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映画の中の南と北
−『ブラザーフッド』と『シルミド/SILMIDO』−

鄭美恵(Dalnara)
2004/6/28受領



 2004年6月に公開されたふたつの映画『シルミド/SILMIDO』『ブラザーフッド』を観ると、憎しみ合い戦うことをやめない人間の業を再確認すると同時に、今も続く南北分断と朝鮮半島の歴史をつよく意識することになる。ここではふたつの映画の背景にある史実や社会の実情をまじえながら映画の紹介をしたい。

 時間の流れに沿っていけば1950年からはじまった朝鮮戦争を描いた『ブラザーフッド』があり、その南北が対峙する歴史のなかの分断がもたらした、さまざまな悲劇のひとつを描いたのが『シルミド/SILMIDO』と言える。

● 『ブラザーフッド』の背景

 南北分断の歴史を振り返れば、1945年の日本の敗戦により朝鮮半島が植民地支配から解放された時点から始まる。第2次世界大戦の戦勝国のアメリカ、イギリス、旧ソ連は外相会議を行い1945年12月28日信託統治案をモスクワで決議した。信託統治案の主な4項目のうちのひとつは「米英中ソは韓国を最大5年間、共同管理(信託統治)する」というもので、1945年の解放後、独立を望んでいた朝鮮半島の市民たちにとって、信託統治案は失望でしかなかった。その後南北統一政府の樹立、あるいは韓国だけでも早い時期に単独政府樹立をするための運動が半島でくりひろげられた。国際連合は1947年11月14日には南北総選挙による韓国統一案を可決していたが、人口が少ない北朝鮮が選挙で不利になるとしてソ連が反対する。そして1948年3月には国連総会は南北総選挙でなく韓国独自の選挙実施を決議したため、南北分断は既定事実となった。こうして朝鮮半島はアメリカ・ソ連・中国をはじめとする超大国間の冷戦構造に組み込まれた。1948年8月15日に北緯38度線南には大韓民国が樹立され、同年9月9日、38度線北には朝鮮民主主義人民共和国が樹立され、現在まで南北分断は続く。

 韓国はアメリカの安全保障のもと米国式資本主義国家を体現しようとし、北朝鮮はソ連や中国の後ろ盾でソ連式社会主義国家を実現しようとしていた。米ソ超大国の対立と冷戦構造がそのまま朝鮮半島に反映され、イデオロギーを異にする同じ民族同士の戦争、朝鮮戦争が起こった。

 『ブラザーフッド』で描かれるように、戦争は1950年6月25日、日曜日の未明突然始まった。3日間でソウルは陥落し市民は南へ逃げまどう。主人公のジンソク(ウォンビン)は大学進学をひかえる高校生だが満18歳だったために徴兵され、兄ジンテ(チャン・ドンゴン)とともに戦場に送られる。映画を観ると、戦争が、兄弟愛や家族を奪われた憎しみや家族を守りたいという個人的な思いを、共産主義だ、帝国主義だというイデオロギー思想に転嫁して戦いに駆り立て個人を踊らせている、ということが伝わってくる。今夏韓国でも公開される予定だったピカソの『朝鮮の虐殺(Massacre in Korea)』という絵画がある。朝鮮戦争の市民虐殺をテーマにピカソが1951年に描いた作品である。北朝鮮の黄海道信川(シンチョン)郡で米軍あるいは反共産主義集団に市民が虐殺される場面が描かれているという。映画の中にも反共産主義集団は登場し、韓国対北朝鮮の戦争というだけではなく、市民の間ではイデオロギーが憎しみと人殺しの理由になり得ていたことを考えさせられる。

 映画が製作された2003年は休戦協定からちょうど50年後にあたる。朝鮮戦争は終戦でもなく停戦でもなく、いまだ休戦状態にある韓国では成年男子には兵役の義務がある(休戦は戦争行動がまだ終結せず戦闘行為が停止されているだけの状態)。カン・ジェギュ監督は、映画の撮影で俳優が銃を取り扱うことについては俳優に兵役経験者がいることもあり適応は早いだろう、とさほど心配はしていなかったと言う。それよりも、戦闘シーンの撮影現場内あちらこちらで爆撃・爆発が起こる中での演技にたいへんな危険が伴い、神経をつかったということを監督、出演俳優共々語っていた。

 1951年7月11日、国連軍、北朝鮮人民軍、中国義勇軍の間で休戦交渉が開始される。1953年7月27日、国連軍代表・アメリカ合衆国、共産側代表・北朝鮮と中国が休戦協定に署名、韓国は休戦協定に署名していない。この休戦協定で軍事境界線(休戦ライン)が38度線に定められた。朝鮮戦争の犠牲者は南北あわせておよそ460万人(うち軍関係者は約240万人とされる)。都市部の被害も著しく、南の農業生産力は60%に、工業生産力は30%に減少し、北の工業生産力は半減したという。

