましたが。
A: (その記載は)本当ですよ(笑)。もちろん映画もたくさん見ていますし、韓国では命を賭けなくては、映画監督にはなれないのです。好きな仕事をするためには苦労を克服するというのはみんな同じだと思いますが。私の場合は、ただ映画好きだったのが、作り手になりたいと、だんだん思うようになりました。そしてまた、素敵な生活もしたいと思っていまして、映画監督になれば、うまくいけば、きっとみんなから認めてもらえて、いいのではないかと思いました。苦労したおかげで何とかここまで来ることができました。


取材後記:知的で成熟した自分の考えをもつ若手監督

 ティーチインやインタビューで、映画監督という仕事をしている人が質問に答える場面で強く感じるのだが、質問者の聞きたいことをきちんと把握して、その質問に答えることができるというだけでなく、さらに質問者に意図してほしいことや、自分が主張したいことも含めて答えていくという姿勢を、どの監督さんも持っている。強い自己主張と、その主張の内容を客観的に説明できる言葉を持っているということが感じられるのだ。

 映画監督の仕事そのものが、そういう仕事なのだから当たり前と言えばそうかもしれないが、キム監督からもそういう強い主張を感じ、また知的で説得力ある言葉が使える方だという印象を受けた。

 お話で、特に興味深かったのは、役作りについて伺った時の、キム監督自身の俳優への関わり方を話された部分だ。

「俳優さんに会って一緒に冗談を言って会話をすれば、その俳優さんが、どんなことに関心をもっている、どんな人かわかる。だから、この人はこんなキャラクターだから、今回はこんなキャラクターになるだろうということを考えながら作っていく」

というのは、すごく成熟したやり方で、新人の監督からこんな話が出てくるとは予測していなかった。助監督時代にいろいろご苦労なさったようで、そういう経験も含めての発言だったと思うが、今後のさらなる活躍が期待される人材だ。


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