 南北の対峙や朝鮮戦争をテーマとしない映画の設定にも朝鮮戦争の傷跡が今も残っていることをうかがわせるものがある。例えば映画『浮気な家族』では、主人公の夫が弁護士として朝鮮戦争の遺骨発掘に立ち会う場面がある。また、その父親は朝鮮戦争で失った家族を悼み悲しみ続けている。『ブラザーフッド』の冒頭に登場する朝鮮戦争の遺品や遺骨の身元確認の場面と同じような境遇の遺族たち、年老いた家族たちの存在を強く意識した。

● 『シルミド/SILMIDO』の時代

 2002年FIFA(サッカー)ワールドカップで韓国チームのユニフォームは赤だった。そしてソウルの市庁前を埋め尽くしたサポーターはみな赤いシャツを着ていた。朝鮮戦争が休戦してから最近まで韓国では共産主義者や親北(朝鮮)派を「パルゲンイ(赤/赤い奴)」と呼び、サッカー・ワールドカップの赤とは異なったイメージ、否定的なイメージを誰もが「赤」という色に対して持っていた。映画『シルミド/SILMIDO』には、冷戦下南北の対立が深刻だったころが描かれており、赤が象徴するものが明らかに2002年以降とは異なっていたことを映画から受け止めることになるだろう。

 きっかけは1968年1月21日に青瓦台(韓国大統領府)襲撃事件が発生したことによる。北朝鮮人民軍特殊部隊31人が青瓦台付近まで侵入、韓国警官隊との銃撃戦で北朝鮮側は27人が射殺、3人逃亡、1人逮捕という事態になった。韓国側の死者は68人だった。この青瓦台襲撃事件を契機に1968年4月に「684部隊」創設。31人の訓練兵が、「任務を果たせば国の英雄になれる」として実尾島(シルミド)に集められる。部隊名は(19)68年4月の創設年月からとられた。684部隊のミッションは北朝鮮国内に潜入し、金日成を暗殺することだった。ただし、31人が訓練を続ける間、米国プエブロ号の人質が北朝鮮にいたため潜入暗殺指令が実際に下ることはなかったとされる。

 こうして実尾島で、チェ准尉(アン・ソンギ)、チョ中士(ホ・ジュノ)のもとカン・インチャン(ソル・ギョング)、ハン・サンピル(チョン・ジェヨン)ら訓練兵の厳しい訓練の日々が始まった・・・

 映画の中で訓練兵が北朝鮮の革命賛歌『赤旗の歌』を歌うシーンがある。北朝鮮国内に潜入後発見された場合に人民軍兵士であることを装うため、本来タブーである北朝鮮の歌、「赤」の歌を歌っている。実尾島での訓練がミッション遂行のための戦闘力向上だけではなく北朝鮮軍歌を学習していたことを象徴する場面である。証言によると、韓国軍では「回れ右」のところを北朝鮮式に「回れ左」として訓練することもあったそうだ。

 韓国は国民総背番号制で、ID番号となる12桁から13桁の住民登録番号をひとりずつ持っている。684部隊の訓練兵は、死刑を執行されたとして、住民登録番号はすでに抹消されているという設定だった。国家のミッションやイデオロギーを守るためには国民のアイデンティティや人権がないがしろにされていた歴史を意識させる映画の設定だ。あるいは、南の韓国だけでなく北朝鮮も、そして東西ドイツや米国、ソ連も冷戦時代行われていたであろうと推測させる国家と個人の普遍的な関係、支配と被支配が描かれている。「そういう人間が出てくることが現実とならないように願っている」という記者会見でのホ・ジュノの言葉をあらためて噛みしめるようになる。

 『ブラザーフッド』では国軍(韓国側)が共和国側の捕虜同士を戦わせ、『シルミド/SILMIDO』で訓練兵同士が闘わさせられる場面には人間の業を感じた。古代ローマ帝国で行われていた奴隷同士の戦いを想起させ、人間の愚かな行為が2000年以上続いていることに思い至るからだ。そして、戦争やイデオロギーの対立に巻き込まれる人間の非力さと同時に兄弟愛、家族愛、同士愛のつよさが対比して描かれているふたつの映画を観て、人類に対して、そういった人間の姿に希望を持ってよいのか絶望していいのかわからなくなった。戦争や憎しみ争う映画が毎年のように作られても地球上で戦争は終わらない。ただ、映画を観て人間は戦争に勝てない、戦争は人間を無残に痛めつけるだけだ、という反戦の気持ちがあらためて強くなることを願うばかりである。


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